デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業(ユース):2010年度採択プロジェクト概要(堀PJ)

1.担当プロジェクトマネージャー

後藤 真孝(産業技術総合研究所 情報技術研究部門 メディアインタラクション研究グループ長)

2.採択者氏名

  • チーフクリエータ
    堀 竜慈(筑波大学大学院)

  • コクリエータ
    なし

3.採択金額

  • 1,792,000円

4.テーマ名

  • 指スポ!:タッチパネル操作を拡張するスポイト操作の開発

5.関連Webサイト

  • なし

6.申請テーマ概要

近年、手や指を用いるタッチパネル操作(以後はタッチパネル操作と記述する) に新たな操作を追加する開発、研究が行われている。これらにより、従来のタッチパネル操作において新しい操作が実現され、使用者の快適なタッチパネルの利用を大きく促進している。本提案と関連する代表的な操作に、iPhoneやiPadにも採用されているマルチタッチ操作が挙げられる。また、この他にタッチパネルへの指の近接を用いた操作、指を傾ける動作を用いた操作が挙げられる。

これらに対し、従来のタッチパネル操作に“スポイト操作”を追加し、新しいタッチパネル操作の開発及び、その新しいタッチパネル操作を効果的に利用したアプリケーションの開発を行う。

スポイト操作は、押し出し操作(以下push out)及び吸い上げ操作(以下pump up)の総称である。タッチパネル面に触れた指に、同じ手の親指を当てた状態で、親指を指先方向に摩擦する動作をpush out と呼ぶ。また、タッチパネル面に触れた指に、同じ手の親指を当てた状態で、親指を指の根本方向に摩擦する動作をpump up と呼ぶ。

スポイト操作の特筆すべき特徴は、スポイト操作の動作が指を対象とする動作であるため、タッチパネル平面上の操作から独立している点である。これにより、タッチパネル平面のみを動作の対象としてきた従来のタッチパネル操作と、容易に共存することができる。また、スポイト操作には、この他に以下のような特徴がある。

  • 押し出すまたは吸い上げる操作感
  • 奥行き方向の操作感
  • 指の摩擦移動距離をパラメータに利用可能

既存のタッチパネル操作では得ることができなかった、これらのユーザ体験を活用することにより、従来成しえなかった快適なタッチパネル操作を実現できる。

また、スポイト操作を検出するためのデバイスとしては、タッチパネル側に取り付けたマイクのみを考えている。これにより、以下のようなメリットを享受することができる。

  • 使用者はデバイスを装着することなくスポイト操作を行うことができる。
  • 数個のマイクを用いて拡張するので、実装コストが低い。

提案では、このスポイト操作を検出するタッチパネルシステムの開発、及びスポイト操作の良さを示すアプリケーションの開発を行う。

7.採択理由

人差し指を伸ばして先端をタッチパネル面に固定したまま、その指の側面を親指でこすると、こする方向に応じて、タッチパネル面に伝わる摩擦音が変わる。この現象を発見してスポイト操作と名付け、押し出しと吸い上げの2状態を異なるインタフェースの機能に割り当てるインタラクション技法の提案である。音で指の動きを識別しようという斬新な発想であり、集音した音響信号の機械学習によって高い精度で識別し、様々な応用が可能であることを是非実証して欲しい。

堀君は、耳に指を入れながら試行錯誤することでこの現象を自分で発見しており、それをインタラクション技法として活用しようというセンスと意気込みを高く評価した。人差し指上のタッチパネル接地箇所と摩擦箇所との距離に応じて、摩擦音の高さが変わるのがおそらく原理と思われるが、だとすれば押し出しと吸い上げ以外にも操作を増やせないかも是非検討して欲しい。さらに、精度向上の試行錯誤、API化、キラーアプリの実装等、実用性をいかに高められるかが大きな挑戦であり、堀君の活躍が楽しみである。