デジタル人材の育成
首藤 一幸PM(東京工業大学 大学院情報理工学研究科 数理・計算科学専攻 准教授)
チーフクリエータ
吉本 英樹(東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻)
コクリエータ
なし
飛行船は古くから広告をはじめとした空中メディアとして利用されており、その市場規模は数百億円にのぼる。飛行船メディアの盛況は、多くの人の視線を集める空中メディアが非常に訴求力のある強力なメディアであることと、飛行船のさまざまな特色が空中メディアにとって最適であることを示している。また一方で、人々の趣味の範疇においても飛行船の人気は急上昇している。この数年の間にオープンソースの電子基板や工作キットが世界中でDIY(Do It Yourself/日曜工作)ブームをもたらしており、その中でDIY飛行船のプロジェクトが幾つも登場し、キットも人気を博している。しかしそれらの多くはラジコン飛行船型か、自動操縦を組み込んだペットロボット型に二分でき、DIY飛行船を使ったアプリケーションはそれほど多様では無いのが現実である。
これらの2つの流れ-空中メディアとDIY飛行船-から、本件では、DIYで誰もが簡単に設計・製作でき、かつラジコンやペットロボットとしてだけではなく表現媒体としてパフォーマンスに利用できるような飛行船プラットフォームを提案し、それを実現するソフトウェア群と電子基板、および飛行船の機体の製作に必要なリソースをオープンソースとして提供することを目的とする。具体的には、LED光源を備えた飛行船の設計、飛行船の制御プログラム、さまざまなユーザーインターフェースへの対応とビジュアルな設計環境の構築、そしてオープンソースとして公開、という4つのトピックから提案を構成している。本提案を通じて、飛行船のメディアとしての適性と、昨今のDIY飛行体ブームの重なりに、新しいイノベーションを見出すことを期待している。
近年のDIYブームでホビー飛行船の人気が高まっていることを背景に、表現メディアとして様々なアプリケーションに利用できる飛行船を開発し、オープンソースとして提供しようという提案である。既にフルカラーLED光源を備えた飛行船の光や動きをコントロールする基本部分はできているので、多くの人が手軽に拡張性の高い機体を開発でき、その形状差に依存しない汎用制御が可能な環境を的確に提供していくことが重要となる。そうした普及活動によって社会への定着を図ると共に、是非、これまで想定していなかった、空中メディアとしての飛行船の新たな可能性を探求して欲しい。
吉本君は、既に実績や経験も豊富であり、本提案書の「世の中に広く配布して、多くの人々に実際に使ってもらって、空中エンターテイメントのイノベーションを目指す」、「真にオープンソースで世界中で利用されるに耐えうるレベルにまで昇華させたい」という意気込みを高く評価した。吉本君にとって単に公開することはゴールではなく、やるからには広く使われなければ意味がない。どこまで達成してくれるのか、その航空宇宙工学専攻の技術力に裏付けされた意気込みに大いに期待したい。