デジタル人材の育成
首藤 一幸(東京工業大学 大学院情報理工学研究科 数理・計算科学専攻 准教授)
チーフクリエータ
堀内 公平(電気通信大学 人間コミュニケーション学科)
コクリエータ
なし
最近、「クラウドコンピューティング」という言葉がその勢いを増している。
クラウドコンピューティングとは、ベンダーのデータセンターからインターネット(クラウド)を通して、アプリケーションおよびハードウェア、システムをサービスとして提供する形態のことである。
クラウドコンピューティングによってユーザーが蒙る主要な恩恵は以下の3つである。
場所に捉われずに同じ環境を再現・利用できる
初期のコミットメントなしに必要なとき・必要な分だけのリソースを利用できる
仮想的にリソース(CPU、ストレージなど)が無制限にあるかのように振る舞える
だがクラウドコンピューティングは同時にいくつかの問題も孕んでいる。その中でも特に重要なのはセキュリティ・プライバシーに関する問題である。
例えばクラウドの最も基本的な機能の一つである「ストレージサービス」について、クラウド内の情報はその安全が保障されているわけではない。
可能性を挙げれば、クラウドベンダーのセキュリティが甘かったために情報が漏洩してしまったり、法的な措置によって個人情報が公開されてしまったり、ベンダーが自社の経営戦略に個人情報をリソースとして(秘密裏に)用いたりなどということが考えられる。
そのような危惧から、企業の間ではパブリッククラウド(通常のクラウドコンピューティング)に自社の機密性の高い情報を預けること敬遠し、プライベートクラウド(自社内にクラウドを構築する形態)を選択するケースも増えつつある。
そこで今回、『複数ベンダーのクラウドを用いた秘密分散ストレージ「MyCloud」』を提案する。これは、ベンダーのパブリッククラウドを並列化することにより、結果としてユーザはどのベンダーにも依存せずに済み、さらに通常より高い信頼性と機密性を全てのユーザに提供する、クラウドコンピューティングの新形態である。
畢竟、この技術が実現することにより、ユーザは自身のデータが喪失したり漏洩したりする不安から解放されると同時に、クラウドのメリットを余すことなく自由に享受することができるようになるだろう。
ネットワークのあちら側にあるストレージサービス(クラウドの一形態)を利用する際、ファイルの暗号化、および複数サービスへの分散を行うという提案。暗号化によってプライバシーを確保し、適切な符号化&分散によって信頼性を確保し、vendor lock-inを回避する。
サービス提供者に預けていいのか?自分の身は自分で守らねば、という自身の問題意識から発した提案。こうした高い問題意識、また、自身の向上、腕や成果を世に問うことへの情熱がものすごい。
提案内容自体は、言ってしまえば既存技術の組み合わせなので、このくらい腕に覚えがある提案者ならさっさと作ってしまうのではないか。一度完成させた後にも様々な研究・開発が広がっているテーマなので、提案内容の先に(も)期待する。また、人に使ってもらおうという時点で苦労することが予想されるが、そこで学べることも多いだろう。