デジタル人材の育成
首藤 一幸(東京工業大学 大学院情報理工学研究科 数理・計算科学専攻 准教授)
チーフクリエータ
落合 陽一(筑波大学 情報学群情報メディア創成学類)
コクリエータ
なし
電気は目に見えない。当たり前のことであるが、そのせいで理科離れ、ひいては、工学離れが社会全体で加速している。さらに、その結果、ブラックボックス化したテクノロジーのせいで産業基盤が崩れかけている。
そこで、私は、電気を見せるためのデバイス(UI)とそれを運用するためのソフトウェアとミドルウェアを開発し、教育環境における理解の向上と、研究レベル、試作レベルでのデバッグを容易にするためのプロジェクトを行いたい。
具体的には、回路中に現れる電圧をフルカラーLEDの色で表現するブレッドボードと、それを各制御点でAD変換したりリレー接続したりするためのマイクロコントローラ用ミドルウェア、さらに、メンテナンスや設定、調整を行えるソフトウェアを開発することが目的である。
この環境があれば、電気回路の開発に必要な道具類が大幅に少なくて済むことのみならず、教育環境への導入も、ラップトップコンピュータとこのブレッドボードのみで済むので非常に簡単になる。
また、学習塾等でも理解促進のために実験を行うことが非常に容易になり、総じて、教育機器のビジネスとしての母体は十分整っていると認識している。また、近年盛んに行われるようになってきた、フィジカルコンピューティングに関するワークショップなどでも需要があることが分かっている。
私はこの一連のプロジェクトによってなる、新たなエレクトロニクスを、Visible Electronicsと名付け、今までは計算ベースで取っ付きにくかった電気回路とそれをベースとした工学的分野に関して、手で触れる、目で見て分かる、という直感的な環境を持ち込みたい。
そして広く一般に、また、未来を担う子ども達に、工学的なモノ作りの面白さを喚起し、再び社会に技術のベースを取り戻したいと思う。
電気は目に見えない、しかし、そのイメージが見える、それが当たり前の社会になれば本望である。
(注釈)デバイスの機構、機能に関して、特許出願中
電子回路を作る際に使う、IC、抵抗、コンデンサなどを差し込むはんだ付け不要の基盤をブレッドボードという。この提案は、指でなぞることで配線でき、配線上の電圧をLED等で可視化できるブレッドボードを作るという提案である。その目的は「直感的なもの作り」による教育、興味の喚起による理科離れの阻止であり、提案には、学生実験などでの試用も含む。
小規模なものは動作しており、実装可能性の確認はできている。提案書類でもオーディションでも、提案内容に対するものすごい情熱を感じさせてくれた。教育現場で試せるだけの数を揃えようとすると、とたんに、未踏ユースの予算でも厳しいものとなるが、提案者は、それでも、何かの形で世に問わずにはいられないだろう。それも含めて大変期待している。