社会・産業のデジタル変革

3.ブロックチェーンの特性から理解する社会実装の展望 コンソーシアム内での効率化・コスト削減

公開日:2020年2月20日

最終更新日:2023年7月20日

独立行政法人情報処理推進機構
総務企画部 調査分析室
執筆:安田 央奈 2020年2月20日

効率化・コスト削減から高付加価値創出へ

ブロックチェーンはビジネスにおいて戦略的に重要な技術として選ばれ始めている。ブロックチェーンは中央管理者無しに信頼性の高い記録によって取引を成立させることができる特性を持っており、これによって契約やワークフローの効率化・コスト削減効果が期待できる。そして、普及の段階を経て、例えば競争領域での競合他社間の協調のような新たなデータ共有の形といった高付加価値を創出していく。

3. コンソーシアム内での効率化・コスト削減

ブロックチェーンの特性が組み合わさると、立場の異なる関係者間を何度も行き来するような契約やワークフローをオンラインで完結可能としていくことが考えられる。これによってまず期待できるのがプロセスの効率化・コスト削減である。
IBMとMaerskが共同開発した国際貿易におけるブロックチェーンプラットフォーム「TradeLens」は輸出入におけるプロセスをオンラインのみで完結させるものであり、効率化・コスト削減をもたらしている。輸出入の各種申告や各種許可に船会社や港湾、税関、保険会社など多くの関係者が書類作成を要する。国際貿易における申請や請求の手続きは主に紙ベースで作業されており、申請内容や記載にミスがあれば書類が作成者まで遡って戻されてしまう煩雑なプロセスとなっている。「TradeLens」はこれら書類の提出・更新・閲覧をブロックチェーン上で実行可能にするものであり、ベータ・プログラムでリリースされた付属のスマートコントラクトモジュール「ClearWay」は、必要な貿易書類を受理すると自動的に輸出入許可を出すことができる (脚注4)。
オンラインでの契約完結と、その契約記録が信頼できる状態で維持できるというブロックチェーンの効率化・コスト削減の可能性には、煩雑な業務プロセスを抱える各業界が期待を込めて課題解決に取り組んでいる。IBMは他にも、大量廃棄や偽装、衛生面の安全性などの問題によりプロセスが複雑化している食品サプライチェーンへの「IBM Food Trust」、Lenovoやノキアがネットワークに参加するサプライヤー管理・検証などのコストを削減する目的の「Trust Your Supplier」のサービス提供を始めている。
ブロックチェーン実装に伴う期待が効率化やコスト削減となっているのは、その成果を測りやすいことに加えて、限られたネットワークの中でも成果が出やすいという点にもある。「TradeLens」のプラットフォームであるHyperledger Fabricはエンタープライズ向けブロックチェーンとして適切な可視性を有しながら、データ共有を限られた参加者の中に限定する機能を有しており、コンソーシアムのような限られた関係者間でも効率化・コスト削減の効果が期待できている。ブロックチェーンの社会実装は、まずはプライベートチェーンを用いた企業間取引や限られたコンソーシアム内で効率化・コスト削減の効果をもたらすところから進みつつある。

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  • 2023年7月20日

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