デジタル人材の育成
筧 捷彦(早稲田大学 理工学術院基幹理工学部 情報理工学科 教授)
チーフクリエータ
濱名 克季(筑波大学大学院 博士前期課程システム情報工学研究科知能機能システム専攻)
コクリエータ
なし
本プロジェクトでは、テーブル上でフィギュアを操作して物語のシーンを自分好みに選択し、様々な物語が体験できるシステム「テーブルトップストーリーリミクサ」を開発する。ユーザは3DのCG映像で提示される物語の中で社会の作法や行儀、人間関係の変化や教訓を学ぶことができる。
本システムは物語制御エンジン(ストーリーエンジン)、登場人物やアイテムの操作フィギュア(フィジカルキャラクタ)、および映像ディスプレイ付き操作入力テーブル(テーブルトップインタフェース;TTI)と直立のシアター画面(ストーリーモニタ)から構成される。
テーブルトップインタフェースに提示される映像は3D物語世界の地面に相当し、その場所でユーザはフィジカルキャラクタの位置や向き、ポーズ決め行動の入力を行う。その行動入力操作によって、システムはテンプレートシーンとその操作を合成し、正面にあるストーリーモニタに物語進行を提示する。
システムとの協調作業の結果、規定のシーンエンドを迎えると、入力した内容がストーリーモニタで再生される。ユーザはテンプレートにあわせて、単純なYes/Noの選択肢を選択するのではなく、フィジカルキャラクタの操作を介した自由な選択を行うことで物語を進行させる。
物語は大まかなストーリーラインがあり複数の結末が用意されている。ユーザの選択によりストーリーラインが様々に変化し最終的に結末に到達する設計とする。これは、ストーリーというものが、小さなシーンやエピソードの連結でできているという考えに基づいたものである。例えば主人公が誰かに会いに行くが、ユーザはAさんに会わせるかBさんに会わせるかが選択できるとする。その時、AかBかどちらかによってシーンの分岐が起こり、ストーリーに変化が生じる。ユーザはその選択とストーリー変化、エンディングの因果関係を、ストーリーを創作する過程で学ぶことができる。
「感性」系のプロジェクト。ミニチュアをテーブルトップに並べて、それを動かすことで、ストーリーの展開を直接にコントロールできるようにするというものである。
提案のプロジェクト自身が研究室での大きなテーマの一部であるだけに、クリエータ自身の特徴と能力がどこまで伸ばせるのかには不安が残る。加えて、テーブルトップでミニチュアを人間が動かしたときに、コンピュータ中においてあるストーリーとのインタラクションをどのように行うか、という肝心の点に関して、提案内容は相当に荒削りなものである。
それでも、オーディションでのプレゼンテーションと質疑応答は、クリエータがテーブルトップでのミニチュアを使ったインタフェースそのものに対する情熱に溢れ、かつ、大きなパワーを秘めていることを示してくれた。その情熱とパワーを発揮して、テーブルトップのミニチュアを使ったストーリー展開コントロールの本質に迫るシステムを作り上げてくれることを期待しての採択である。