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5分でわかるリザバーコンピューティング

未踏ターゲット事業のターゲット分野のひとつ、リザバーコンピューティング(reservoir computing)は、時系列データ処理に適したニューラルネットワークの一種として注目されています。その特徴をご紹介します。

リザバーコンピューティングの特徴

  • 少量データ:深層学習に比べて、少ないデータ量で学習が可能です。

  • 時系列データ:データを時系列で認識し、学習することができます。

  • 高速学習:短時間で学習できます。再学習も容易です。

  • 高効率:エネルギー効率がよく、電気の消費量が抑えられます。

コンピューターの限界を超える新たな計算技術

現代のコンピューターの限界を超えるべく、新たな計算技術を模索するなかで、自然現象や生物の仕組みを模倣した計算技術が生まれてきました。リザバーコンピューティングもそのひとつです。

波紋で計算できる理由

水面に広がる「波紋」の形は、投げ入れた石の重さや形(入力信号)によって決まります。次々に石を投げれば波紋同士が干渉し、複雑な波紋の形になります。波紋は時間変化を誇張した表現なので、入力信号の特徴を読み出しやすくなり、分類に使いやすくなります。リザバーコンピューティングは、この原理を計算に利用しています。

出典:田中, 電子情報通信学会誌, 2019

高速・低コストな理由

深層学習では大量の学習データをもとに非線形モデルを使って中間層を調整しますが、リザバーコンピューティングの学習は中間層にあたるリザバー部の調整は行いません。読み出し部分のみの学習、かつ線形モデルを使うため、高速・低コストで学習が行えます。

出典:田中, 映像情報メディア学会誌, 2020

光や電子を使う物理リザバーも

リザバー部は、物理現象を使って実装することも可能です。光や電子、スピン、流体、磁性体、機械、ナノ分子、培養細胞など、さまざまな媒質・基質を利用する物理リザバーが提案されています。

幅広い応用分野

リザバーコンピューティングの特徴を生かした、幅広い分野での応用が期待されています。

  • (例)
  • ■時系列データ

    脳波や心拍数などの変化から異常を判断し、疾病を割り出すことができるようになる可能性があります。

  • ■高効率

    省エネルギーで動作させられるので、環境的な制約を受けづらく、これまで設置できなかった場所でも使用が可能になります。例えば温度が頻繁に変わる環境下で、データをセンシングしながら学習をしなおしていくことが可能です。

  • ■少量データ・高速学習

    患者数が少ない疾病の場合、一般的な深層学習では学習を行うことができませんでしたが、少数の患者からのデータでも学習が可能になります。

リザバーコンピューティングが重要な役割を果たす可能性のあるアプリケーション領域
この図は、リザバーコンピューティングが重要な役割を果たす可能性のある6つのアプリケーション領域を六角形レイアウトで示したものです。 中央には「効率エネルギー」「超低消費電力」「高い汎用性」などリザバーコンピューティングの特徴が円形に配置されている。 六角形の周囲には6つの領域が配置されている。 1つ目は「6G」で、ダイナミック・スペクトラム共有、MIMOシンボル検出、チャネル推定などを記載。 2つ目は「次世代光ネットワーク」で、光センサ・レーザー制御、ファイバネットワーク制御など。 3つ目は「IoT」で、不正検知、ダイナミックスペクトラムアクセス、アクティブ・スイッチング制御など。 4つ目は「グリーンデータセンター」で、クラウドワークロード予測、スマート温度制御、攻撃検知など。 5つ目は「インテリジェント・ロボット」で、ロボット制御、ナビゲーション、環境認識など。 6つ目は「科学とデジタルツインのためのAI」で、量子科学や材料科学の予測、ロボティクスやシミュレーション向けAIなどが記載されている。

ネイチャーコミュニケーションズに掲載された論文では、リザバーコンピューティングが重要な役割を担う分野の例が記載されています。 出典:リザバー計算の応用に関する展望(Yan et al., ‘Emerging opportunities and challenges for the future of reservoir computing,’ Nature Communications, 2024)(IPAにて翻訳)

研究が進み応用フェーズへ

リザバーコンピューティングの研究が急速に進み、深層学習に比べて優れた点があることが次々と明らかになってきました。今まさに、研究を超えて、実用的な問題への応用が始まりつつあります。

リザバーコンピューティング関係の論文数のグラフ
この図は、リザバーコンピューティングに関する論文数の推移を示す棒グラフです。 横軸は 2014 年から 2024 年までの年、縦軸は論文数を表す。 棒の高さから、論文数は年々増加していることがわかる。 2014 年は約 400 件、2016 年は約 500 件、2018 年は約 900 件、 2019 年は約 1300 件、2020 年は約 1600 件、2021 年は約 2000 件、 2022 年は約 2600 件、2023 年に約 3300 件でピークとなり、 2024 年はやや減少して約 2800 件となっている。 全体として、2014 年から 10 年間で論文数は大幅に増加している。

リザバーコンピューティングに関する論文数は急増しています。

リザバーコンピューティングの活用にチャレンジしてみませんか?

IPAの未踏ターゲット事業では、リザバーコンピューティング技術の活用を目指す方からの提案を募集しています。
リザバーコンピューティング分野の第一人者がプロジェクトマネージャーを務め、採択から修了までの約9か月間、伴走支援します。
2026年度の応募締切は2026年3月5日(木曜日)12時00分(正午)です。
詳細は未踏ターゲット事業の公募情報ページをご覧ください。

未踏ターゲット事業プロジェクトマネージャーに聞きました

「リザバーコンピューティングの魅力を教えてください」

香取 勇一PM 公立はこだて未来大学システム情報科学部 複雑系知能学科 教授

予測やパターン認識、ロボット制御といった多様な応用に適しており、その応用範囲はますます拡大しています。物理リザバーとしての可能性にも期待が寄せられています。計算資源としての新たな物理系の活用は、情報処理技術に新しい視点をもたらしています。

河合 祐司PM 大阪大学 先導的学際研究機構 准教授

リザバーのダイナミクスは、生物の脳と共通する可能性があるとして研究が進んでいます。物理リザバーコンピューティングによって高速化・高効率化が実現し、様々な分野での応用にも期待できます。大きな可能性を持つ技術であるところが魅力です。

田中 剛平PM 名古屋工業大学 学院工学研究科 知能情報プログラム 教授

リザバーコンピューティングは、自然・生物計算、新規計算ハードウェア、脳科学など幅広い分野に関わる技術で、学際的であるところが面白い点です。理論・アルゴリズム・応用・実装を横断する見通しを持てるところも魅力です。

未踏ターゲット事業の公募情報ページ

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