サプライチェーン・
サイバーセキュリティ・コンソーシアム

株式会社コムテックス 小林正明 Kobayashi Masaaki

  • 写真:小林社長
    小林正明(こばやし・まさあき)
    株式会社コムテックス 社長取締役
    1818年(文政元年)創業の建設資材・専門工事の総合商社8代目社長。1976年に大学を卒業後、大手総合商社で鋼管輸出を担当し、その間、2年間メキシコに駐在(研修生)。1984年(昭和58年)に当社に入社し現在に至る。

最重要のデータは、サーバ、クラウド、オフラインの3か所で保管

御社は建築・土木関係の会社ですが、業界のデジタル化はどのような状況ですか?

小林 当社の創業は1818年ですので、200年近い歴史がありますが、もともとは長い間、鍋、釜、包丁などの金物を町の金物店に卸す商売をしていました。しかし、昭和30年代後半から40年代にかけてスーパーマーケットやホームセンターが登場し、金物店が淘汰されはじめましたので、このまま商売を続けていては会社が存続できないと、建設分野にシフトしました。それ以来、形鋼・鋼板といった鋼材をはじめ建築金物、屋根・外壁材、土木鉄構製品など各種建材を販売しています。また、その後、販売だけでなく工事業にも参入し、屋根・外壁、サッシ、ガードレール、基礎建設工事など建築・土木工事も手がけるようになりました。現在、建材の販売が全売上の65%、工事が35%となっています。

建設業界は(建設業界に限らないと思いますが)標準化が苦手なため、デジタル化を進めようと試みてはいるものの、効果は十分に上がっていないように思います。CAD*1 や最近ではドローンの活用など、個別の局面では大きな技術の進歩が見られるのは確かです。しかし、標準化が進まないため、電子商取引にしても各社の個別のシステムそれぞれに対応しなければならず、合理化が進まないまま非生産的な作業が多く残っています。紙も減るどころか増える一方です。ただ、これは1社だけでどうかなる課題ではありませんので、それはそれとして当社なりに必要なデジタル化は進めています。

写真:小林社長がお話ししている様子 1枚目

デジタル化を進めれば、コンピュータウイルスの脅威にさらされるリスクも高まりますが、サイバーセキュリティ対策はどのようにされていますか? また、セキュリティ対策にかける費用はどのように考えておられますか?

小林 まず、社内のパソコンや社員に支給しているスマートフォンやタブレットにはセキュリティソフトを入れて、メールなどの外部からのアクセスをフィルタリングしています。スマートフォンは紛失した場合、遠隔でロックをかけ、初期化、データ削除できるようにしています。さらにUTM*2 を導入しており、社内ネットワークの出入口を監視しています。一度、パソコン1台が感染したことがあり、そのときはパソコンを止めてネットワークから切り離し、復旧することで被害は生じませんでした。もっとも、場合によっては、復旧するよりもパソコンを買い替えたほうが安くつくこともあると思います。そのために、サイバー保険にも加入しています。自社のトラブルで取引先などに損害を与えた際の「賠償損害保険」と、社内システムの復旧費用や再発防止費用などに対する「費用損害補償」が付いています。

当社は、サイバーセキュリティ対策も含めて情報システムやハード、ネットワークの運営を営業支援部で行っています。余談ですが、以前は事務管理部という部署名でしたが「管理」という言葉は上から目線なので、「支援」という言葉に変更しました。その営業支援部でIT関連情報を調べたり、私が関連のセミナーで情報を得たりして、セキュリティ対策を立てています。その際に、セキュリティ対策の費用がどのくらいが適切なのかは考えていません。世間並みの水準を確保するために、必要な対策を取っています。いずれにしても、セキュリティソフト、UTM、サイバー保険をあわせても大きな金額ではありません。

取引先ともデータのやり取りをされていらっしゃるでしょうから、取引先のサイバーセキュリティ対策も気になると思いますが……。

小林 はい、データのやり取りは当然しています。発注書や見積書はメールに添付していますし、CADデータなど大容量のファイルは会社指定のアプリで送信しています。また、大手建設会社との取引はEDI*3 が増えています。おっしゃるとおり、取引先がサイバー攻撃を受けて当社に被害が及ぶ可能性はあります。しかし、当社には手の打ちようがありませんから関心は向けていません。取引先の中でも名の通った大手建設会社や大手商社は、当社よりも堅牢な対策を立てられているはずですので、任せておけばいいと考えています。問題は、外注先の職人さんたちですが、コストのかかる対策をすすめることはできませんし、当社が管理するにもコストがかかります。全体から見るとデータのやり取りの頻度も低いので、費用対効果が悪すぎます。日常的にセキュリティソフトやUTMで防御しているわけですし、万が一被害が生じたときにサイバー保険を利用するという対応が妥当だと考えます。

データのバックアップはどのようにされていますか?

小林 CADデータをはじめ社員が使っている作業データは社内のファイルサーバで共有していますので、自動でバックアップが取れています。また、販売データは販売管理パッケージソフトを使っており、クラウド上に自動的にバックアップされます。ただし、販売データのうち売掛金はとくに重要なデータですので、クラウド上のバックアップだけでは心許ないというのが私の考えです。クラウド上に自動でバックアップされていることは、それはそれで安心ですが、もしも電源が喪失したり、インターネット回線が途絶えたりすると、まったくデータを見ることができなくなり、売掛金が把握できなくなります。これだけは避けなければなりません。 売掛金以外のデータ、例えば、買掛金のデータを消失しても仕入先から請求書がきますので、致命的な問題にはなりません。当社で発行した注文書を付けて請求していただければ、間違いないかどうかを確認して支払うことができます。しかし、売掛金だけはそういうわけにはいきません。当社が把握しておかなければ回収できなくなる恐れがあります。そのため、売掛金を含む販売データだけは、クラウド上のバックアップとは別に、オフラインでもバックアップを取っています。

写真:小林社長がお話ししている様子 1枚目

オフラインでのバックアップとは、どのような方法でしょうか?

小林 週に一度、外部媒体にバックアップを取って、社外の別の場所で保管しています。この方法を始めたのは、はっきり覚えていませんが、おそらく30年ぐらい前だったと思います。なぜ始めたのかは明確に説明できませんが、私が「事故は起こるもの」だと考えるタイプだからではないでしょうか。自分は事故にあわないと楽観的に考える経営者は少なくありませんし、実際にあわない会社も多い。しかし、私は「備えあれば憂いなし」という経営姿勢で臨んでいます。 その結果、販売データは現在、社内のサーバとクラウド上、そして外部媒体の3か所に保管しています。極端な話ですが、万が一本社が火事で全焼するようなことがあっても、別の場所で保管している売掛金のデータさえ無事であれば、会社は当面存続できます。外部媒体のバックアップデータの空白期間は最大でも1週間ですので、原状復帰は可能です。また、売掛金以外のデータは全部失っても事業継続はなんとでもなります。外部媒体で物理的に保管する方法は、そういう意味ではBCP*4 対策としても有効だと考えています。

BCPのお話が出ましたので、データのバックアップ以外に、BCPマニュアルを策定されているだとか、何らかの対策を立てていらっしゃいますか?

小林 BCPマニュアルまでは策定していませんが、BCPを意識して営業支援部の担当を増やしました。従来、担当は1名でしたが、万が一長期に入院するようなことがあれば業務に支障が出るので、1名を増員して2名体制にしました。 また、古くは、営業支援部にもとからいる1名がCOBOL*5 で独自に組んだ販売管理システムをオフコンで使っていました。いつでも状況に応じて使い勝手を改善できたので非常に便利でしたが、やはり1人の担当に属人的に依存するのは不安がつきまといます。そこで、ダウンサイジングした機会に市販の販売管理システムに切り替えました。使い勝手という点では不満があるのですが、問題が起こってもベンダが対応してくれるので、そのようにしてリスクヘッジしています。 ただし、BCP対策といってもその程度のことしかできていません。多くの中小企業も同じだと思いますが、災害に対してまだまだ脆弱です。情報システムの運用を社内で抱えるのではなく、全部外部委託するほうがBCP的には望ましいのではないかと考えることもあります。

商工会議所に望むことは、適切なテーマでの情報発信やセミナーの開催

社員に対するサイバーセキュリティ教育は、どのようなことをされていますか?

小林 朝礼や会議の場で「心当たりがないメールは、開かず削除する」「開いてしまっても本文中のURLをクリックせずに削除する」「判断できない場合は、営業支援部に連絡して指示を仰ぐ」など注意事項を伝えて啓発をしています。しかし、社員一人ひとりの資質に任せるしかないので、完全に防ぐことはできないと思っています。むしろ、ウイルスに感染することはあり得るという前提で、感染したときにどうするかを決めておくほうが大事だと考えています。当社は、ウイルスに感染したとわかった場合、すぐに感染したパソコンの電源を落としてLANケーブル*6 を抜き、営業支援部に連絡するという運用にしています。

写真:小林社長がお話ししている様子 4枚目

今後、IT関係で導入を予定しているシステムなど、ご計画しているものはありますか?

小林 具体的な計画ではないのですが、当社の発注書の明細と仕入先の請求書の明細を突き合わせることのできるAI*7 のアプリケーションがあればいいと思っています。請求金額を支払うには、発注どおりに請求されているかどうか確認する必要がありますので、現在は請求書をいったん紙に出力して人手をかけて突き合わせているのですが、これが時間のかかる大変な作業なのです。 原因は、仕入先によって表記のルールが異なるからです。まったく同じ鋼材でも品名が統一されていないうえに、品名に続く記載が「厚み」のところもあれば、「外寸法」のところもある。数量も「重さ」で表記するところもあれば、「本数」のところもある。100アイテム注文したのに、仕入先からの請求書はトレーサビリティの関係で3アイテムごとに複数に分かれて届くこともあります。多種多様な請求明細が大量に届きます。自ら学習する生成AIを使って自動で突合せを行い、非生産的な手作業を解消したいのですが、今はまだ独自にAIのアプリケーションを作るとなれば大きなコストがかかりますので、もう少し待って他社の先行事例を見ながら取り組んだほうが賢明だと考えています。

最後になりますが、ITやサイバーセキュリティに関して、商工会議所や自治体などに要望することはありませんか?

小林 商工会議所はITエンジニアを抱えているわけではありませんが、ITの動向に敏感な職員がいて、適切なテーマで情報発信やセミナー開催をしてくれることを望みます。例えば、今なら電子帳簿保存法の情報が求められています。その点では、高崎商工会議所はすでに熱心に動いてくれていますので、地元の中小企業にとってありがたい存在です。 話は冒頭に戻りますが、標準化が進まないという問題は一企業ではどうにもならないことですので、行政で積極的に取り組んでもらいたい課題です。先ほど申し上げた注文明細と請求明細の突き合わせ作業についても、表記が統一化されれば生成AIもいりませんし、デジタル化も進んで大幅な合理化が達成されるはずです。私は、経済産業省の中に「標準化庁」を発足させて、ありとあらゆるものを標準化すべきだと考えています。本来のDXはそこからではないでしょうか。

写真:小林社長

  • *1
    CAD: Computer Aided Design コンピュータ上で設計や製図を行うツール
  • *2
    UTM: Unified Threat Management ネットワークにおけるセキュリティ監視装置
  • *3
    EDI: Electronic Data Interchange 電子データ交換を意味し、契約書等の商取引に関係する文書を専用の回線などを用いてやりとりする仕組み
  • *4
    BCP: Business Continuity Planning災害など 緊急事態における、企業や団体の事業継続計画
  • *5
    COBOL: Common Business Oriented Languageに由来する、1959年に事務処理用に開発されたプログラミング言語
  • *6
    LAN*ケーブル:インターネットに有線で接続するためのケーブル *Local Area Network
  • *7
    AI: Artificial Intelligence 人工知能の略 かつては人間にしかできないと思われていた知的な推論・判断をするコンピュータープログラム

コムテックスの取組み

図表:創ネットの取組みの図
株式会社コムテックスの取組みのポイント
  • すべてのデータの重要度を一律に見るのではなく、売掛金を最重要データと位置づけ
  • 「事故は起こるもの」との前提で、対策や体制を整備
  •  最新技術はすぐに導入せず、他社の先行事例を見ながら取り組む
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