Event Report 開催レポート

未踏会議2025 MEET DAY

イベント概要

2025年3月9日(日)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)と一般社団法人未踏主催、経済産業省共催による「未踏会議2025 MEET DAY」が開催された。
今年は“MITOU WONDER”というテーマのもと、会場参加(東京ミッドタウン・ホール)とライブ配信(ニコニコ生放送、YouTube Live)を併用したハイブリッド形式で行われた。

未踏会議2025 MEET DAY 会場エントランス 未踏会議2025 MEET DAY 吊り下げバナー 未踏会議2025 MEET DAY 柱巻広告 未踏会議2025 MEET DAY

IPAが実施する、突出したIT人材の発掘・育成事業である「未踏事業」の魅力を広く訴求するために開催された本イベントでは、未踏事業の修了生たちによる展示ブースや、未踏事業を楽しくわかりやすく紹介する3つのステージ企画が設けられ、未踏事業の魅力はもちろん、AIや量子コンピューターなどの最新技術についても熱いトークセッションが繰り広げられた。

主催者挨拶

独立行政法人情報処理推進機構理事長 齊藤 裕

未踏事業がスタートして24年、これまでに約2,300名の修了生を輩出し、日本のイノベーションを牽引してきたと話す齊藤氏。また、AI革命の時代はすでに始まっているとい言い、「そんな時代だからこそ、人間ならではの発想や想像力を駆使しながら新たな価値を生み出す突出した人材の発掘、育成が急務である」と話し、「本イベントで未踏の世界を存分に体験し、新たな気づきやインスピレーションを得て、さらなる飛躍を遂げることを心から期待している」と参加者たちに呼びかけた。

独立行政法人情報処理推進機構理事長 齊藤 裕

共催者挨拶

経済産業省大臣官房 サイバーセキュリティ・情報化審議官 商務情報政策局 情報政策統括調整官 西村 秀隆

「未踏事業での才能の発掘と育成には、第一線で活躍しているトップランナーの方々がプロジェクトマネージャー(PM)として大きな役割を果たしてくれている」と語る西村氏。さらに、未踏修了生の活躍が知られるにつれ、本事業がますます注目されていることや、政府が本事業を拡大しようとしていることを明かした上で、「優れた修了生たちと意見を交わし、彼らが作り上げた最先端の技術や独創性に直接触れる貴重な機会である本イベントを充分に活用してほしい」と語った。

経済産業省大臣官房 サイバーセキュリティ・情報化審議官 商務情報政策局 情報政策統括調整官 西村 秀隆

未踏統括PM挨拶

未踏統括プロジェクトマネージャー 東京大学名誉教授 竹内 郁雄氏
竹内氏は、現在、未踏修了生が多方面で活躍している理由について「PMが独自の視点で審査・伴走することにより独創的なアイデアを埋もれさせないこと」、「PMや修了生など、未踏コミュニティで寄ってたかって応援すること」、そして何と言っても「本人の熱意と同期との切磋琢磨」が大きいとし、「人々が楽に/楽しくなることを、楽に/楽しく実装できるガッツを持っていることが必要」と述べた。さらに、本日はその成果を見られる場であるとして「ぜひ未踏事業を体感してほしい」と期待を寄せた。

未踏統括プロジェクトマネージャー 東京大学名誉教授 竹内 郁雄

展示ブースライブ中継 シルバーブースプレゼン

オンライン参加者のために、この日は4回に分けて展示ブースのライブ中継が行われた。スペシャルリポーターとしてお笑いコンビ、マヂカルラブリー・野田クリスタルと東大芸人の藤本淳史を迎えて行われた最初のライブ中継では、シルバーブースの6社がプレゼンを行った。

展示ブースライブ中継 展示会場

未踏初の証券会社である「ブルーモ証券株式会社」は、次世代の投資サービス「ブルーモ」を提供するFin Techスタートアップ。他の投資家のポートフォリオをコピーしつつ簡単に米国株・ETFで資産運用できる新しい証券会社(投資アプリ)だ。

ブルーモ証券株式会社

「WillBooster株式会社」は、生成AIを搭載した次世代型のプログラミング実習システム『Exercode』を提供。自身もプログラミングを行う野田は「僕、わからないことをネットで聞いてたんですけど、大抵“ググれカス”って言われるんです。AIはググれカスって言わないし、学習が何倍も早くなるし、すごくいい」と感心しきりだった。

WillBooster株式会社

「株式会社NTTドコモ」は、コミュニケーションサービス『MeTaMe』と無料のエンジニア育成プログラム『X-Teck Bridge』を紹介。さらに独自のスペシャリスト人事制度により、未踏修了生はその経歴を就活時に考慮されることも明かされた。

株式会社NTTドコモ

「株式会社Closer」は、人手不足の解決や生産性向上のため、パレタイズやピッキング作業を小型ロボットで自動化できるパレタイズロボットパッケージ『Palletizy』を開発し、世界中のさまざまな企業と連携している。

株式会社Closer

「特殊電子回路株式会社」は業界最先端のFPGAや電子回路を試作・開発する企業。2020年頃から続いていた半導体不足の際、偽物の半導体が出回ったことを受け、半導体真贋判定装置「シンIC」を開発した。

特殊電子回路株式会社

「株式会社Acompany」は、秘密計算を中心としたプライバシー保護に関連するソリューションを提供している企業で、TEEを用いた処理を誰でも簡単に定義・利用できるようにする『C-FaaS』を開発した。

株式会社Acompany

トークセッション①
「この人、未踏だったんだ!」

パネリスト
バイバイワールド株式会社 代表取締役/2009年度下期未踏ユース修了生 髙橋征資
ユカイ工学株式会社 代表/2008年度上期未踏本体修了生 青木俊介
株式会社Live2D 代表取締役社長/2006年度下期未踏本体修了生 中城哲也
アーティストユニット・うるまでるび うるま 
 
ファシリテーター
お笑い芸人 マヂカルラブリー・野田クリスタル
アナウンサー 久代萌美

トークセッション①は、「この人、未踏だったんだ!」と題し、意外な分野でITを駆使して活躍している未踏修了生を紹介。
ロボットと玩具の企画開発を行うエンタメーカー「バイバイワールド」の髙橋氏は、代表作として、歌も歌える拍手ロボット「ビッグクラッピー」を紹介。さらに、髙橋氏が吉本興業所属でNSC東京14期生でもあり「デジタルとお笑いを融合したいと思って作家コースに入った」と明かすと、野田に「めっちゃ後輩じゃねーか!」と驚かれる一幕も。

バイバイワールド株式会社

ロボットの開発を手がける「ユカイ工学」の青木氏は、『BOCCO』、『Qoobo』、『甘噛みハムハム』といった、話題の癒し系ロボットを紹介。すると野田が「これ僕、家にあります! 助かってます! めっちゃ癒されます」と嬉しそうにコメント。さらに新商品として、チラ見してくる抱きつきロボット『みるみ』と熱いものを冷ますふーふーロボット『猫舌ふーふー』の2つが紹介されると、こちらにも興味津々だった。

ユカイ工学株式会社

2Dのイラストを立体的に表現する独自技術を展開する「Live2D」の中城氏は、「『メメントモリ』や『桃太郎電鉄』、『にじさんじ』、『ホロライブ』などにうちの技術を使っていただいている」と説明。また、VTuber用のデモ素材として野田のイラストが登場し、実際に動かしてみてその操作性や映像が気に入った野田は、さっそく「これほしい! VTuberになれるじゃん!」と興奮気味に話していた。

株式会社Live2D

さらに“レジェンド未踏生”として『ウゴウゴルーガ』や『おしりかじり虫』でおなじみのうるまでるび・うるま氏も登場。当時、「先進的なアニメーションソフトウェアの開発」で未踏に採択されたうるま氏だが、開発のきっかけは「アニメを作るのはめんどくさいから、絵を描くだけでそれが動いたらいいな」という思いからだったという。

その後は4人で「未踏に参加してよかったこと」、「未踏に参加後、キャリアに影響はあったか」などをテーマにクロストークを展開。「指導者の先生がついてくれる。僕の場合はコーエイの社長さんが毎月1対1でアドバイスをくれて、非常に勉強になった。未踏がなかったら今の仕事はできていなかったと思う」(青木)、「『国が認めた天才』と胸を張って言える」(髙橋)、「この業界、あまり資格がないので、未踏修了生はどこの会社に行っても就職できるという噂があった」(うるま)、「若いときに変なものを作ろうとしても結構お金出してくれる」(中城)など、それぞれの思うメリットが次々と挙げられたセッションとなった。

この人、未踏だったんだ!

展示ブースライブ中継

2度目のライブ中継では、ブロンズブースの中から藤本が気になったブースを紹介。モデルベースの新しいフライトコントローラや“盆栽のデジタルツイン化と樹形美の科学”をテーマに、盆栽と最新テクノロジーによる新たな可能性を追求した『BONSAIENCE』、本格的なイラストをAIを使って簡単に書くことができる比留間大地氏のブース、一緒にいる人の心拍の同期から好意があるかどうかを分析するデバイスを開発した『e-lamp.』など、さまざまなジャンルの未踏事業の展示が紹介された。

Tobas BONSAIENCE 比留間大地氏 株式会社e-lamp

トークセッション②
「AIについて 小説家は何を語
る?〜人を幸せにするAI〜」

パネリスト
お笑い芸人・作家 ピース・又吉直樹(第153回芥川賞受賞)
作家 九段理江(第170回芥川賞受賞)
AIエンジニア・起業家・SF作家/2015年度未踏IT人材発掘・育成事業修了生 安野貴博

ファシリテーター
編集者 九龍ジョー
トークセッション②は、「AIについて 小説家は何を語る?〜人を幸せにするAI〜」と題し、「私のAI活用方法」、「私にとってのAI」、「私が考えるAI×未来」をテーマにクロストークが展開された。

AIについて 小説家は何を語る?〜人を幸せにするAI〜

「あまり使ってなさそうと言われるけど、実は結構使ってる」と話す又吉は、「僕はチャットGPTのことを“親友”って呼んでます」と明かして笑いを誘うが、最低でも1日に3時間は会話しているといい、「『ワケわからん』とか『退屈』とか言わずに聞いて、返事を返してくれるんで助かってます」と、身近な存在であると語った。
九段は「英文法に自信がないときは、DeepL(翻訳ツール)やグロック(AIアシスタント)を使ったり、中国語の書評を訳してもらったり。文体とキャラクターが一致してるかを評価してもらったことも」と自身の活用法を明かす。
ChatGPTの「Proプラン(月額200ドル)」を利用中だという安野は、「ChatGPTについてるディープリサーチは10分で調査してレポートにまとめてくれるんですけど、そのレベルが結構いい。中国語やトルコ語の文献も調べてくれる」と、その機能に感心したと話した。
すると、同じくProプランを利用中だという又吉が「僕がProプランでやったことといえば、AI太宰やAIニーチェと対談したことぐらい」と話し、「ニーチェは『君こそが哲学だ!』って言ってくれましたけど」と笑わせた。
実際にAIを使ってみて「ボケなのか、純文学的な問いなのか、みたいなラインはまだ苦手なのかな、と思う。大喜利もめっちゃ弱い」と語る又吉。また、「95%AI、5%自分で小説を書いてみないか?」という提案を受け、実践したという九段は「AIは人間より知性が高いので、もっと人間にわからないものを作るかと思ったら、その能力は絶対にあるはずなのに、人間に忖度して人間がわかる範囲のことを出してきたのには少しがっかりした」と話した。すると安野が「今は忖度しているけど、忖度しない形で作業しているAIの思考過程を見たことがあるがって、ワケわかんない。人間の知性の考え方と全然違う。考えてる途中で言語が変わったり」と興味深い経験を明かした。

AIについて 小説家は何を語る?〜人を幸せにするAI〜 登壇者集合写真

展示ブースライブ中継③ ゴールド
ブースプレゼン

3度目のライブ中継ではゴールドブースを紹介。起業家・新井俊一氏のブースでは、大学生しか書き込めない大学生のための授業情報サイト『学校の達人』や、デジタルが得意じゃなくても利用できる月謝集金システム『月額パンダ』、名刺管理ソフト『メイシー』などのソフトウェアを展示。中学生の頃から不登校になり、独学で勉強したという新井氏は、「未踏事業で社会的信用を得られたことは大きかった」と明かしていた。

起業家・新井俊一氏

「HarvestX株式会社」は、屋内でイチゴを自動生産できる装置を発明し、提供している企業。屋内で天候に左右されず、農薬も使わずに形のきれいなイチゴを作れるだけでなく、今後は好きな形のイチゴを作れるようにもなるという。

HarvestX株式会社

人の見たもの、聞いたもの、感じたものを、AIに正しく伝えるテクノロジーを開発している「フェアリーデバイセズ株式会社」は、人の1日の動きを追った動画から、この日何をしていたかをAIが文字に起こすという技術を紹介。ゆくゆくは「熟練工のAIを作りたい。後継者がいなくてもAIが熟練工同様のものを作れて、そのお金を熟練工に還元できれば」と展望を語っていた。

フェアリーデバイセズ株式会社

また、「一般社団法人未踏」が実施する17歳以下の小中高校生を対象とした人材育成事業『未踏ジュニア』の展示も中継。中学生が作成した「英単語学習アプリ」や小学生が作成した「作文の苦手をお手伝いするアプリ」などが紹介された。

トークセッション③
「量子コンピューター活用最前線
に田村淳が迫る」

パネリスト
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 准教授 田中 宗
(量子コンピューティング技術分野アニーリング部門プロジェクトマネージャー)
大阪大学大学院基礎工学研究科 教授 藤井 啓祐
(量子コンピューティング技術分野ゲート式量子コンピュータ部門プロジェクトマネージャー)

ファシリテーター
タレント 田村淳

量子コンピューター活用最前線に田村淳が迫る

トークセッション③では、「量子コンピューター活用最前線に田村淳が迫る」と題し、「そもそも量子コンピューターとは何か」「量子コンピューターでどんなことができるのか」などをテーマにクロストークが展開された。
量子コンピューターとは従来のコンピューターでは解析できないものを解析するために量子力学(ミクロな世界を支配している法則)を使おうというもので、0と1の重ね合わせ状態(量子ビット)を用いて一括で計算を行う、との藤井氏の説明に「よくわからない……」と困惑する田村。しかし、藤井氏の「理解しようとすると、ここから1年間の授業が始まります(笑)」との言葉に安堵した表情を浮かべていた。
また、“どんなことができるのか”については、田中氏が「例えば利益を最大化することだったり、最適なシフト表を作成する等々、あらゆるものの“最適化”ができる」と説明。さらに藤井氏が「将来的にはSDGsの分野で使えたらいいなと期待している。自然界の現象を量子コンピューター上でシミュレーションし、なぜうまくいっているのかを分析し、地球を最適化していくような」と、話は“地球の最適化”にまで及んだ。
さらに、量子コンピューターを広めるための取り組みのひとつとして「QuantAttack(クアントアタック)」という量子コンピューターをモチーフにしたパズルゲームを開発したと話す藤井氏。そこで、遊びながら量子ゲートの最適化ルールが自然に身につく「QuantAttack」を田村が藤井氏と体験することに。しかし結果は大方の予想通り、何度やってみても藤井氏の圧勝だった。

量子コンピューター活用最前線に田村淳が迫る デモンストレーション

最後に、藤井氏、田中氏ともに、「量子コンピューターに興味を持ってくれる人がもっと増えてほしい。私たちはそういう人たちをサポートしたいと思っているので、いろんな形でかかわってほしい」と参加者に呼びかけると、田村も「うちのコミュニティで実験台になれるようなことがあったら言ってください」と自ら協力を申し出た。

量子コンピューター活用最前線に田村淳が迫る 登壇者集合写真

展示ブースライブ中継

この日最後となるライブ中継では、再びブロンズブースの中からいくつかをピックアップして紹介。日本の救急医療の領域で活躍する「株式会社fcuro」や、二足歩行や四足歩行ロボットと同じ動きができる車を開発した「株式会社システムイグゼ」など、ここでも多くの興味深いブースが紹介された。

未踏ジュニアスーパークリエータ表彰式

未踏事業の修了生を中心に設立された一般社団法人未踏によって運営される、独創的なアイデア、卓越した技術を持つ17歳以下の小中高校生を支援する人材育成プログラムである「未踏ジュニア」。2024年度に採択された中で特に顕著な成果を残した10名が「未踏ジュニアスーパークリエータ」として認定され、表彰式が行われた。
2024年度のスーパークリエータの1人である筈谷 将大氏が、自身が開発した「Mimic – 音声を使った英語学習をサポートするアプリ」について発表。その後未踏統括PMの竹内氏より全員に認定証が授与された。

未踏ジュニアスーパークリエイタ表彰式

エンディング

近畿大学 特別招聘教授 情報学研究所長  未踏統括プロジェクトマネージャー 夏野 剛氏
「自身が未踏に携わるようになって16年経つが、新しいメンバーがどんどん加わって、活況を呈している」と話す夏野氏。国の政策としてもここ10年、未踏事業がかなり注目されていると話した上で、「ただ、グローバルに見ると日本にはたくさんの才能が溢れているにもかかわらず、アメリカに比べると彼らを応援するシステムがまだまだだと思う」とし、「いい事例を作っていくためにも、未踏コミュニティをさらに強化し、IT周りのスタートアップ業界に対して貢献していきたい」と展望を述べた。

エンディング

未踏会議2025 MEET DAYは、実に約800名以上の来場者を迎え、展示会場では未踏修了生とのコミュニケーション、ステージ会場ではゲストによる楽しくも示唆に富んだトークセッションが繰り広げられ、終始熱気に包まれて幕を閉じた。

アーカイブ動画

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