2025年度未踏IT人材発掘・育成事業「スーパークリエータ」
SUPER CREATOR
中村 健 なかむら けん
所属:東京大学 工学部 計数工学科 システム情報工学コース
-
略歴
2004年10月 東京都生まれ
2023年3月 聖光学院高等学校 卒業
2023年4月 東京大学 理科一類 入学
2025年4月 東京大学 工学部 計数工学科システム情報工学コース 進学 -
担当プロジェクトマネージャー
曾川 景介
開発テーマ名
簡単な操作で高度な組版を行える文書作成システム
概要
現在の文書作成システムは、直感的な操作に優れた「Microsoft Word」と、操作性は劣るが美しい組版に特化した「LaTeX」に二分されており、両者はトレードオフの関係にあった。本プロジェクトは両者の課題を解決し、Wordの操作性と、LaTeXの高度な組版を両立させた文書作成システム『Monk』を開発した。
Monkの最大の特徴は、独自言語を記述する「CUI」と、実際の見た目である「GUI」が画面上で双方向連動する点にある。CUIからソースコードを記述して高度な組版を行えることに加え、完成形であるGUIを直接触って直感的に編集でき、その変更は即座にCUIに反映される。
CUIでは、新たに設計したマークアップとプログラミングの性質を併せ持った静的型付けの言語を用い、エラーを防ぎやすく可読性が高い。GUIは、数式を含む文章が標準的な組版要件に準拠し、美しい配置計算が行われる。
本システムの最大の利点は、ユーザーが場面に合わせてCUIとGUIの使いやすい方を選択しながら文書作成が行える点にある。初心者は直感的なGUIから使い始めることで学習コストのハードルを大幅に下げられる。同時に上級者にとっても、状況に応じてやりやすい方を選ぶことで、執筆を高速化できる。手軽で快適な操作性を持ちながら、美しい組版を行えることが本システムの価値である。
図1: 「Monk」の操作イメージ(右側GUIから編集が行える)
図2: 標準的な組版要件に準拠
-
2025年度 未踏IT人材発掘・育成事業 成果報告会(MITOU2025 Demo Day)動画
PMの評価
中村氏は、本プロジェクトにおいて組版エンジンの設計・実装を一手に担い、「美しい文書」を実現するための技術的基盤を築いた人物である。OpenType MATHテーブルに基づく高精度な数式配置、TeXのbox/glue/penaltyモデルを採用した行分割アルゴリズム、JLReqやJIS X 4051に準拠した日本語組版規則の実装など、組版に関する深い専門知識と確かな実装力を発揮した。組版エンジンの開発は3段階で進められ、まずPythonでPoCを作成して仕様検証と試作を繰り返し行い、方針が確定した後にRustへ移植するという堅実なアプローチを取った。
中村氏は3人のクリエータの中で最も組版へのこだわりが強く、フォントや数式の美しさを妥協なく追求した。プロジェクト期間中には大学や研究プロジェクトとの両立を求められる状況にあったが、最後までやり遂げた粘り強さは高く評価できる。組版という専門性の高い領域において、JLReq、OpenType MATH、フォントのシェーピングやフォールバックの実務的な扱いなど、プロジェクト以前には知らなかった専門的な領域に深く踏み込み、幅広い知見を獲得した。
クリエータからひとこと
アプリのリリースに向けて現在も開発を継続しております。私たちが目指すのは、文書エディタの開発にとどまらず、電子文書のあり方そのものを再設計することです。文書は人間が情報を読み、考え、書き、他者と共有するための基盤であり、そのインターフェース設計は学術・産業・教育・創作などさまざまな領域に関わる重要な課題であると考えています。
私自身まだ力不足な点も多くありますが、この課題にはライフワークとして今後とも粘り強く向き合い続けてまいります。同時に、日本の伝統的な組版技術が培ってきた美しさや読みやすさに関する知見を設計や実装の段階で積極的に取り入れ、次の時代へと継承していきたいと思っております。