2025年度未踏IT人材発掘・育成事業「スーパークリエータ」

SUPER CREATOR

松野 仁志 まつの ひとし

所属:東京大学 大学院学際情報学府 先端表現情報学コース

  • 略歴

    2000年11月 熊本県生まれ
    2019年4月 熊本大学 工学部 情報電気工学科 入学
    2024年3月 熊本大学 工学部 情報電気工学科 卒業
    2024年4月 東京都立大学 大学院システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域 修士課程 入学
    2026年3月 東京都立大学 大学院システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域 修士課程 卒業
    2026年4月 東京大学 大学院学際情報学府 先端表現情報学コース 博士課程 入学

  • 受賞歴

    2021年11月 Matching HUB 2021 Business Idea & Plan Competition TeamEnergy賞
    2024年3月 熊本大学工学部 西田誠記念学生賞
    2024年12月 Linked Open Data Challenge Japan 2024 データ活用部門 優秀賞

  • 担当プロジェクトマネージャー

    落合 陽一

開発テーマ名

芸術文化文脈の直感的編集・共有プラットフォーム

概要

本プロジェクト「ArsTraverse(アルストラバース)」は、芸術文化分野における文脈調査・編集・共有の負担を下げることを目的に、展覧会企画者や研究者向けの直感的な編集プラットフォームを開発した。従来は、資料の多くが非構造テキストであるため、作家・作品・概念間の関係整理に多大な時間を要し、さらに可視化や解説制作には高度な専門性とコストが必要だった。そこで本プロダクトには、テキスト資料からLLMで主語・述語・目的語の関係を抽出し、知識グラフとして半構造化する機能を実装した。複数文献を横断統合するリポジトリ、ドラッグ&ドロップによる直感的編集、執筆テキストと関連概念の連動、テキストと部分グラフを対応づけるストーリーテリング編集・出力までを一体化し、調査から発信までの包括的な支援を実現した。さらに注釈・版管理・提案承認フローを備え、解釈の多様性を発散的に蓄積できる設計とした。実地ヒアリングやワークショップを通じて要件を更新し、展示現場での活用可能性を提示した。今後は更なる社会実装を進め、文化機関間連携とOSS展開により、アート領域の知識資源基盤への発展を目指す。

図1: 「ArsTraverse」におけるストーリテリングコンテンツ編集の流れ

PMの評価

松野氏の能力評価
技術的側面
松野氏は「ArsTraverse」において、テキスト資料の半構造化・直感的編集・共有と議論・実践連携の四つの観点から着実かつ精緻な実装を積み上げた。LLMによる関係抽出で文章から(主語、述語、目的語)のトリプル形式で知識グラフを構築する処理フローを実装し、複数資料から得た知識グラフを一つの「リポジトリ」に統合する仕組みを完成させている。
特筆すべきは、執筆画面と知識グラフの連動設計である。ノード名に一致する語句のテキスト上での自動ハイライト、執筆した文章をその場で知識グラフに変換してリポジトリを更新する機能、そしてユーザーが執筆した筋書きとその内容を指す部分グラフを自動で対応づけるストーリーテリング機能を実装した。これは、知識の構造化と物語の生成を同一の操作空間で行えるようにするという、本質的に困難な統合を達成している。
さらに、共有と議論の機能として、注釈の追加・ツリー構造・バージョン管理、変更提案・承認フロー、議論内容の可視化、およびMCPによる外部連携を実装している。MCPの採用は、現代のAIエコシステムとの接続性を意識した先見的な判断であり、技術的な成熟度を示している。
人間的側面・共感性と巻き込み力
松野氏の人間的成長として特筆すべきは、技術開発と実践の往復を通じて、「芸術文脈の計算的構造化とは何か」についての理解が深化した点である。当初は知識グラフの可視化に留まっていた構想が、ユーザー自身が執筆した筋書きと知識グラフを対応づけるストーリーテリング機能へと発展した過程は、技術開発を通じた思考の深まりを示している。
宇城市不知火美術館、SUPER OPEN STUDIO等での現場ヒアリング・ワークショップを通じて展示企画者のニーズを収集し、要件とUIを更新し続けた姿勢は、技術者としての謙虚さと、現場から学ぶ能力の高さを示している。特にS.O.S.での会議録のアーカイブ・可視化や展示への技術協力は、技術の社会実装に向けた具体的なステップとして評価できる。
GitHubでのOSS公開とWebサイト構築は、事業終了後の継続性を確保するための具体的な基盤であり、自らの取り組みを社会に開いていく共感性と巻き込み力の表れである。
未踏性と時代の技術的背景理解
松野氏は芸術文脈の構造化という、LLMの急速な発展によって初めて実現可能になった領域に焦点を当て、その時代的意義を明確に理解している。NotebookLMやInfraNodusといった既存ツールとの差異を明確にし、展示企画者の文脈調査・編集・共有に特化した独自のポジションを確立した。
芸術の文脈化が専門分野の細分化とその多角的・学際的拡張によってますます困難さを増しているという時代認識のもと、計算的手法で挑むという姿勢は、まさに未踏的な取り組みである。特に、「収束ではなく発散を許容する」という設計思想は、芸術の本質に対する深い理解と、技術がその本質をどのように支えうるかについての洞察を示している。
総合評価
松野仁志氏は芸術文脈の計算的構造化という前例の少ない領域において、技術的完成度と実践的有用性を兼ね備えた成果を挙げた。知識の構造化と物語の生成を同一空間で行えるようにした統合的設計は独創的であり、美術館やアートプロジェクトでの実践を通じた社会実装も着実に進んでいる。芸術をライフワークとして向き合い、OSSとしての展開を見据えた長期的視点を持つ点も含め、スーパークリエータとして推薦する。

クリエータからひとこと

現在は、未踏期間で実装してきたエディタ機能の一部を論文にまとめつつ、本プラットフォームに関連する、新たな研究のための調査やプロジェクト実践を進めています。展示の企画者が編み出す切り口と客観的なデータ可視化の連携という観点から、芸術文化文脈の継承や普及のための方法を模索しています。今後も美術館をはじめとした文化施設や芸術プロジェクトなど、芸術領域を中心に現場実践を重ねながら社会実装していきます。

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