2024年度未踏IT人材発掘・育成事業「スーパークリエータ」
SUPER CREATOR

有田 朋樹 ありた ともき
所属:慶應義塾大学 理工学研究科 総合デザイン工学専攻 修士課程
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略歴
2001年12月 兵庫県生まれ
2020年3月 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校 入学
2020年4月 慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 入学
2024年3月 慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 卒業
2024年4月 慶應義塾大学 大学院理工学研究科 総合デザイン工学専攻 入学 -
担当プロジェクトマネージャー
落合 陽一

開発テーマ名
機械学習に基づく中山間地域向け農業用散布ドローン群
概要
本プロジェクト「Agriswarm」は、作業負荷の高い果樹受粉を担うミツバチを代替し、中山間地域の労働力不足と耕作放棄を解決するための小型自律ドローン群システムを開発した。クリエータが自ら栽培に関わる福島県の実ほ場での実運用を想定し、花粉媒介昆虫の減少といった社会的課題に応える。機体にはJetson Orinを搭載し、カメラとIMUを組み合わせたVisual SLAMで衛星測位に頼らず棚下を飛行、経路計画アルゴリズムで障害物を自律回避しながら花へ接近し独自に設計した受粉機構によりミスト散布で受粉する。内部システムには機械学習を利用し,独自の学習パイプラインおよびYOLO系列と6D姿勢推定を組み合わせることで花の位置と姿勢を高精度に推定することを可能にした。さらに、受粉飛行中のデータをGaussian Splattingで統合して三次元点群を構築、樹冠占有面積率等の果樹栽培指標を計測して栽培管理に活用した。高負荷の推論・最適化・制御を単一ボードに集約したことで通信インフラが不十分な山間部でも完結した運用が可能となり、受粉と果樹管理の双方を省力化しながらデータ駆動の経営判断を支援する成果を得た。

図1: 受粉作業中の蜂型ドローン

図2: Gaussian Splattingによって再構成したほ場の3Dモデル
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2024年度 未踏IT人材発掘育成事業 成果報告会(MITOU2024 Demo Day)動画
PMの評価
有田氏は本プロジェクトにおいて、極めて広範な技術実装を行った。元々制御分野のみの知識から出発しながらも、電装設計、機構設計、通信設計、制御アルゴリズムの開発、機械学習モデルの開発など、ロボティクスシステム開発の全領域にわたる技術的挑戦に取り組んだ。
特に評価すべきは、これらの多様な技術要素を統合的に把握し、相互の影響関係を理解した上で全体システムの設計・開発を行った点である。農業用ドローンという実用的なシステムの開発において、GPSに依存しない自己位置推定や花検知アルゴリズムなど複数の技術要素を統合し、実用レベルのシステムを構築した。この経験を通じて獲得した高度なロボティクスの全体像を俯瞰する能力は、ドローン分野に限らず、あらゆるロボティクス分野で活用できる価値あるスキルセットとなっている。
また、福島県双葉郡大熊町での自身の農業経営という実践の場を持ち、そこで直面した実際の課題からプロジェクトを着想した点は、技術開発と社会実装を強く結びつける実践的アプローチを示している。技術的知見と現場のニーズを結びつけるこの能力は、イノベーションを社会に実装する上で極めて重要である。
クリエータからひとこと

福島のキウイ農園と関東を往復しながら、これからの構想を練っています。
未踏の成果については、一度自身の研究活動として引き取る予定です。これから始まる新たな農業の形を見据え、最先端の研究や開発に携わって力を蓄える時期と感じています。現在は、未踏で取り組んだドローンの開発を含め、マニピュレータやヒューマノイド等、より大規模な農業プロジェクトのための下準備を始めています。未踏で得た人生の糧を、大切に心に宿しながら次の挑戦に臨みたいです。