2024年度未踏IT人材発掘・育成事業「スーパークリエータ」
SUPER CREATOR

三輪 敬太 みわ けいた
所属:東京大学 大学院総合文化研究科 / Turing株式会社
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略歴
2020年3月 都立西高校 卒業
2024年3月 東京大学 教養学部 教養学科 卒業
2024年4月 東京大学 大学院総合文化研究科 言語情報科学専攻 入学
2024年4月 Turing株式会社 入社 -
受賞歴
2024年9月 第19回言語処理若手シンポジウム 奨励賞
2025年3月 言語処理学会第31回年次大会 若手奨励賞
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担当プロジェクトマネージャー
岡 瑞起

開発テーマ名
ニューラル言語モデルによる個人最適な日本語入力システムの開発
概要
多くの日本語話者が「かな漢字変換」に基づく日本語入力システムを活用しているが、長文脈理解と個人最適化には未だ限界がある。本プロジェクトではEnd-to-Endのニューラルかな漢字変換システム「Zenzai」と、個人最適化モジュール「Tuner」、およびこれらを統合するmacOS向けIMEである「azooKey」を中核に、高精度で個人最適化された日本語入力体験を実現する。
ZenzaiはGPT-2ベースの軽量な言語モデルを利用して強い文脈理解を実現しつつ、GPUによる高速化とアルゴリズム面の工夫により、Apple M1チップ程度の環境でも快適に動作する。Tunerは画面上のテキストを収集してユーザ特化言語モデルを構築し、個人特有の語彙や表現を変換に反映する。azooKeyはこのZenzaiとTunerを活用し、高い入力効率を実現する。さらに外部のLLM APIを利用する「いい感じ変換」では絵文字推薦や翻訳、文体変換を単一UIで呼び出せる。
azooKeyはmacOS向けに公開し、すでに誰でも利用できる。研究レベル、実用レベルの両面で日本語入力の技術と体験を飛躍させることを目指している。

図1: macOS向け日本語入力「azooKey」の構成図。左側がニューラルかな漢字変換システム「Zenzai」、右側が個人最適化モジュール「Tuner」を示しており、azooKeyはこれらのシステムを活用して新しい日本語入力体験を実現する

図2: 「azooKey」の利用中のスクリーンショット。「文脈に基づく高」を文脈として、正しく「精度な変換」が変換できている。右側の設定ウインドウではZenzaiの有効化やパーソナライズ強度、変換プロファイルなど独自の調整項目が表示されている
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2024年度 未踏IT人材発掘育成事業 成果報告会(MITOU2024 Demo Day)動画
PMの評価
三輪敬太氏は、ニューラルかな漢字変換という未開拓の分野で卓越した技術的革新性と実装力を示し、世界初の実用的オープンソースシステムを構築した点で特に秀でている。「Zenzai」の開発においては、GPT-2アーキテクチャの日本語入力への応用、投機的デコーディングによる高速化、文脈付き変換や変換プロンプトなど、複数の技術的ブレークスルーを独自に実現し、従来のシステムを大幅に凌駕する性能を達成した。特筆すべきは、単に研究レベルの実装にとどまらず、実用的なシステムとして完成させ、オープンソースで公開することで業界全体に貢献した点である。「AJIMEE-Bench」というベンチマークの構築・公開による学術的貢献や、コミュニティの形成を通じた技術普及の推進も、スーパークリエータとしての資質を示している。理論・実装・社会実装の全てにおいて卓越した成果を上げ、日本語入力の新たなパラダイムを切り開く先駆者としての役割を果たした点は最高レベルの評価に値する。
クリエータからひとこと

「Zenzai」を論文化して3月の言語処理学会年次大会に持ち込み、若手奨励賞をいただきました。最近は読み推定などを含む学習データ生成のパイプラインの改善に取り組みつつ、並行してどうにかZenzaiのパワーをスマホ版の「azooKey」に持ち込めないか考えています。azooKeyはなかなか大きなプロジェクトで、学習データや辞書の構築、モデルの開発、変換アルゴリズム、ユーザに提示するUIに至るまで様々なレイヤーでやりたいことがまだまだあり、全然手が足りません。日本語入力システムは最も利用者の多い自然言語処理の実応用の1つなので、ここを大きく改善できれば社会に強く貢献できるはずです。手伝ってくれる方を常時募集しています!!