プラクティス・ナビ
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プラクティス10-1 情報共有活動への参加による信頼獲得と、収集した知見の社内への還元

 従業員数900名規模の流通業であるX社は、IPAやJPCERT/CC等が公表する注意喚起情報等の収集を行っていたが、サイバーセキュリティに関する高い専門性を有する人材がいなかったため、大量に提供される情報から自社にとって有用な最新のセキュリティの問題やインシデント等の情報を見極めることに苦戦していた。情報システム部長は、かねてから交流のあった同業他社に相談したところ、様々な企業が参加しているセキュリティ担当者向けの勉強会を紹介された。

X社の実践のステップ

情報システム部長が実践したステップは以下の3点である。

  1. セキュリティに関係するできるだけ多くのメンバーに、業務として勉強会への参加を指示する
  2. 勉強会では、自社のかかえている課題等を他社へ積極的に情報提供することで、コミュニティにおける信頼を獲得させる
  3. 参加メンバーに、勉強会を通じた得た情報や知見を社内で共有させる

X社の実践内容

 X社では、情報共有活動への参加に関して、以下の点を心掛けたことで、コミュニティの信頼を獲得し、円滑な情報共有が図られる関係性を構築できた。また、勉強会で得られた情報を社内に還元することで、他社の取組等セキュリティ対策の強化に繋がる知見に関し社内での共有が図られた。

表1 X社が情報共有活動への参加において心掛けた事項の例

分類内容
① 継続的な参加
  • 参加当初は議論についていくことで精一杯であり、また通常業務が逼迫 する中で参加の時間を確保することに苦労しつつも、参加を継続する
② 多くのメンバーの参加
  • 情報システム部長や課長の他、セキュリティに関係するできるだけ多くのメンバーが参加する
③ ルールの遵守
  • コミュニティにおける情報共有のルールを遵守する
④ 情報提供
  • 高度な内容ではなくても、自社から提供できる情報や自社の悩みを隠さずに共有する
⑤ 運営への協力
  • 勉強会の準備や会場の手配等、事務局の運営を手伝う
⑥ 顔を突き合わせたコミュニケーション
  • なるべく顔を突き合わせての参加を心がけ、親睦会等のオフタイムのコミュニケーションにも積極的に参加する
⑦ 社内への還元
  • 勉強会で得らえた情報や知見を社内の他のメンバーに共有する

 また、情報システム部長は、勉強会での交流を通じて得られた情報の収集と分析に係る手法について、情報システム部の平常時の業務として定義した。さらに、手順書を整備し迅速な初動対応ができるようにした。

表2 X社が定めた情報収集手順の例

収集先収集対象手段サイクル担当者
セキュリティに関するコミュニティ
  • 同業他社のIT障害全般に関する情報
  • 脆弱性情報その他IT障害の未然防止、
    発生時の被害拡大防止等に資する情報
対面隔月課長
メール随時担当
JPCERT/CC
  • インシデント対応
  • 注意喚起情報
  • 脆弱性情報
  • 各種の重要なセキュリティ情報
WEB日時担当
IPAWEB日時担当
警察WEB日時担当

表3 X社が定めた情報分析手順の例

分析観点分析方法
① どのようなインシデントか
  • インシデントの対象(システム、情報資産等)及び、原因(攻撃手法、脆弱性等)は何か
② 自社システムに影響があるか
  • 自社で保有・管理するシステムに関連のあるインシデントか
③ 自社システムで対策が図られているか
  • ②該当の場合、①の原因について、自社では対策が図られているか
④ 速やかに対策が可能か
  • ③で未対応であることが判明した場合、ウイルス対策ソフトウェアのアップデート等で速やかに解決を図ることができるか

表4 X社が定めた対応手順の例

分析観点分析方法
① 速やかに対策が可能なもの
  • インシデントの対象(システム、情報資産等)及び、原因(攻撃手法、脆弱性等)は何か
② 速やかに対策ができないもの
  • 自社で保有・管理するシステムに関連のあるインシデントか
③ 特に、社内への注意喚起・情報共有が必要なもの
  • メール受信時やWebサイト閲覧時等に職員が被害を受ける恐れがある場合には、メールやWebサイトを開かないように注意喚起等を行う

 情報システム部長は、経営層による問題点の認識・理解と、事業部門等他部門との連携が重要であると考えた。そこで、次のステップとして、こうした情報が事業リスクの評価やIT投資の検討等においても有効に活用できるよう、経営層や事業部門に対して、セキュリティへの認識や理解を得るための働きかけを行うことを予定している。


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