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SEC journal論文賞

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  IPAでは、情報化社会を支えるソフトウェアの安全性や信頼性向上に向けた活動の一環として、ソフトウェア開発技術に関する情報提供や、開発技術の普及、研究促進を目的に、その最新動向、開発における実証的な論文や事例、IPAの活動成果などを掲載した「SEC journal」を発行しています。また同ジャーナルではソフトウェア開発現場で役立つ論文を募集しており、応募論文は有識者の査読(*1)により、SEC journalへの掲載が決定されます。IPAではその掲載論文の中から毎年1回「SEC journal論文賞」を選定(*2)し、授与、表彰しています。

2017年SEC journal論文賞

   2016年8月から2017年7月に掲載決定となった論文の中からSEC journal論文賞の受賞論文を選定し、2017年11月15日(水)にEmbedded Technology 2017/IoT Technology 2017内で開催したSEC journal論文賞表彰式にて、「SEC journal論文賞」を授与しました。

SEC journal論文賞の発表・表彰式

日時:2017年11月15日(水) 10:30~10:50
会場:パシフィコ横浜 会議センター5F 部屋番号:503(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)

対象論文

  2017年SEC journal論文賞は、以下の論文を対象に選定されました。

掲載号論文テーマ
48号 自動運転車を取り巻くSystem of Systemsの安全性要求の妥当性確認と検証PDF文書[1.13MB]
49号 CMMI成熟度レベル別に見たソフトウェア品質の良否にかかわる要因の複合的分析PDF文書[1.29MB]
49号 要求仕様の一貫性検証支援ツールの提案と適用評価PDF文書[1.32MB]
49号 実践的保証ケース作成方式PDF文書[1.5MB]
50号 NE比を活用した,つながるシステムにおける利用時の品質向上の提案PDF文書[1.18MB]
50号 オープンシステム・ディペンダビリティのための形式アシュランスケース・フレームワーク(FFO) PDF文書[1.25MB]
51号 ISBSGデータを用いた見積もり研究に対するIPA/SECデータを用いた外的妥当性の評価
(本論文はSEC journal51号(2017年12月1日発行)に掲載予定です)
51号 提案依頼書に含まれる無理難題の分類
(本論文はSEC journal51号(2017年12月1日発行)に掲載予定です)


2017年SEC journal論文賞 受賞論文

  2017年SEC journal論文賞の受賞論文は以下の3編です。(所属などは投稿当時の情報です)

最優秀賞
論文テーマ 要求仕様の一貫性検証支援ツールの提案と適用評価
執筆者 位野木 万里
所属団体 工学院大学
共著者 1 近藤 公久(工学院大学)
論文 掲載論文(SEC journal49号)の詳細・ダウンロードPDF文書[1.32MB]

 最優秀賞には、「要求仕様の一貫性検証支援ツールの提案と適用評価(執筆者:位野木 万里氏 他1名)」が選ばれました。
 要求定義に関する標準や知識体系が策定され、各組織はそのような標準や知識体系に基づく要求定義を実践しつつありますが、実際の要求定義は、開発対象となる領域、課題、技術などの条件に応じて工夫が必要となり、標準が示す一般化されたやり方のみでは対応が困難であるのが実情です。要求定義工程で定義した要求仕様の品質に関しては、完全性、トレーサビリティ、一貫性などの品質特性が定義されますが、これらの検証は組織のベテラン技術者が、各自の属人的な方法で実施していることが多いと考えられます。要求仕様書の検証のしやすさを考慮して、ダイアグラムや形式言語を用いて仕様を厳密に記述する取り組みも行われていますが、ステークホルダはそのようなダイアグラムや形式言語の専門家でないことから、自然言語により仕様を記述するという状況をなくすことも困難です。
 本論文は、要求仕様の品質特性である「一貫性」に着目し、ベテラン技術者が経験的に得た検証知識、例えば、「アクター」「データ」「画面」「振る舞い」の設計要素が要求仕様書で一貫した定義で記述されていることを確認するといった検証ノウハウを、ルールと辞書として形式知化し、それら知識に基づき、要求仕様の一貫性検証支援ツールを実現しました。実システムの要求仕様書を用いて本ツールの適用評価を行い、本ツールは技術者の効率的な仕様検証を支援する点において一定の効果があることを明らかにしています。
 要求仕様の一貫性検証といった開発現場にとって重要課題である非常に魅力的なテーマに取り組んだこと、提案の検証支援ツールによりベテラン技術者のみが従事していた要求仕様検証を、これまで検証の経験がない組織でも取り組むことが期待できることなどの点が評価されました。検証支援ツールの完成度も高く、開発現場での適用検証によりその効果も確認されている点、多くの組織で利用できるよう辞書やルールのカスタマイズが考慮されているといった実フィールドで供し得る実用性も高く評価されました。

優秀賞

  本年は該当論文なし

所長賞

  受賞論文:2編

論文テーマ CMMI成熟度レベル別に見たソフトウェア品質の良否にかかわる要因の複合的分析
執筆者 柳田 礼子
所属団体 日本電気株式会社
共著者 1 野中 誠(東洋大学)
共著者 2 誉田 直美(日本電気株式会社)
論文 掲載論文(SEC journal49号)の詳細・ダウンロードPDF文書[1.29MB]

 所長賞には、「CMMI成熟度レベル別に見たソフトウェア品質の良否にかかわる要因の複合的分析(執筆者:柳田 礼子氏 他2名)」が選ばれました。
 社会生活になくてはならない製品・システムにおいて、ソフトウェアが重要な位置付けとなり、信頼性の確保が重要視されています。特に、IoT(Internet of Things)で利用される機器やシステムの規模が拡大するに伴い、それらを制御する「ソフトウェア」の不具合に起因する機器の故障や、システムの停止が社会に与える影響は大きくなってきており、ソフトウェア品質の向上がますます求められる環境となってきています。
 このような環境の中、本論文はソフトウェア品質を効率的に向上させるため自社の商用ソフトウェア開発プロジェクトのデータを用い分析しています。ソフトウェア品質の良否に影響する要因の一つとしてCMMI(Capability Maturity Model Integration)で示される開発組織の能力があり、成熟度レベルが高いほどリリース後のソフトウェア欠陥密度が低くなることが先行研究により示されていますが、成熟度レベルを上げるのには一般に長い期間を要します。そのため、成熟度の状況に応じたプロセス改善を効率的に進めることが求められ、それぞれの成熟度レベルにおいてソフトウェア品質の良否に影響する要因を把握することが必要となります。本論文では、商用ソフトウェア開発プロジェクト522 件のデータを対象に、成熟度レベル別に分類木を構築し、有意差検定と相関分析を組み合わせてソフトウェア品質の良否に影響する要因を複合的に分析し主たる要因を導いています。
 522件という多くの社内の実データにて評価し、信頼性が高いことと合わせて、社内の実データや分析結果を公開し、産、学で広く利用可能にした点も高く評価されました。分析過程の解説も記述されているため読者の自社データを用いた分析も可能となり利用性も高まっています。CMMIの記述や、過去の知見や経験則が自社の実データで実証されており、現場を動かすモチベーションにもなる研究であると判断しました。

     
論文テーマ 提案依頼書に含まれる無理難題の分類
執筆者 門田 暁人
所属団体 岡山大学大学院 自然科学研究科
共著者 1 住吉 倫明(岡山大学 工学部情報系学科)
共著者 2 神谷 芳樹(みたに先端研)
論文 本論文はSEC journal51号(2017年12月1日発行)に掲載予定です

 同じく所長賞に、「提案依頼書に含まれる無理難題の分類(執筆者:門田 暁人氏 他2名)」が選ばれました。
 開発プロジェクトの失敗要因は様々ですが、RFPの記述に起因するものが少なくありません。RFPは開発プロジェクトのベースとなる重要な書類ですが、RFPの記述が十分でないことで、契約締結後にユーザの意図している要求とベンダが理解した要求との間のギャップが明らかになるといったことがしばしば起きています。このような問題を回避するために、要求を漏れなく記述するための方法が研究され実践されています。
 本研究は、RFP の記述の漏れや正確さに関するものではなく、RFP には受注者にとって無理難題ともいえるリスクの高い要求が含まれている場合があり、この点もプロジェクト失敗の原因となり得る点に着目し、受注者(ベンダ)の視点に立ち、RFPに含まれる無理難題を抽出・分類し、どのような無理難題が存在するかを明らかにしたものです。また、無理難題の事例集としてまとめることで、ベンダのリスク管理に役立てるとともに、発注者側によるRFPのチェックに役立つものとしています。
 RFPに注目しプロジェクト失敗の原因を探るアプローチはこれまでも存在しますが、記述の漏れや正確さではなく、記述内容の無理難題への着目は新たな観点であり、今後の発展が期待できます。分析結果から得られた「無理難題事例集」は発注者、受注者共に参考にできるものであり、利用性の高さも評価されました。研究結果を活用できる場面も多いのですが、RFPにあえて無理難題を含めることがあるという点も認識されていることと考えます。このような商慣習に関して問題提起となっている点も評価されました。

脚注

(*1) 学界と産業界の有識者2名以上で査読し、SEC journalへの掲載論文を選定する。
(*2) SEC journalへの掲載論文の中から産学の有識者20名で構成する選考委員会が審査し、さらに選考委員会とは異なる有識者8名で構成する表彰委員会の審査を経て決定する。