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~監視情報を連携させることによって高信頼化が可能に~

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社会基盤センター

IoT時代に求められる異分野間連携の実現を実証実験で確認
~監視情報を連携させることによって高信頼化が可能に~

2017年5月31日公開
独立行政法人情報処理推進機構
技術本部 ソフトウェア高信頼化センター

概要

 IPA/SECでは、IoTの特徴である異分野間連携の一つとして、産業ロボットシステムとエネルギーマネジメントシステムを連携した実現例を示し、それらの分野間連携で安全安心を確保するために必要な高信頼化対策を実証実験で確認しました。これは、今後進展が予想される先進的なスマート工場の実現を想定したものです。具体的には、分野間連携で主要な課題となる異常の波及防止や指示の競合検知などの対策を実装し、その有効性を確認しました。
 この実証実験の成果をまとめた報告書を公開しました。 

本実証実験の位置づけ

  1. 分野間連携の先進的事例
    今回の実証実験では、産業ロボットシステムとエネルギーマネジメントシステムという分野間連携システムにおいて、異常時の対策にまで踏み込んで実現性を示しています。

  2. 連携システムの安全安心の確保
    IPA/SECでは、安全安心なIoT機器や関連システムで求められる機能とその実装上の考慮事項をまとめた手引書「『つながる世界の開発指針』の実践に向けた手引き[IoT高信頼化機能編]」を策定し、2017年5月8日に公開しました。本実験は、本手引書に記載しているIoT高信頼化の対策のための機能要件を具体化したものです。

本実証実験の体制

 この実証実験は、2017年2月から3月まで、IPA、一般社団法人日本ロボット工業会ORiN協議会、一般社団法人 エコーネットコンソーシアム、学校法人 幾徳学園 神奈川工科大学の4者共同で実施しました。(関連資料「IoTの高信頼化に向けた分野間連携の実証実験を開始へ」)

対象システム

 本実証実験では、製造ラインのロボット・機器を制御する産業ロボットシステムと、工場内の照明/空調といった機器を管理するエネルギーマネジメントシステムを連携し、生産監視システムで一元的に制御する分野間連携システムを対象としました(図1)。

  1. スマート工場の実現
    中小企業が経営する工場では、製造ラインと電力系統の制御と保守を少ない人数で効率的に行うことが求められています。
  2. 異常検知の重要性(セキュリティ異常を含む)
    複数のシステムを連携したシステムでは、1つのシステムの異常が他のシステムに影響を与えないようにすることが重要です。 また、ある調査によれば、制御系に関わる脆弱性情報の報告件数が、エネルギー分野、製造分野で1位、2位を占めており(*1)、工場におけるエネルギー管理と製造ラインの連携におけるセキュリティ異常を考えることは、喫緊の課題となっています。


図 1 実証実験の対象システム

実験内容

図1に示した対象システムを構築し、以下の課題への対策を実装しました。

  1. 連携する相手側機器やシステムへの異常の波及
  2. 1つの機器への2つの系統からの制御指示の矛盾(競合)による異常の発生

確認内容は次のとおりです。

  1. 異なる2つの情報を組合わせた監視機能の実現性
    産業ロボットシステムの生産稼働情報とエネルギーマネジメントシステムの電力情報から、1加工サイクルあたりの電力量を算出してその変化を監視し、過電流や漏電などの異常の兆候を示す状態を検知できることを確認しました。また、産業ロボットシステムに対して異常な動作をさせて、かつ、監視を妨害する攻撃に対して、2つの監視情報の相関性を確認することで異常を検知できることを確認しました。

  2. 制御指示の矛盾検出と波及防止機能の実現性
    異なる分野のシステムを接続した場合、それぞれの分野のシステムが優先する状態に従って、1つの機器に制御の指示を出すことで、指示に矛盾が発生する可能性があります。そして、この状態が続くと、機器の故障や誤作動を引き起こす危険性が生じます。実証実験では、空調に対するパワーオンとパワーオフの矛盾した指示を、一定時間のオン/オフの繰り返し回数を監視することで異常を検知する対策を実装し、確認しました。

まとめ

 今回の実証実験では、スマート工場システムを構築し、先進的なつながる世界の一例を示すとともに、そこで必要となる障害検知の高度化を実証しました。実証実験で実装した2つの対策例について、機器の内包不良、老朽化による故障、サイバー攻撃によるセキュリティ異常、および個々のシステム間での1つの機器への制御の競合など、異常の早期検出に効果的であることを確認できました。これは、システムの稼働時間が収益に直接影響する中小企業の工場において、ダウンタイム回避による運用・保守の効率化、生産性の向上につながる対策として期待できます。

脚注

(*1)NCCIC/ICS-CERT,FY2015 Annual Vulnerability Coordination Report より
NCCIC(National Cybersecurity and Communications Integration Center) : アメリカサイバーセキュリティ通信統合センター

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