概要
IPA/SECではソフトウェア開発における定量的管理の普及を目的に、国内の多様で幅広い業種・業務から収集した多数のソフトウェア開発に関するプロジェクトデータを整理・分析し、「ソフトウェア開発データ白書」として取りまとめて書籍化し、2005年から定期的に発行しています。その最新版として「ソフトウェア開発データ白書2016-2017」を2016年10月に発行しました。
「ソフトウェア開発データが語るメッセージ」(以下、メッセージ)は、ソフトウェア開発の定量的管理の主な目的である「プロジェクト計画の妥当性評価」や「組織の品質マネジメントの改善」に向けて、最新の白書に掲載したデータを分析し、そこから導いたプロジェクトの評価や改善の指針となる考察結果をまとめたものです。
ソフトウェア開発プロセス上、信頼性向上のためには、上流工程(本書では、要件定義、基本設計、詳細設計、製作工程)での十分なレビューや要件定義の強化が重要であることは経験的には知られていましたが、その重要性を定量的に示した例はなかったため、今回のメッセージではそれらを示しました。
特徴・効果
上流工程強化(本書では、要件定義、基本設計、詳細設計、製作工程)が信頼性(*1)向上のために重要であることを初めて「定量的」に示しました。
主なポイントは以下の通りです。
- 上流工程(基本設計~製作)での不具合摘出比率(*2)を高めることによって信頼性向上が期待できる。
上流工程での不具合摘出比率(中央値)は、信頼性が高いグループ(*3)では約85%だったのに対し、低いグループでは約66%でした。このことから、以下のメッセージを導き出しました。
「プロジェクト計画/再計画や品質マネジメント改善等のシーンにおいて、上流工程での不具合摘出比率の目標を、目安として85%程度に高めて設定することを目指そう。」
- 要件定義を質、量ともに強化することによって、信頼性向上が期待できる。
要件定義書密度(*4)の中央値は、信頼性が高いグループでは約0.15ページ/FPだったのに対し、低いグループでは0.08ページ/FPでした。このことから、以下のメッセージを導き出しました。
「プロジェクト計画/再計画や品質マネジメント改善等のシーンにおいて、要件定義を質、量ともに強化し、量の目安として要件定義書密度を0.15ページ/FP以上とすることを目指そう。」
脚注
(*1) | 「信頼性」は、出荷後の発生不具合密度で示します。 |
(*2) | テストを含む開発工程全体での不具合のうち、設計レビューで摘出する不具合の比率 |
(*3) | 出荷後の発生不具合密度が全体の中央値より低いプロジェクトを「信頼性が高いグループ」、全体の中央値より高いプロジェクトを「信頼性が低いグループ」と分類しています。 |
(*4) | 要件定義書のページ数÷開発規模 |