デジタル人材の育成
首藤 一幸(東京工業大学 大学院情報理工学研究科 数理・計算科学専攻 准教授)
チーフクリエータ
足立 麻衣子(奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科)
本提案では、ユーザが日頃表に出せない情動を引き出すことを目的として、インタラクティブ学習型ロボットを開発する。
現代社会では、モラルや社会的制約により、情動の表出はなかなか自由に行うことができない。特に、叩く、押す、投げるといった攻撃行動や、八つ当たりといった理のない行動はネガティブな行為と見なされ、人に対して行うことは許されない。しかし一方で、こうした情動の表出が完全に制限されると、ストレスが蓄積され、うつなどの精神的疾患に繋がる可能性もある。そのため、日頃から適度に情動を表出する機会を設けることが必要と考えられる。
そこで本提案では、叩かれても壊れないロボットを製作し、ユーザには、そのロボットに対して攻撃行動を通じて情動を表出させる。その際、ロボットがただ置かれているだけではユーザの情動を引き出すことはできないため、ユーザにあった「叩きたくなる」挙動をするロボットを開発する。例えば、叩くと喜ぶロボットの方が叩きたくなるユーザもいれば、一方で、叩かれると嫌がるロボットの方を叩きたくなるユーザもいる。人間のこのような多様性に応えるため、ユーザの性質に応じたより相応しい振る舞いをロボットに学習させ、日頃出せない情動の表出を促す。
マゾヒストな反応をするロボットを作るという提案である。例えばそれはぬいぐるみ型のロボットであって、人はそれに対して自身のサディズムをぶつけることができる。
このロボットの狙いは、人が日常では出さない情動(気持ちや体の動き)を引き出すことである。その効果として、提案ではストレス解消があげられているが、それよりも、このロボットとの付き合いによって人はどうなっていくのか、興味が尽きない。どうすれば人の気持ちがより大きく動くかを考え、試しながら開発していって欲しい。