デジタル人材の育成
後藤 真孝(産業技術総合研究所 情報技術研究部門 メディアインタラクション研究グループ長)
チーフクリエータ
矢部 裕亮(芝浦工業大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻)
コクリエータ
なし
近年、GoogleのGoogle Map、AppleのiPhone3GSやMacOSX、Adobeの提唱するRIA(RichInternet/InteractionApplication)という概念、SAPのグループウェアで使われるユーザインタフェース(UI)などにみられるような、操作性や芸術性に富んだインタラクティブなUIを実装したアプリケーションが、世界的な規模で増加している。これらは、既存の同等品よりも分かりやすく操作感もよく、生産性の向上を我々にもたらした。
しかし、このようなアプリケーションのUIにおけるインタラクションデザインの設計は、一般に難しい。なぜなら、デザインとは『構想や計画を最終的に視覚的・触覚的な「かたち」として造形し、具体化する』ことであるが、UIインタラクションデザインにおいては、この造形や具体化のプロセスに際して、プログラミングや複雑な動作の編集という、通常のデザイン作業に加え、さらに煩雑な作業を挟まなければならないからである。この作業がデザイナーの思考を中断させ、インタラクションデザインの制作効率を低下させる一つの要因になっている。しかも、プログラミングスキルを持たない者は、インタラクションデザインを表現することすらできない。
そこで本プロジェクトでは、効率的で速やかなインタラクションデザインのプロトタイピングを実現することが可能なシステム『beatride(ビートライド)』を開発する。このシステムにより、デザイナーはプログラミングなしにインタラクションの試作を直感的な操作で速やかに制作でき、さらにプログラマはその試作を実装に生かすことができる。
具体的には、マウスやタッチパネルで対象をドラッグアンドドロップで動かした軌跡を記録し、インタラクションデザインとして出力する機能を実装する。これに加え、さらに複雑な動きを実現するための機能として、1.キャンバス全体に物理的な条件を付与し、2.動きをスケッチのように記録でき、3.その容易な編集、共有を可能とするなどの機能を実装する。
デザイナーがインタラクションデザインをプログラミングなしに「動きのスケッチ」として表現できるようにするシステムの提案である。既存システムは数多くあるものの、デザイナーとプログラマとの間にあるギャップは未だに解消されていないというのが矢部君の主張であり、それにはデザイナーの発想する「動き」をいかに的確かつ容易に表現できるかが鍵になる。操作の容易さと表現力の豊富さはトレードオフの関係にあるが、それをいかに引き上げられるかが楽しみである。
矢部君は2年間ITベンチャーでデザイナーと共に開発した経験を持ち、その経験を生かしながら、「実用的に、開発現場で使用するに耐えるレベル」を目指すと宣言したことを私は高く評価した。またそのために、知り合いのインタラクションデザイン業界の第一人者からもフィードバックを得る予定だという。それなりに動くデモシステムを作るのと、開発現場での使用に耐えるシステムを作るのは雲泥の差がある。そういう意味で挑戦度が高いプロジェクトであるといえ、矢部君の頑張りに大いに期待したい。