デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業(ユース):2008年度上期採択プロジェクト概要(増満PJ)

1.担当プロジェクトマネージャー

  • 竹内 郁雄(東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 教授)

2.採択者氏名

  • チーフクリエータ:増満 光
    コクリエータ:なし

3.未踏ユースプロジェクト管理組織

  • 株式会社創夢

4.採択金額

  • 3,000,000円

5.テーマ名

  • 「特許請求の範囲」のモデル化と可視化及び入出力システムの開発

6.関連Webサイト

  • なし

7.申請テーマ概要

近年、自社の発明に対して特許権を取得し、その権利を利用して他者との競争を勝ち抜こうとする動きがますます活発になってきた。そのため各者は、他者よりも早く自身の発明を権利化することが必要になってきている。特許を利活用するためには、その前提として、他の特許に対する調査を行う必要がある。特許調査とは、特許電子図書館などで公開されている公開特許から、詳細を読み解くといった作業である。しかし、現在の特許調査は、特許権の利活用を行っている者と別の人物や機関が行っている場合が多い。これは、新規特許申請が年間40万件を超えることや発明の詳細を記した「特許請求の範囲」が独特の書式で記述されていることから、調査に専門的な知識や経験が必要とされているためである。このままでは、特許調査に多くのコストがかかってしまう。そこで、「特許請求の範囲」は、常に名詞句の修飾を行っていることを利用して、ユーザにとって必要な名詞句に関する情報のみを効率的に提示し、ユーザの調査負担を減らすことを目的とした、ソフトウェア開発を提案する。
本提案では、まず、「特許請求の範囲」を名詞句と修飾語句単位に請求項にこだわらず分割し、名詞句をノード、修飾語句をリンクとした階層構造で表現する。階層構造は、同じ意味の名詞句を保持したノードを保持しないようにし、そして全体や一部というようにユーザが得たい情報に効率的にアクセスできるよう保持する。次に、通常の表示として、「特許請求の範囲」全文を名詞句ノードと修飾語リンクを用いて可視化する。そして、ある名詞句の下の階層の関係や、その名詞句を参照している他の請求項の下の階層の関係を可視化することで、特定の名詞句を中心とした修飾関係を再現する。
以上の機能から、ある部品がどういう状態の時に何をするものなのかといった情報を解りやすくユーザに提示するソフトウェアを作成する。

8.採択理由

膨大な特許情報が溜ってきている現在、結構役に立つシステムができそうな提案である。文章を扱う課題にはいつも自然言語処理の難しい問題が絡むのだが、特許の文書という、人間にはわかりにくいが、逆にコンピュータには処理しやすい文章を対象として、それを人間にわかりやすく、構造を可視化して見せるという提案である。なるほどうまいところを突いている。
このシステムの発想の元となった既存研究があり、それをベースに増満君は卒論である程度の修行を積んでおり、さらに彼自身が弁理士志望なので実現性は高いというか、インセンティブが高い。プログラミング能力や、システム設計の詰めなど、まだ甘いところがあると思うが、課題が具体的であり、自分のメシのタネでもあるので、これはガッツをもって当たれば、プロジェクト期間中になんとでもなる。実際、増満君は、最初フリーソフトとして提供してユーザを獲得、その後、ビジネス化に進むというプランをもっている。 ところで、増満君のプレゼンを聞いて、彼の所属研究室ではなかなかいい薫陶が行なわれていると感心した。世の中にはユニークな研究室があるものだ。