デジタル人材の育成
古川 享(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授)
チーフクリエータ
チェン ハンロン ドミニク(株式会社ディヴィデュアル 代表取締役)
コクリエータ
なし
本提案では,情報生成のプロセスを相互に愛でることのできるコミュニケーション文化の生成に連なるべく,『ThoughtTrace』(思考プロセスのトレース)という創造性の秘部に肉迫する未知のソーシャル・ソフトウェアの構築を目指す.そのために,キーボード・タイピングによる文字入力プロセスの遍在的な追跡システムの実現に加えて,そのプロセス情報から必然性のある価値を抽出するための解析アルゴリズムの実装を行い,最終的にはそのシステムを社会実装するためのビジネス・モデルを提案する.
現在,コンピュータを用いた文書作成においては,入力結果としての文字列のみをデータとして保存し,その細かな過程の情報(プロセス)を捨象している.ゆえに私たちは,自らの,そして他者の情報入力のプロセスに含まれる微かな兆候に気付くことのないまま,多くの価値ある情報を取りこぼしてしまっている.しかし,そのプロセスに注目する術を持つことができれば,私たちのコミュニケーションの分解能が飛躍的に増大する可能性がある.
これまで,TypeTrace(TT)ソフトウェアの無償配布やウェブ・アプリケーション化を通して多くのユーザの反応を収集してきた.本提案では,より広範囲な社会実装のフェーズに移るために,次の二点の技術的課題の解決を計画している.
デスクトップ・アプリケーションや特定のプログラミング言語,もしくはブラウザ環境といった上位レイヤーに依存することなく,OSレベルの下位レイヤーにおいて普遍的にタイピング情報を記録するためのシステムの開発を行う.
『TT』 が記録する各種の入力時間情報に加えて,形態素解析や構文解析といった自然言語処理(Natural Language Processing)の技術と知見を応用することによって,作成者の論理構築能力の長期的な推移を計測するアルゴリズムの開発を行う.
そして,上記2点の開発を行った後に,教育機関や企業内における人材育成を支援するための学習ポートフォリオ・システムの提案(B2B),そしてデータポータビリティ概念に基づくSNSやブログ間のソーシャル・マッチング機能(B2C)という二つの基軸のビジネス展開案も構築していく.
「記録」部,「集積」部,「解析+可視化」部の構成による”思考プロセスの解析”は、手書きではなくコンピュータの入力による人間の思考回路、思考手順を解析するだけではなく、自己解析や思考のプロセスに対する第3者の理解を深め、児童教育から企業における業務指導まで含めて幅広い展開を期待できると考える。