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2004年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 



1.担当PM


 竹内 郁雄   (電気通信大学教授)



2.採択者氏名


 代表者

星月 優佑  ( 私立美濃加茂中学高等学校 )

共同開発者

奥野 修二 (大阪大学大学院 工学研究科)

 



3.プロジェクト管理組織


  三菱マテリアル株式会社


4. 委託支払金額


 3,000,000円



5.テーマ名


  アニメーション(人工画)向けの超低損失動画圧縮の開発



6.関連Webサイト


 http://www5f.biglobe.ne.jp/~katuragi/youth/



7.プロジェクト概要


 

 現在,画像の不可逆圧縮に使われている技術の根幹となっているのは, DCT ( 離散コサイン変換 ) である.これは,画像を周波数空間に変換する方法であり,これによって視認しにくい高周波を間引くことが出来,データ量を圧縮することができる. DCT は比較的多くの計算コストを必要とし,また,色の境界など急激な変化をする場所 ( つまりは波の性質を持たない所 ) ではノイズを発生させてしまう.このノイズはモスキートノイズと呼ばれ,特に人工画,例えばイラストのようなエッジのはっきりした絵や,文字,枠線などにおいて顕著に見られる.この性質は,同じ技術を利用する動画圧縮にも見られ,アニメーションにおいては,モスキートノイズやブロックに分割していることによって生じるブロックノイズがやはり顕著である.比較的新しい動画圧縮では,フィルタをかけることによってこれらのノイズを目立たなくしているが,もちろん劣化はするので根本的な解決ではなく,また,さらなる計算コストを要する.

 本提案では,その対策として, DCT 等の周波数変換を行なわず,実空間状のまま扱う方法,すなわち DPCM 系と,フラクタル系を融合させた方法を利用する.具体的には,共同開発者 ( 奥野修二 ) が提唱した方法と,現在テクスチャ圧縮等で利用されている減色系の方法,従来の動き補償を改良した方法などを使用する.これらの方法は,波的な性質を示さない人工画に対して特に有効であり,ノイズが視認レベル以下の超低損失領域において性能を発揮する. DPCM 系の圧縮でもあるので,計算量も抑えられる.また,従来の動き補償などは元々実空間上での処理であるため,これらの方法とは整合性が良い.

 期待できる効果として,アニメーションのような人工画に対しては,従来以上の圧縮率を持ったままノイズなしに近い動画再生を可能にする,特別なハードを追加しない PC やゲーム機など,計算能力の低いハードにおいてもフルレートでのハイビジョン再生を可能にするなどが挙げられる.

 本提案は,この技術を用いた動画圧縮を試作し,その性能を示すことを目的とする.最終的には,動画圧縮の根幹技術の一つとして,多方面に広く取り入れられることを目標とし,日本の重要な産業であるアニメーション産業,ゲーム産業を振興していく上での助けになることを目指す.





8.採択理由


 

 星月君は未踏本体も含めて最年少のプロジェクト提案代表者である.実際は共同開発者の奥野君が主宰するプロジェクトだと思うが, 2 人が同好の士としてインターネットで知り合ったというところから見ても,星月君にもちゃんと存在感がある.プロジェクトの中でどれくらいの成長を見せてくれるかが楽しみである.アニメに特化した映像圧縮というのは確かにユニークだ.オーディションでは,デモ画像のせいか,まだその特徴が際立っていなかったが,プロジェクト期間中にはっきりとアニメに特化したという特徴を打ち立ててほしい.






9.成果概要


 

 独自の手法を採用した人工画用画像圧縮技術を開発した.静止画では従来の技術より優れた性能を実証し,動画に関しても有効性を確認できた.また,この技術を採用した独自のエンコーダとプレイヤ, AVI (Audio Visual Interleaved) 内蔵型の VCM (Video Compression Manager) を整備した.これにより, AviUtl 等の AVI 編集ツールを利用した読み込み・編集・作成や, Windows Media Player Winamp といった一般に利用されているメディアプレイヤーでの再生が可能となった.

 

 具体的な開発項目を以下に示す.ただし,秘匿ノウハウを多数含むため,詳細はここには記載しない.

 

(1) 静止画圧縮の改良

 既に開発者が有している静止画圧縮技術に改良を加え,完成度を高めた.現在の主流である DCT 等の技術に代わって,独自のアイデアによる手法を実装した.これにより,静止画の処理においては従来の技術よりも優れたものを実現できた.

(2) 静止画圧縮の動画圧縮への応用のための変更

 静止画と動画では共通点も多いが,データを適切に効率良く取り扱うためには,様々な拡張が必要となる.このため (1) で開発した静止画圧縮の技術に対し,動画圧縮への応用が可能となるよう改良を加えた.

(3) フレーム間差分圧縮の開発,テスト版整備と検証

 動画圧縮の基本部分は,従来の MPEG 等で採用されている技術に基づいており,それをさらに独自のアイデアで拡張した.具体的には, I フレーム, P フレーム, B フレームの概念はそのまま活用するものの,モデル化並びに符号化の処理に独自のアイデアでさまざまな工夫を加えた.これらについてテストを行ない,その有効性を確認した.

(4) 動画圧縮のテスト版整備と検証

 静止画圧縮技術でも同様であるが,動画圧縮技術においては,視認による検証が静止画の場合よりも重要である.このため,簡易エンコーダ,デコーダを準備し, (3) の開発と並行して検証作業を実施した.

(5) エンコーダ,デコーダの整備

(4) までの作業により,実際に動画圧縮技術を開発することができた.この技術を一般に利用可能とするために,まずエンコーダとデコーダ ( プレイヤ ) を整備した.これらは本技術が採用した独自形式に対応したものである.

 加えて, AVI 内蔵型の VCM (dll で配布 ) を整備した.これにより, AviUtl 等の AVI 編集ツールを利用した読み込み・編集・作成や, Windows Media Player Winamp といった一般に利用されているメディアプレイヤでの再生が可能となった.

 従来の DCT 処理では,比較的大きな計算コストを要する上,ノイズの発生が避けられない.実際,図 1 の原画に対し,図 2 のようにモスキートノイズと呼ばれるノイズが発生する.これに対して,本技術ではアニメのような人工画に特化した独自のアイデアを実装することで,ノイズの発生を抑える(図3参照)とともに,圧縮性能の向上を実現した.本技術の優位性は,本プロジェクトが重視した低損失領域で顕著であり,静止画に関しては,画質,速度,圧縮率等,すべてにおいて従来の技術に勝っている.

 

 

図1原画(c)萩原音泉

                                                                星月 図 1 原画

 

図2JPEG         図3オリジナル 星月図2 DCT によるモスキートノイズが見える           星月図3 今回開発版ではノイズが抑えられている





 



10. PM評価とコメント


 

 星月君は,未踏ユース ( どころか未踏ソフト事業全体を通じて ) 史上最年少の 16 歳である.それに対して共同研究者の奥野君は 25 歳. 9 歳も違いながら,まるで同年輩のお友だち同士という雰囲気である.これはもっぱら星月君の若干すっ飛んだキャラによる.彼は誰ともお友だち的な話し方をする,実にやんちゃな高校生なのだ.圧縮に関する技術開拓は見るところもっぱら先輩格の奥野君の仕事である.星月君はそれを実装するのがメインの仕事だ.なかなか不思議なコンビであるが,ことアニメに関わると,二人ともなかなかのマニアと見た.岐阜と大阪というまったく離れたところに住み,年齢も相当に異なる二人がコンビを組むことになったのは,同好のマニアとして,インターネットで遭遇したからという.これはインターネットが広げる人の輪の面白さの一つの顕れであろう.

 さて,図 1 と図 2 で見るように,アニメ画像を相当拡大しないと,いわゆるモスキートノイズが目立たない.むしろ, PC のデスクトップのようにドット文字のあるような画面を DCT で変換したもののほうが,文字以外の陽炎のようなノイズがまとわりつくので誰にもわかりやすい.ふつうのテレビでふつうの距離で見ているかぎりは,静止画のモスキートノイズが気になることはほとんどないだろう.それは動画になればなおさらではないか?と,私はつい思ってしまうのであるが,やはりそうでない人もいる.翻って,これがオーディオだったら,オーディオマニアを自認している PM なので,許容できるどころか,そんなノイズが出る装置は投げ捨ててしまっているに違いない.

 そんなわけで,星月君と奥野君のコンビが,そこに深いこだわりをもつのは, PM には十分納得がいく.

 最終成果でも述べたように,アニメのような人工的静止画像に関しての彼らの圧縮画像品質は,圧縮率は著しくは高くはないものの,同等の圧縮率の JPEG に比べて,相当に優れている.この点に関して,最終報告会で未踏ユース OB として参加していた川合秀実君が「圧縮率がもうちょっと悪くても,この方法の流れで可逆圧縮を実現したほうが,多くの本格的アニメマニアは喜ぶのではないか」というアドバイスをしていた.これは最近可逆圧縮マニアの極地を突っ走っている川合君ならではの,たしかにむべなるかなの意見である.星月・奥野コンビも,その方向への展開に目を向けてみる価値はある.

 動画の圧縮については MPEG に比べて圧縮率のデータ的な優位性は示されているが,正直なところ,よほどしっかりしたモニタでじっくり見ないかぎり,画像品質の差を感じるのは難しいという印象を受けた. ただ,導入されている要素技術はどれもかなり興味深い.

 今後もこのプロジェクトの成果を発展させていくことを期待する.アニメはなんといっても日本のお家芸であり,それに特化した圧縮技術も日本発となれば,こんなに嬉しいことはない.

 知財戦略はしっかりしており,近々この技術に関して特許を申請すると聞いている.そのため,技術の詳細をほのめかすような要素技術についてもここでは触れないことにする.なお,本技術を採用したコーデック ( データの圧縮・伸張ソフトウェア ) を整備し,利用に関してはライセンスフリーで提供する予定という.

 

 プレゼンテーション技術はもう少し磨いたほうがいいと思うが,それは時間と慣れの問題だろう.ともかく, 16 歳と 25 歳のコンビがこれだけの仕事を成し遂げ,さらなる発展を予感させるとは驚きである.ただし, 2 人ともまだ荒削りなので,未踏ユースの準スーパークリエータの称号をおくりたい.もう少し磨けば本物のスーパークリエータになれる.




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