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2004年度第2回未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー: 伊知地 宏 (ラムダ数学教育研究所 代表)



1.プロジェクト全体の概要

 領域を問わずに公募を行い,44件の応募から以下の6件を採択した.
  (1) 望月茂徳:デジタル万華鏡 -ビジュアルエンターテイメントソフトウエア-
  (2) 美崎 薫:SmartWrite&SmartCalendar
  (3) 千田範夫:Winmostar:分子計算支援ソフトウェアの開発
  (4) 堀 玄:確率文脈自由文法に基づく遺伝子情報RNAデータベース検索システム
  (5) 大西秀志:局所探索が使える制約プログラミングシステムの開発
  (6) 服部健太:やさしい仕様記述による通信プログラム自動生成系の開発
 大きく分野を分けると,芸術・ユーザインタフェース系が2件,数理科学の支援系が2件,プログラミング言語系が1件,ソフトウェア工学系が1件となった.上記のリストではこの順で並べてある.
 望月さんの「デジタル万華鏡 -ビジュアルエンターテイメントソフトウエア-」は,カメラで取り込んだ画像をフラクタルな図形としてとらえ,相似性に着目して図形分解し,別に用意した画像をカラーマップとして使って,分解した図形に対応付けて彩色し直すというもので,元画像の色をフラクタル性のあるものに変えて芸術的な絵を作成するソフトウェアを開発するものである.開発は技術面では順調に進んだが,芸術とは何かの理解に時間がかかり,6月以降PMも積極的に関与したが,芸術作品といえる画像を作り出すという目標までは少しばかり及ばなかった.最終的にはエンタテイメント性のあるソフトウェアを仕上げることにし,かなり完成度の高いソフトウェアが誕生した.
 美崎さんの「SmartWrite&SmartCalendar」は,記者の経験を活かして,ペンだけでシームレスに使える手書きメモ書きソフトウェアと,写真やメモ書きを簡単に整理できるソフトウェアを開発しようというものである.ペンコンピュータが世の中に増えてきているが,それに対するキラーアプリケーションがないのが現状であり,美崎さんの構想するソフトウェアはペンコンピュータの価値を高める可能性が大きい.美崎さんはプログラムを書けないため,仕様書をちゃんと作ることに力点を置き,プログラミングにはアルバイトを雇ってソフトウェアを開発するという方式を取った.仕様書の書き方にはいくつかの問題点もあり,仕様と出来上がったソフトウェアの間で不一致な部分もいくつか生じているが,かなり完成度の高いソフトウェアが出来上がっている.
 千田さんの「Winmostar:分子計算支援ソフトウェアの開発」は,計算化学を支援するソフトウェアを開発するものである.私が採択したプロジェクトの中では唯一,採択前から数年に渡ってソフトウェアの開発がかなり行われていて,開発スタート時点で分子計算などの機能面はすでに多くが出来ており,ユーザインタフェースの改良と,他の計算化学ソフトウェアとの接続性を良くすることが大きな目標であった.千田さんの本業は化学分析であり,サンデープログラマーであるにもかかわらず開発は至って順調に進み,高度なユーザインタフェースを持つ計算化学ソフトウェアが完成した.本プロジェクトに関しては,PMが開発に関与する必要が全くなかった.
 堀さんの「確率文脈自由文法に基づく遺伝子情報RNAデータベース検索システム」は,申請時には確率文脈自由文法のパーザーを作るというものであったが,それではほとんど未踏性がなかったものの,申請書で応用に書いてあった遺伝子情報RNAデータベース検索の重要性にPMが着目し,テーマを変更して採択したものである.他の採択プロジェクトでは人材発掘,個人の才能開花に力点を置いているが,本プロジェクトだけはテーマの重要性に鑑みて進捗管理を行った.確率文脈自由文法のパーザーの開発にPMの予想外に時間がかかり,本来の目標であった遺伝子情報RNAデータベース検索システムの開発には後半3ヶ月程度しか時間をかけられず,簡単な検索システムが出来ただけで終わってしまった.
 大西さんの「局所探索が使える制約プログラミングシステムの開発」は,局所探索の方法を画期的に変えることを目標としたものである.局所探索問題を解くには,問題ごとにその問題用のプログラムを書かないと解けないことが多いが,大西さんのプロジェクトは,汎用的な大域探索プログラムをベースにシステムが問題に対して制約プログラムのカスタマイズをして,局所探索問題を解くシステムを作ろうというものである.大西さんが4月中旬に体調を崩し,以後開発が止まってしまったために,ソフトウェアは目標の70%程度の完成度であるが,それでもかなり画期的なソフトウェアが出来ている.
 服部さん・数馬さんの「やさしい仕様記述による通信プログラム自動生成系の開発」は,通信プログラムをターゲットに仕様記述言語を設計し,仕様記述からC言語のプログラムを自動生成しようというものである.仕様記述言語はプロセス代数をベースにして,関数型プログラミング言語のような宣言的な記述を行え,条件分岐による泥臭いプログラミングをしないでよいようになっている.いくつかの通信プロトコルに対しては満足できるプログラムを生成できるようになっているが,生成されたプログラムの最適化が行われていないために,時間的に厳しい問題に対してはまだ適用できない可能性が高く,実用化のためにはまだ課題があると思われる.
 全般的に見るとプロジェクトは順調に進んだ.細かいところで未達成の項目があるものの,当初に計画された開発内容は多くが達成された.特に,千田さんのプロジェクトは開発が順調に進み,開発内容のレベルも高く特筆に価するものである.また望月さんのプロジェクトは評価が分かれると思われるが,PMにとっては楽しく遊べる面白いソフトウェアが出来たと感じている.



2.プロジェクト採択時の評価(全体)


 公募の際に,対象とするプロジェクトを以下のようにした.

  基本的には公募分野を限定しない.未踏性が高く,2,3年内には実用化が可能なものを対象とする.ただし未踏性が同じレベルとPMが判断した場合には,以下の分野のものを上から順番に優先する.
  ・ プログラミング言語: 新しいプログラミング言語,言語処理系実装技術,プログラム変換,プログラミングツール,ビジュアルプログラミング,プログラム自動生成,制約解消系など
  ・ 芸術や娯楽を支援するソフトウェア: 音楽,文学,絵画などの作成,鑑賞を支援するソフトウェア,ゲーム作成を支援するソフトウェアなど
  ・ 数理科学の研究・教育を支援するソフトウェア: 数学,計算機科学,物理学などの数理科学の研究や教育を支援するもの.例えば,数式処理系,証明支援系,対話的学習システムなど.
  ・ ユーザインタフェース: Web,例によるプログラミング,実世界指向などで実用的なもの.
  ・ その他.

 また,審査の基準を以下のように置いた.

  ・ 開発成果が与える効果: 既存ソフトウェアに対してコスト面,性能面で圧倒的に凌駕する.あるいはこれまでよりも 広い範囲に適用できるようになる.
  ・ オリジナリティー: アイデアの斬新さがある.
  ・ ソフトウェアの完成度: 新しい技術の実験ではなく,使えるソフトウェアの完成を目指していること.

 この結果44件の応募があり,4次に渡る書類審査と書類審査合格プロジェクトに対する面接審査を行って,6件を採択した.
 審査においては,隠れた人材の発掘を最も重視した.研究の片手間でソフトウェアを作るようなもの,開発内容に対して開発メンバーの数が多すぎるものは,ソフトウェアの完成度を高くすることが出来ない可能性が高く,人材発掘としての意味合いが薄いので,書類審査の時点で落とした.面接審査に至ったプロジェクトは,未踏性あるいは新規性が高いか,実用性あるいは社会への影響が大きいと思われるもののいずれかである.
 望月さんの「デジタル万華鏡 -ビジュアルエンターテイメントソフトウエア-」は,アイデアの奇抜さ,面白さ,斬新さ,および工学的技術の確からしさを評価し,未踏性が高いと判断した.芸術的才能については全くの未知数であったが,志の高さからその可能性を期待するとともに,芸術家などとの出会いを作るなどPMが関与するプロジェクトと位置付けた.
 美崎さんの「SmartWrite&SmartCalendar」は,美崎さんがプログラムを全く書けないというデメリットが気になったものの,コンピュータ関係の記者としての経験に基づいた着想には斬新さが際立っており,自分の道具を作りたいという志も高く,ペンコンピュータ向けの面白くて実用性の高いソフトウェアが出来上がることが期待でき,さらに初めてのソフトウェア開発を通して人材発掘が出来る可能性も高かったので採択した.
 千田さんの「Winmostar:分子計算支援ソフトウェアの開発」は,面接時点ですでに質の高いソフトウェアが出来上がっていたが,このようなソフトウェアを開発する人を世の中に広く紹介しなければいけないという思いから,また独特の個性があり,その個性をさらに磨くという人材発掘の観点から採択を決めた.
 堀さんの「確率文脈自由文法に基づく遺伝子情報RNAデータベース検索システム」は,申請時には確率文脈自由文法のパーザーを作るというものであったが,それではほとんど未踏性がなかったものの,申請書で応用に書いてあった遺伝子情報RNAデータベース検索の重要性にPMが着目して面接を行い,十分に検討した上でテーマを変更して採択した.遺伝子情報としてはDNAの解析が注目されていて,RNAに関するソフトウェアはあまりないため未踏性が高く,良いソフトウェアが出来たときには遺伝子の研究に与える影響も大きいので,人材発掘とか開発者の能力ということをある程度無視して,場合によってはPM主導のテーマにすればよいと思い採択した.
 大西さんの「局所探索が使える制約プログラミングシステムの開発」は,提案時点から非常に未踏性の高いものであった.理論的には可能であることはわかっていても,それを本当にソフトウェアとして実現できるかどうかは未知の部分が多く,大失敗する可能性も高いものであったが,PMが積極的に関与すれば,若い人の成長にとって良い経験になると考え,未踏性に加えて人材発掘の観点から採択を決めた.
 服部さん・数馬さんの「やさしい仕様記述による通信プログラム自動生成系の開発」は,提案時点での理論面,技術面の検討がかなり不十分であったものの,開発に対する意欲を強く感じ,また志も高く,提案されたソフトウェアが完成するとその実用性も高いと思われたので採択とした.理論面で不十分な点はPMが積極的に関与する方針とした.



3.プロジェクト終了時の評価


 プロジェクトは全般的に順調に開発が終了した.一部には途中で開発の遅れや混迷状態が見られたものもあったが,それらのプロジェクトにはPMが積極的に関与し,問題の提示,考える視点の提供,技術的アドバイスを行い,最終的には当初の目標に近いレベルにまでに達した.
 採択時の評価に対して,期待以上の高い成果を出しているのが,千田さんのプロジェクトである.また,予想以上に頑張って成長したのが望月さんである.
 千田さんの「Winmostar:分子計算支援ソフトウェアの開発」では,計算化学に必要な機能とユーザインタフェースが開発された.未踏ソフトウェア創造事業で開発をする前に,主な基本的な機能がすでに開発されていたとはいえ,未踏ソフトウェア創造事業での開発期間でも,ユーザインタフェースの改良や他の計算化学ソフトウェアとの連携機能も実現し,数百万円もする製品と同等のソフトウェアをフリーソフトとして作り上げた実力には素晴らしいものがある.58歳という年齢と,平日夜には1,2時間程度で主に土日にソフトウェア開発しているとは思えないほどの開発の早さに驚いた.「スーパークリエータ」と認定するのにふさわしい.
 望月さんの「デジタル万華鏡 -ビジュアルエンターテイメントソフトウエア-」では,カメラで撮った画像に対してフラクタル性を使って,指定されたカラーマップにより彩色を行うシステムが開発された.さらにそのメカニズムを使ってカラーマップを当てるゲームも開発された.6月まではフラクタル変換のメカニズムがある程度出来ただけで,芸術面には全く手が出せずどうなることかと思ったが,PMが積極的に関与し,公立はこだて未来大学の芸術家達を訪ねていって議論をし,また情報処理学会ヒューマンインタフェース研究会主催の合宿形式ワークショップに連れて行くことで,芸術的な面と娯楽の面から刺激を与えた.それに触発されてある程度のレベルまで芸術的な思考が出来るようになり,遊びの楽しさも体得して,まだ芸術面から見ると不完全な面もあるもののかなり面白いエンタテイメントソフトウェアが出来上がった.最終2ヶ月間の成長には目覚しいものがあり,今後の更なる成長が大いに期待できるので,「スーパークリエータ」と認定しても良いと判断する.
 ほぼ予定通りに開発が進んだのが,美崎さんの「SmartWrite&SmartCalendar」と服部さん・数馬さんの「やさしい仕様記述による通信プログラム自動生成系の開発」である.それぞれ高い目標をすえていたので,十分に良い成果が出たと言える.この2つのプロジェクトに対してPMは積極的に関与した.美崎さんのプロジェクトでは,仕様の書き方をあまり理解していなかったので,開発期間の中頃から仕様をどう書くべきなのかを指導した.服部さん・数馬さんのプロジェクトでは,開発テーマに対して理論的な面での弱さを感じたので,プロセス代数の勉強を指示し,さらに関係する学会に連れて行って研究者と話をさせ刺激を与えた.開発を順調にすすめるために,こういったことが良い影響を与えたと信じている.
 堀さんの「確率文脈自由文法に基づく遺伝子情報RNAデータベース検索システム」は,開発者の能力を少々無視して進めたプロジェクトであったので,確率文脈自由文法のパーザー開発にPMの予想をはるかに超える時間がかかり,本来の目標である遺伝子情報RNAデータベース検索システムを開発する時間が短くなりすぎて,PMが期待したような成果には至らなかった.しかし開発者はそれなりに頑張っていたので,PMの見積もりが甘すぎたと反省している.
 大西さんの「局所探索が使える制約プログラミングシステムの開発」は,目標としている成果の70%程度しか出来なかったが,その理由は4月中旬に大西さんが体調を崩し,以後開発が完全にストップしてしまったためである.開発期間9ヶ月のうち4ヶ月半で70%の成果をあげたので,大西さんの能力は極めて高いとPMは見ている.そしてその成果は高いレベルにあり,もし開発期間をフルに使えれば物凄いソフトウェアが出来たのではないかと思うと非常に残念である.体調が戻ったら是非とも開発を続けて,目標としていた物を完成させてもらいたいと思う.


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