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2004年度第2回未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM


 伊知地 宏 (ラムダ数学教育研究所 代表)



2.採択者氏名


 代表者

 千田 範夫 (出光興産株式会社 中央研究所)

共同開発者

 なし



3.プロジェクト管理組織


 日本エンジェルズインベストメント株式会社



4.委託金支払額

 

 3,247,700円



5.テーマ名

 

 Winmostar:分子計算支援ソフトウェアの開発



6.関連Webサイト


 http://winmostar.com/ 



7.テーマ概要


 本プロジェクトは,計算化学の基礎技術である分子計算を簡単に実行できるソフトウェアを開発するもので,既に開発済のWinmostar V2をベースにして改良を加え,より高機能でユーザーフレンドリーな分子計算支援GUIソフトWinmostar V3を開発するものである.
 開発言語はDelphiをメインにして,一部はFortranを用いて行われ,Windowsネーティブで動作するGUIアプリケーションZ-Matrixの原子指定順序の最適化が開発された.またWindowsのGUIからLinux計算サーバーの分子計算プログラムを起動する,リモートジョブ制御方式を実装し,さらにWine (Linux上のWindowsエミュレータ) を用いてLinux上でGUIを実行できるようにもなった.



8.採択理由

 

 分子モデリング,分子計算を行うソフトウェアを開発する提案である.すでに基礎となる部分のソフトウェア開発は行われていて,フリーソフトウェアとしてリリースされているので,未踏性という面では若干弱い面もあるが,このソフトウェアが計算化学領域に与える影響はかなり大きいように感じる.何よりもコンピュータソフトウェアが専門でなく工業化学が専門なのに,一人でこつこつと画期的なソフトウェアを作ってきたことは,未踏ソフトウェア創造事業の人材発掘として非常に意味があるとともに,このソフトウェアを完璧に完成させ,もっともっと実用性のあるものにすることは意義深いものだと思う.開発者は工業化学とソフトウェア開発の両面で十分な知識を持っているので,質の高いソフトウェアが出来ることが大いに期待される.



9.開発目標


 以下の項目が本プロジェクトの開発目標である.
  (1) 分子表示機能の改善
  (2) 簡易分子力場法を用いたクリーン (構造緩和) 機能
  (3) VRML出力機能
  (4) CIF形式データ対応
  (5) Z-Matrixの原子指定順序の最適化
  (6) 10万原子に対応
  (7) Gaussian03のインターフェイス改善
  (8) GAMESSとのインターフェイス改善
  (9) 優秀な国産ソルバーとのインターフェイスを作成
  (10) Linux対応
  (11) 他GUIソフトとの親和性を高める




10.進捗概要

 

 ソフトウェアの開発は土日を中心に行われ,平日には勤務後の1,2時間程度であったにもかかわらずソフトウェアの開発はきわめて順調に予定よりも若干早いペースで進み,PMが関与する必要は全くなかった.



11.成果

 
 (1) 分子表示機能の改善
 Winmostarの標準の分子表示は,2D表示を基本にした疑似3Dの立体棒球表示である.陰面消去はZソート法を用い,球では3階調,棒では2階調で立体感を表わしている.棒が球の手前で接する輪郭は半楕円であるべきところを,半円で代用してプログラムの簡易化と表示の高速化を図っている(図1).

図1 擬似3Dの棒球表示(2.5倍表示)

 

 以上の基本表示機能に加えて,以下の機能も実装された.
 (a) 遠近法表示,(b) 原子色の変更,(c) 輪郭の明瞭化,(d) ダブルバッファリング.

 (2) 簡易分子力場法を用いたクリーン (構造緩和) 機能
 分子軌道計算の初期構造として,簡易的な分子力場法を用いて構造の歪みを最小化しておくことで,構造最適化の安定化と高速化が図れる.既に開発済の分子力場プログラムの修正と,原子種毎の結合距離,結合角,二面角のパラメータの追加・調整を行った.

 (3) VRML出力機能
 2D表示で困難なところはVRMLで出力し,VRMLビューワを利用するようにした.分子構造と分子軌道,電子密度,静電ポテンシャル等のVRML出力に対応し,透明表示を可能にした.さらに,等値面でのMOや静電ポテンシャルのマッピング表示を実装した (図2).


図2 ジベンゾチオフェンの電子密度等値面にHOMOマッピング (VRML)

 

 (4) CIF形式データ対応
 X線結晶構造データで用いられるCIF形式データに対応することで,X線結晶構造データを分子軌道法の初期構造データとして利用可能にした.分子内対照性を用いたデータ形式には,Cambridge Crystallographic Data Centre (CCDC) のMercuryにデータを渡して起動するようにした.

 (5) Z-Matrixの原子指定順序の最適化
 Z-Matrixでの最適化では,原子指定順序が適切でないと構造最適化に時間がかかったり,発散したりすることがある.図3aのような座標順序の場合は1番原子から遠く離れた原子の位置が大きく動くので構造最適化が不安定になるが,新規に開発した方法で図3bのような順序にすることで,構造最適化を安定化させることが出来た.

図3a 最適化前の順序

 


図3b 最適化後の順序

 

 (6) 10万原子に対応
 2000原子の制限を10万原子まで拡張し,合成高分子の分子動力学シミュレーションの表示や生体高分子の表示も可能にした.分子座標の配列に動的配列を用い,読込む分子の大きさによって自動的に配列を拡張するようにした.

 (7) Gaussian03のインターフェイス改善
 Gaussian03 (世界で最も広く利用されている非経験的分子軌道法ソルバー) のデータ作成,計算結果表示機能を改善した.VRML機能を利用して,等電子密度面に静電ポテンシャルや分子軌道のマッピングを可能にした.図2は、Gaussian03の計算結果である.

 (8) GAMESSとのインターフェイス改善
 Gaussian並みの機能を有するフリーソフトであるが,利用ノウハウやツールが不足しているために普及していないGAMESSのGUIを改良した.最新版のPC-GAMESSとWinGAMESSの起動が出来るようにし,分子軌道表示にも対応した.VRML機能を用いて表示したスチレンのHOMO軌道を図4に示す。GaussianとMOPAC (世界で最も広く利用されている半経験的分子軌道法ソルバー) についても、同様な表示が可能である.また,構造最適化の構造変化をアニメーション表示することも出来る.これは、表示機能の改善 (ダブルバッファリング) によって可能になった.

 


図4 スチレンのHOMO軌道(VRML)

 (9) 水素付加機能
 当初の予定には入っていなかったが,水素のデータが不足しているPDB形式データに水素を自動付加する機能を実装した.結合長等の構造情報を用いて,適切な付加水素の数と位置を推定している.この機能は、生体分子の分子軌道法計算に広く応用できる.

 (10) 紫外・可視吸収スペクトル計算
 これも当初の予定には入ってなかったが,日本コンピュータ化学会に登録されているプログラムP083(CNDO/S法:Fortran)を改良してコンパイルした.バイナリをExecCmdで起動し,計算結果のスペクトル表示機能も実装した.

 

 

図5 メロシアニン色素の紫外・可視吸収スペクトル

 

 (11) 優秀な国産ソルバーとのインターフェイスを作成
 ソルバーとしては優れているが,GUIが充分な機能を持たないために普及が遅れている国産ソルバーのGUIに対応した.分子軌道法ABINIT-MP (平成13年度未踏ソフトウェア創造事業「フラグメント分割法に基づいた並列分子計算プログラムの開発」) と,分子動力学法のGUI機能に対応した.ABINIT-MP対応は,水素自動付加を利用し,PDB形式出力機能で入力データ作成に利用できる。

 (12) Linux対応
 WindowsのGUIからLinux計算サーバーの分子計算プログラムを起動するリモートジョブ制御方式を実装した.rsh,ftpをベースに実装し,計算プログラムとしてGaussian98/03に対応した.ジョブ管理ツー (LSF) にも対応し,計算サーバーの負荷状況の確認,ジョブの投入,実行状況の確認,ジョブのキャンセル等が,図6の画面で制御できる.

 

 

図6 リモートジョブ制御画面

 

 (13) 他GUIソフトとの親和性向上
 他の国産フリーソフトとの親和性を高めるように,座標形式の追加とWinmostarの起動オプションを追加した.FacioのGAMESS、Gaussian出力の拡張子に合わせることでFacio特有の処理に移し易くした.MolWorksの座標形式出力をサポートし,MolWorksで物性推算機能を利用できるようにした.Moldaの座標形式出力をサポートし,Moldaの生化学機能を利用し易くした.



12.プロジェクト評価


  非常に順調に質の高い分子計算ソフトウェアの開発が行われた.未踏ソフトウェア創造事業採択以前から独自に開発が進められており,採択後の開発は改良が主であるが,創造性の高さは十分に示された.

 ・未踏性: A
  同種のソフトウェアは高価であり,それと同等以上の機能をフリーソフトウェアで提供することの未踏性は極めて高い.
 ・先進性: A-
  特筆すべき技術的進展はないものの,既存技術を上手に使いまわす技術力は高く,技術的先進性もあると判断できる.
 ・実用性: A
  すでに広く使われている実績がある.
 ・社会への影響: A
  老齢化社会の中で薬などへの注目も高まっており,こういうソフトウェアは今後の社会への影響力が大きいと考えられる.
  (A: 高い,B: 並,C: 低い)

 スーパークリエータと認定する.




13.今後の課題


 すでに完成度は高いが,ユーザーの要望を聞いて,さらなる機能アップをして欲しい.また,このようなソフトウェアが日本国内だけでしか流通しないのは勿体無いので,是非とも英語のホームページを作り,メニューなども英語に対応するようにして,世界中に広めてもらいたい.



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