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2004年度第2回未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM

 

 原田 康徳  (NTT コミュニケーション科学基礎研究所 主任研究員)



2.採択者氏名


 代表者

 杉本 達應 (名古屋学芸大学 メディア造形学部映像メディア学科 専任助手)

共同開発者

 宮原 美佳 (フリーランス)



3.プロジェクト管理組織


 エヌ・ティ・ティ出版株式会社



4.委託金支払額

 

 7,969,730円



5.テーマ名

 

 かんたん映像編集ソフトをつかったメディアリテラシー教材の開発



6.関連Webサイト

  

  http://www.videologue.com/moviecards/



7.テーマ概要


 本プロジェクトでは,メディアリテラシー教育のワークショップ教材としての映像編集システムを開発する.このシステムは,映像編集の経験を問わず誰でもかんたんに使用できることが特長で,ユーザが撮影したビデオ映像を,撮影単位ごとに印刷される紙製のカードを使って編集できる.また,このシステムは,単なる映像編集ソフトウェアではなく,参加型ワークショップでクリエイティブな経験を提供するツールとしても開発する.




8.採択理由

 

 シンプルなアイデアで実装もそれほど難しくはないが,このアイデアが技術側ではなくメディア側の人間から出てきたところに高い可能性を感じる.提案者にしかできないきめ細かなチューニングをして子どもたちが簡単に使えるシステムを目指して欲しい.



9.開発目標


 今日わたしたちは,さまざまなメディアとの関わりを通して,社会を知り参画している.この状況を「メディア社会」と呼び,人々がメディアを意識し理解する「メディアリテラシー」の重要性が大きく議論されている.「メディアリテラシー」は,以下にあげる複合的な能力のことを指す.
 ・メディアを主体的に読み解く能力
 ・メディアにアクセスし,活用する能力
 ・メディアを通してコミュニケーションを創造する能力
 これらの能力を養成するメディアリテラシー教育が日本で試み始められている.しかし,現時点では適切で有効な教材がほとんど存在しない.現在の教材の問題点を以下に挙げる.
 ・ティーチングガイドブックのみで,指導者の負担が大きい
 ・メディアに関する専門用語・事前知識が必要とされる
 ・(特に映像メディアを扱う場合)機材や技術,それらにかかるコストに対する敷居が高い
 本プロジェクトでは,この状況を解決するために,映像の読み解きと活用・創造能力を習得できる新しい参加型ワークショップ「ムービーカード」を企画した.
 「ムービーカード」では,映像メディアに焦点を当てた.映像メディアを選択した理由は,映像はこどもたちが長時間みてふれている,もっとも身近で影響力が大きいメディアだからだ.「ムービーカード」は,こどもでも親しめる「カードゲーム」のスタイルで映像を作成する経験を通して,映像メディアの特性やクリエイティブな考え方を身に付けることを目指した.本プロジェクトでは,「ムービーカード」の中心的機能となるカードインターフェイスによる映像編集ソフトウェアの開発およびワークショップの調査・実践を行う.

 ムービーカード・ワークショップの概要
 対象:小学生高学年から一般まで
  「ムービーカード」は,複数枚のカードで構成されている.それぞれのカードには,映像の1コマが印刷されていて,その画面を含んだ1カットの映像と連動している.このカードを用いて遊びながら,「すべてのメディアは,誰かによって編集されている」ことを学ぶことができる.
  ワークショップの参加者は,専門的な知識や技術を持っている必要がない.いろいろなゲームで遊びながら,簡単にメディアづくりを体験し,映像メディアの特性を理解したり,映像メディアを読み解く力を身につけることができる.
  「ムービーカード」を経験することで,映像は同じ素材でも編集次第で全く別の映像をつくりだせることに気がつく.この特性を理解した参加者は,テレビ映像をただ漠然と見て受け入れるのではなく,必ずそこには意図をもった編集者が存在していて,なんらかの偏向や加工がなされている可能性があることを意識できるようになる.



10.進捗概要


 本プロジェクトでは,紙製の「カード」を並び替えることで,かんたんに映像編集できるシステムの開発と,そのシステムをつかったワークショップの企画・開催を行い,システムの効果を実験・評価することを目的とした.
 システムの主な機能として,以下の点がある.
 ・DV形式のビデオの入出力
 ・1撮影単位ごとの映像を紙製「カード」に出力
 ・これらのカードの位置・並び順の認識
 ・カードの位置・並び順に応じた映像編集
 本プロジェクトでは,上記機能を備えたシステムを開発し,開発期間中に複数のワークショップを開催できた.

 

 

■図1.システム概要図




11.成果


1 機能開発

 ア.DV機器連携機能開発

 DV再生機器との連携に関わるシステム開発および委託を行った.DVカメラ・デッキから取り込んだDV形式のビデオファイルを入力ファイルとした.入力ファイルは,録画日時情報を利用して撮影単位ごとに個別のカードとして取り扱う.編集後のムービーは,DVカメラ・デッキへビデオを書き出すのを容易にするために,DV形式のムービーファイルとして書き出す.

 イ.カード管理機能開発

 ビデオやサウンド等のデータを「カード」単位で管理するためのカード管理機能の開発および委託を行った.
 「カード」は,素材となるデータの種類や機能によって,4種に分けた.
  ・ビデオカード
  ・サウンドカード
  ・静止画カード
  ・機能カード(切り替え効果・サウンド効果など)
 素材データのファイルへの参照を追加・削除することによって,「カード」の追加・削除を行い,「カード」のリストを管理した.それぞれの「カード」は,素材データのファイル情報とともに,固有のカードID,イン点・アウト点などのカット情報を保持する.

 ウ.映像編集機能開発

 映像編集機能の開発および委託を行った.「カード」の並び順データを入力し,映像およびサウンドの編集を行う.様々な並び順から,どのような編集結果を導くか,ユーザの感覚・予想とマッチするようにタイムラインに配置するようにマッピングのルールを定義した.
 編集作業内部では,複数のビデオトラック・サウンドトラックを取り扱うが,ユーザには複数のトラックを意識させないようにした.

 


■図2.カード配置とタイムライン配置の相関図(例)

 

 エ.印刷機能開発

 「カード」および「ストリップ」を印刷する機能を開発した.

 「カード」印刷
  「カード」のサイズは,以下の条件を満たす「L判(89 x 127 mm)」とした.
  ・グループワークに適している大きさである
  ・各社のインクジェットプリンタが幅広く対応している用紙サイズである
  ・用紙が入手容易である
 「カード」のレイアウトは,中央部に大きくポスター画像を配置し,下部には,カード名,撮影日時情報,尺,カードID情報を記載した.カードID情報は,バーコードおよび独自開発の位置検出用マーカーの2種類を印刷する.

 

■図3.カードレイアウト


 「ストリップ」印刷
  「ストリップ」のサイズも,「カード」と同様の条件を満たす「L判(89 mm)幅・可変長」とした.
  「ストリップ」のレイアウトは,一定間隔毎のフレーム画像を映画フィルムに模して表示し,左部にバーコードを記載した.フレーム抽出間隔は,ユーザ設定可能とした.

■図4.ストリップレイアウト

 

 

 オ.カード読取機能開発

 カードの並び順を読み取る機能を開発した.読取手段を調査検討し,カードに印刷する位置検出用マーカを認識するために,Intelの画像処理ライブラリである「OpenCV」を利用することにした.当初,OpenCVの持つ高速物体認識機能を検討した.しかし,マーカー画像のトレーニングに時間がかかりすぎるため断念した.最終的には,カードの置き位置を固定し,カードの有無,カード位置,カードの位置検出マーカーの位置の検出を順に行い,位置検出マーカー部分において,テンプレートマッチング機能を利用することで,カードIDを判定する手法を採った.
 *OpenCV
 http://sourceforge.net/projects/opencvlibrary/

 

■図5.読取画面

(左・カメラの入力画像,中・歪み補正のためのコーナーポイント指定,右・カード位置検出)

 

 カ.インターフェイス・装置・デバイス開発

 前項のカード読取機能の入力装置として,DVカメラ,カード置き位置を指示する敷きマットの構成される装置を開発した.
 この装置の機材選定においては,以下の条件を満たすよう考慮した.
  ・設置・調整が容易であること
  ・運搬・移動が容易であること
  ・部品等の入手が容易で安価なこと



■写真1:カード読み取り装置

 

 「カード」単体および「ストリップ」の読み取り装置として,バーコードリーダを用いた.バーコードリーダで,「カード」単体を読み取った場合,そのカード内容のプレビューを行う.「ストリップ」を読み取った場合は,2回連続の読み取りでイン点・アウト点を再設定し,カード内容の尺を更新する.
 また,カード読取装置が設置できない場合でも編集できるように,機能カードとの組み合わせにより,編集を可能とした.
 ・(例)「EDIT START」カード→ビデオ・サウンドの各カード→「EDIT END」カード

 

■写真2:カード単体およびストリップ読み取り装置(バーコードリーダ)

 

■図6:ストリップをつかったトリミング作業

 

 

 キ.ワークショップ用カードのコンテンツ制作

 ワークショップで使用する既存カードの素材として映像,アニメーション,サウンドの制作および委託を行った.

 

■図7.映像

 

■図8.アニメーションシリーズ

 

 

2 実験・評価(ワークショップ企画・開催)

 本プロジェクトで開発したシステムを実証するため,数回のムービーカード・ワークショップを企画・開催した.
 これらのワークショップでのフィードバックをもとに,システムの細かな改良を行った.

 1)メディア関係者による少人数の実験
  日時:2005年7月27日(木)
  場所:NPO法人OurPlanet-TV・メディアカフェ(東京)
  参加者:4名
  参加者のうち一人が事前に撮影した映像(約30カット)を素材に編集を行うワークショップを開催した.

 

■写真3.ワークショップの模様

 

 2)学生グループによる実験
  日時:8月1日(月)〜3日(水)
  場所:中京大学情報科学部メディア科学科
  参加者:約35名(メディア科学科2年生)
  同志社女子大学教授の上田信行氏の集中講義「メディアアート特別講義」内にて,「ムービーカード」ワークショップを実施した.また,ストリップ印刷機能を利用して,逆転ムービーや,リフレクションプレゼンテーションへの活用も行った.

 

■写真4.ワークショップの模様

 

 3)ワークショップ関係者,クリエイターへのプレゼンテーション
  日時:8月6日(土)
  場所:吉野ネオミュージアム(奈良)
  参加者:約20名
  パーティイベント「Party of the Future 2005 Plus」にて参加者にムービーカード・プレゼンテーションを行った.また,参加者の自己紹介ビデオをカードとして印刷し,カードをランダムに配り,それぞれの自己紹介ビデオを上映するイベントを行った.


■写真5.ワークショップの模様

 

 その他,
  ・2005年6月7日(火)名古屋国際センター
  ・2005年6月23日(木)熱田生涯学習センター(名古屋市)
  ・2005年6月23日(木)同志社女子大学
  などでも,調査・実験を行った.

 

3 調査・取材

 本プロジェクトの開発期間中に,教材企画の検討・具体化のために,メディアリテラシー研究者等に対して随時取材を行った.
 主な取材対象者(敬称略,順不同)
  ・水越 伸(東京大学大学院助教授)
  ・小川明子(愛知淑徳大学講師)
  ・上田信行(同志社女子大学教授)
  ・苅宿俊文(NPO学習環境デザイン工房代表)
  ほか多数.

 関連Webサイト
 http://www.videologue.com/moviecards/

 

4 開発成果の特徴

 本プロジェクトの開発成果の特徴は,以下の通りである.
  ・新しいクリエイティブツール
   映像編集という敷居の高い創造活動をかんたんに実現できる.
  ・アナログな感覚による映像経験
   紙製「カード」を手にとることで,身体的な記憶と結びついた編集ができる.
  ・グループによる映像編集
   従来の映像編集ソフトの利用では単独作業になりがちだった編集作業を,グループで行える.
  ・映像編集の構成力を養成
   従来の映像編集ソフトでは,ただ漫然と並べていくだけでも編集した気分になるが,編集前に構成をじっくり考えることを支援する.
   ムービーカードは,実物の紙製「カード」で映像編集できるシステムであり,他に類似する製品は存在しない.



12.プロジェクト評価


 まず,裏側ではコンピュータをしっかり使っているにも関わらず,ユーザからはまったく見えないというインタフェースが非常に秀逸である.カードを並べるだけで,その並べ方にしたがって編集された動画が再生される.これからのコンピュータのあるべき姿を現しているとも言える.実践を重視したために,開発されたソフトウェアは当初の計画を縮小させて実現された部分もある.それらは,今後の継続的な開発においてぜひクリアしていって欲しい.
 開発者の杉本くんと共同開発者の宮原さんの軽いフットワークが様々な局面で生かされた開発であった.



13.今後の課題


 本プロジェクトで開発したシステムは,今後以下のような取り組みが必要である.
 ・システムの統一化
  作業行程で,複数のソフトウェアを使い分けなければならないため,一貫してひとつのソフトウェアで作業が完結するよう統一化を図る.
 ・機能強化
  タイトルカードなど,これから実装したい機能の追加を行う.
 ・カード読取機能の強化
  読取を行うための「カード」は指定の位置に置かなければならないが,この置き場所をより自由にする.
  位置検出用のマーカーを,デザイン性を高くしたり,携帯電話等より普及したコードリーダを使用したりする.
  カード読取・検出・編集結果のプレビューまでの処理時間を短縮化する.

 本プロジェクトの開発成果は,システムだけでなくワークショップ全体として普及を図る必要がある.とくに,メディア,アート,教育などの各関係者に向けたムービーカード・ワークショップを引き続いて企画・開催していくことで,より多くの人へ本プロジェクトのコンセプトとシステムを知ってもらうことを目指す.


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