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2004年度第2回未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM

 

 中島 秀之  (公立はこだて未来大学 学長)



2.採択者氏名


 代表者

 近藤 秀樹 (中京大学大学院 情報科学研究科 博士課程)

共同開発者

 なし



3.プロジェクト管理組織


 株式会社創夢



4.委託金支払額

 

 6,471,000円



5.テーマ名

 

 計算機上での活動履歴を利用する記憶の拡張



6.関連Webサイト


  http://www.mind.sccs.chukyo-u.ac.jp/~hkondo/



7.テーマ概要


 計算機上でのユーザの活動全体の履歴を、アプリケーションにとらわれずに記録しておき、探索的に振り返るシステムが開発された。既存の履歴検索システムと異なり、画面イメージの時間軸に沿ったブラウズ等の手法を組み合わせ、過去の活動の場面を取り出すことで、関連するキーワードを全く思い出せない場合でも、必要とする情報を得ることを可能とした。日常的に運用し、ファイルの保存場所やコマンド名を全く思い出せなくても、実際に履歴から自然に取り出せることが確かめられた。



8.採択理由

 

 計算機の操作履歴を記録しておき,それを手がかりに必要な情報を検索するシステムの提案である.自分でも1年以上前に作ったことは覚えていてもどこに格納したかわからない資料や,プログラムの設定や使い方を忘れてしまったものなど経験があるため,使ってみたい機能である.
 単なる便利なツールではなく,認知補助という位置づけが重要である.より大きな枠組みを目指して欲しい.失敗しても良いから,あまりこじんまりとしたアプリケーション開発にならないようお願いする.




9.開発目標


 計算機は人の記憶を拡張する力を潜在的に持っていると考えられるが、実際に人の記憶を拡張し、有用なシステムを実現することは容易ではない。本開発では、計算機上で行われる活動について、適切な粒度とレベルで活動全体の履歴として蓄積し利用することで、人の記憶を拡張し、計算機上の活動を支援するシステムを実現することを目的としている。

 

 これまでにも、履歴を蓄積しそれを利用するシステムは少なからず実現されていたが、ほとんどが特定のアプリケーションの中での履歴であり、その用途も限られている。これまで、活動全体に渡って、適切な粒度とレベルで履歴を記録し、それを人の記憶の性質と整合させて有効に利用することを試みたシステムは少なく、実際に利用可能なものは普及していない。

 

 本プロジェクトでは、人に残った記憶と計算機上の活動履歴をうまく統合することで、失われた記憶を補完し、結果的に人の記憶を拡張し、計算機上の活動を一般的に支援するシステムを実装する。

 

 本開発に先立って、OS レベルの情報やユーザの自発的なメモを統合的に記録するシステムとして、WindowsXP 上で動作するNecoLogger というソフトウェアが試作されており、本プロジェクトでは試作版を発展させて履歴記録システムを実現する。NecoLogger はユーザの操作やネットワークとのIO、アクセスしたファイルのパス名、そして作業全体を見渡すための画面イメージなどといったイベント情報をOS レベルの構造を保って取り出しており、時刻、ユーザのメモ、イベント種別などを複合的に記録する。そして、NecoLogger の蓄積する履歴を元に、その履歴から情報を取り出すためのさまざまな手段をサポートするRetrospector という名前のシステムを実装し、この二つのサブシステムを組み合わせて記憶の拡張を実現する。




10.進捗概要


 @履歴記録システムの改良

 

  本プロジェクト以前に試作を行っていた記録システムをベースに、新たに内部構造の設計・試作が行われた。しかし性能に重大な問題があった。これを回避するよう再設計と実装が行われ、結果的に全てのコードが書き直された。

 

  当初の目的であった長期間の安定性と処理性能の確保について、一定の成果を得ることができた。

 

 A履歴情報の視覚化機能

 

  履歴を視覚化・検索するためのシステムとして Retrospector という名前のソフトウェアを実装した。これはすべて Visual Basic .NET で実装した。

 

 Bユーザビリティ評価・検討

 

  開発初期段階から、問題はあるが機能する版を頻繁にリリースし、実際に使っていく中で問題点が検討され、改良された。



11.成果


 これまでにも履歴を保持し利用するシステムが実現されてきたが、その多くはアプリケーションごと別々に履歴を利用するシステムとして実現されており、活動全体に渡って履歴を取り、それを利用できるようにしたシステムは少ない。これは、活動全体に渡った履歴のシステムが多量のディスクスペースなど多くのリソースを必要とすることや、複数のアプリケーションプログラムに渡った履歴システムの実現が技術的に困難であること、蓄積される大量の情報から有用な情報を取り出すことがますます困難になることなどがあったからだろう。

 

 本システムでは、ユーザの活動履歴として履歴に記録しておくものを、適切なタイミングでの画面イメージ、キーストロークやクリップボードの内容など重要なものに限定する一方で、画面イメージのサムネイルブラウザなどユーザの活動全体を見渡すためのインターフェイスを用意した。このようにすることで、履歴からの有用な情報の取り出しに、計算機の力だけでなく、人が自分の活動全体の履歴を解釈する認知能力を利用した。これまでにない履歴の有効利用を可能にするシステムを実現した。

 

 本システムでは、一連の活動全体が履歴として保持されているため、なんらかの別の手がかりで、その活動の一端を取り出せれば、人がその活動をブラウズすることで、そこから目標のコマンド名やファイル名などを取り出せる。例えば、以前に行ったネットワークのトラブルシューティングやソフトウェアのインストールなどについて、それらの記憶が全体としてあやふやで断片的なものであったとしても、その一部については憶えていることは多い。本システムではトラブルシューティング等の活動の様子全体が履歴として保持されているため、活動の一部の断片が記憶されていれば、それを手がかりに検索などをすることで、活動全体にアクセスすることが可能になる。一旦その活動を履歴の中で同定できれば、次にその活動全体を時間を軸としてブラウズすることで、忘れてしまったコマンド名やファイル名などを容易に取り出すことができる。

 

 思わぬ副作用も得られた。履歴を見直していると、一定時間(11 分程度)ごとにウィンドウの移動が見られることが多い。これはおそらく人間が一つの作業に継続して集中できるのが15 分程度であるという示唆ではないかと考えられる。今後更なる分析が必要ではあるが、UI の新しい考え方に結びつく可能性のある認知科学的発見ではないかと期待している。



12.プロジェクト評価


 計算機画面をすべて記録しておき、過去の情報を検索することにより記憶補助とするシステム。たとえば過去に苦労しながらコマンドを探して実行したものでも、そのコマンドあるいは適切な引数をを忘れてしまうことがある。従来は記憶を頼りにもう一度マニュアルなどから必要情報を探し出して再構築する必要がある。これは多くのプログラマが経験していることであろう。そのような場合に過去の履歴からコマンドを探しだすことができる。

 

 ファイル内容の検索ではなく計算機操作履歴の検索が可能である点が画期的である。データが巨大になるのが難点だが、圧縮などの工夫もなされている。

 

 ほとんどスーパークリエータに近いレベルだと考えているのだが以下の理由により、あと一歩届かなかった。

 

 画面をそのまま保存するので、ノートPC 環境では年90GB 程度の容量が必要となる。これは通常のノートPC のディスク容量を上回る量であり、そのままでは実用化できない。また古いもの程必要性が高いので消すわけに行かず、実用化のためには後一歩のデータ圧縮(画期的手法)が必要である。また検索手法の飛躍的な改善(それがどういうものかは現時点では不明だが)があれば非常に使いやすいものになるであろう。

 

 つまり、もう二つばかり画期的な手法があれば全体として大変革新的な実用システムになると考えている。




13.今後の課題


 前項で述べたように、記憶容量の削減の工夫、検索手法の向上が課題である。



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