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2004年度第2回未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー: 長尾 確 (名古屋大学 情報メディア教育センター 教授)



1.プロジェクト全体の概要


 Webのような情報共有のインフラを拡張して、人間の社会的活動を活性化されることを目標として、メタデータ(データに関するデータ)の管理とその利用の仕組み(検索、リコメンデーション、セキュリティ)に関するプロジェクトを採択した。
 具体的には、XML (Extensible Markup Language)とRDF (Resource Description Framework)に基づくメタデータ管理用ミドルウェアの開発、人間関係のメタデータをマイニングして情報のアクセス制御に用いるプライバシー管理システムの開発、ユーザー間のセンス共感度と呼ばれるメタデータを生成して情報のフィルタリングやリコメンデーション(推薦)を行うシステムの開発、一般的な文書をメタデータ付きアーティクルという、より細かい単位で管理し、柔軟な検索を可能にした文書管理システムの開発を行った。
 これらのプロジェクトはすべて試作段階を終え、メタデータ管理ミドルウェアを除き実運用可能な状態になっている。ただし、メタデータ管理ミドルウェアはその性質上、アプリケーションプログラムを開発する環境を整備する必要があり、すぐに一般ユーザーに使ってもらえるようなものにはなっていない。
 メタデータという概念そのものは新規のものではなく、すでにさまざまな仕様やツールが提案・開発されている。しかし、今回採択した各プロジェクトは、これまでのメタデータの生成・管理・利用の仕組みを拡張し、新しい観点を加えている。たとえば、ミドルウェアでは、異種システムの作成するメタデータの相互運用性を考慮して設計されているし、プライバシー管理システムでは、情報発信者である個人が自分の発信する情報の読み手を考慮したアクセス制御を、社会ネットワークに基づいて生成されたメタデータを用いて統一的に行う仕組みを提案している。さらに、リコメンデーションでは、複数のテーマに関するセンス共感度と呼ばれる、人に対するメタデータを新規に開発している。文書管理システムでも、メタデータが重要な役割を果たし、従来のファイルシステムを越えた新しいデータ管理・利用の仕組みを開発している。
 このように、各プロジェクトは情報システムにおいて今度重要な位置を占めるメタデータの地平を新たに開拓し、未来につながる重要な技術を生み出している。



2.プロジェクト採択時の評価(全体)


 第1回と同様に、プロジェクトを採択するにあたって、提案しているシステムに実現するべき本質的な意義があるかどうかを最も重要な基準とした。ただ、あったら便利だからとか面白いからとか、自分が使いたいからとかいう理由の提案は不採択とした。なぜなら、それは提案者の独りよがりである場合が多いからである。それよりも、社会的な動向や近い将来のニーズに合致すると筆者が判断する提案を優先した。
 今回採択されたプロジェクトは、いずれもこの条件を満たしている。たとえば、石戸谷プロジェクトは汎用的で拡張可能なメタデータ管理・利用のミドルウェアを開発するというもので、このようなシステムのポテンシャルは高く、将来のニーズに確実にマッチすると思われる。森プロジェクトは、従来あまり注意が払われてこなかった個人が発信する情報のプライバシー管理のシステマティックなソリューションであり、今後その必要性が増大すると予測される。須子プロジェクトは、情報検索の発展形である情報推薦に関して、センス共感度という新しい仕組みを提案し、ブログ等の現在普及する情報共有システムに導入するもので、個人間の情報流通にきわめて有効な手段を提供することになると思われる。清水プロジェクトは、オフィスアプリケーションが陥ってしまったデータ再利用の困難さに、シンプルで有効な解決策をもたらすものであり、正しい方向性を持っていると思われる。実際、AppleやMicrosoftが相次いでそれに近い発想のシステムを提案・提供しており(もちろん、これらはプロジェクトの採択後のことである)、社会的動向に合致していることが伺える。
 このように、採択された各プロジェクトの提案はけっして奇を衒ったものではなく、将来を見据えた確かなものであると判断される。



3.プロジェクト終了時の評価


 石戸谷プロジェクトは当初提案したシステムのうち、メタデータのスキーマやデータベースの管理モジュールを完成させ、オープンソースとして公開している。ただし、ミドルウェアを提供するだけでは不十分であり、アプリケーションの開発環境を同時に提供すべきである。この点は今後の課題であるが、既存のツール類の不備を補い、多くのノウハウを蓄積させている点は評価できる。
 森プロジェクトは、社会ネットワークと連動したアクセス制限モジュールを完成させ、既存ブログツールと連携させるインタフェースを提供している。開発した技術はROLIGANという名称で製品化される予定である。これは当初の問題をほぼ達成していると言えるが、さらに大きな目標「情報公開後も設定を変更できる制御可能なプライバシー管理システム(controllable privacy)」のためには、さらなる技術開発が必要である。これは基本的に情報はすべてネット上に存在し、ローカルにはそのキャッシュのみが存在する、という将来の情報共有システムを前提としているものであり、その実現にはもう少し時間がかかるものと思われる。しかしそのためのきっかけを作ったという点においても、このプロジェクトは評価できる。
 須子プロジェクトは、センス共感度に基づく情報推薦の仕組みを実装し、ブログツールを連動させることで、従来のRSSリーダーに代わる新しいツールとサービスを実現し、その試作版を公開している。これは現在100人程度のユーザーが利用している。
 これはまだ大きな社会的インパクトをもたらすには至っていないが、Google等の検索エンジンが基本的に宣伝ではなく評判によって広まったように、このシステムも今後多くのユーザーを、ユーザー間のコミュニケーションに基づいて獲得していくことができるのではないかと思う。情報推薦は確実に従来の情報検索を超える可能性を秘めている。類似したシステムがこれまでまったくなかったわけではないが、センス共感度にさらなる工夫を加えることで十分に差別化が可能である。その点も評価できる。
 清水プロジェクトは、文書のメタデータ付きアーティクルの直交化という手法を実装したZEKEエンジンおよびそれを用いたアプリケーションであるZEKEスクエアを製品化し、すでにいくつかの実用化事例を有している。当初の計画にあるオフィスアプリケーション(ワープロ、表計算、スケジュール管理など)の再構築に関しては完成していないが、基本となる仕組みは当初の発想を忠実に実現したものであり、計画の達成度はけっして低くないものと思われる。実現したツールはシンプルで拡張性が高く、今後の発展が期待される。
 以上のように、各プロジェクト共に当初の目標を完全に達成したとは言い難いが、9ヶ月間という極めて短期間の間に、比較的よく健闘したと考えてよいと思われる。
 第1回の報告書にも書いたとおり、本当の意味でのプロジェクトの評価は筆者が行うものではなく、広く世の中にそれらがもたらしたものの価値を問うべきものだろう。各プロジェクトの成果は、製品化(予定を含む)あるいは無償公開(オープンソース化あるいはサービスの公開)によって一般に利用可能な形になっている。
 これらの真の評価はこれから決まっていくことになると思われる。


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