
2004年度第1回未踏ソフトウェア創造事業 採択案件評価書


1.担当PM

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石田 亨 (京都大学大学院 情報学研究科 教授)
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2.採択者氏名

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代表者
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吉野 孝(和歌山大学 システム工学部 助教授)
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共同開発者
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なし
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3.プロジェクト管理組織

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テクノロジーシードインキュベーション株式会社
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5.テーマ名

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異文化コミュニケーションのための知識共有システムの構築
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7.テーマ概要

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本テーマの目的は,異文化(現時点の対象は日本と中国を想定)間での,コミュニケーションを支援するための知識共有システムSparkを構築することである.異文化間での知識共有の実現のために,機械翻訳サービスとRDF(Resource
Description Framework), RDF Schema(以下,RDF 技術)を用いる.構築したシステムは一般に公開する.
言語の相違に文化背景の相違が加わると,単語の対応だけでは意味のマッピングができない.日本語で「私」という単語は,相手と話し手との関係などによって,「わたし」「わたくし」「ぼく」などと使い分けが可能であり,それぞれ異なったニュアンスを持つ.しかし,英語への翻訳は全て「I」となる.こうした違いは,RDF技術を用いて,単語に対応する概念のレベルでのマッピングを経由することにより表現することができる.
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8.採択理由

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昨年度開発した発想支援システムは,
最終報告会で大きな評価を得ました. 今年度は, その発想支援システムを発展させ, アイデアを集積し, 概念を整理しオントロジー構築へと結び付けているツールが提案されています.
また, 今後の東アジアでの国際的なプロジェクトを想定し, 日中韓などの複数の言語を翻訳する機能を埋め込んでいます. 吉野さんは,
プログラム開発力は目を瞠るものがあります. 本年度の末には, 広く利用可能なツールが提供されることを期待して採択しました.
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9.開発目標

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現在,全世界で,様々な形でオントロジーが作成されつつある.しかしながら,
異なる言語間におけるオントロジーのマッピングはほとんど行われていない.一つの言語のオントロジー作成においても多くの問題が存在しているが,
本テーマではそれを承知の上で, 限定された範囲で異なる言語間のオントロジーマッピングの実現を試みる.
本システムを,平成15年度の未踏ソフトウェア創造事業で開発した発想支援システムと結合し, 同システムから利用可能にする.翻訳精度に問題のある機械翻訳に対する支援系にもなると考えている.
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10.進捗概要

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開発過程で,
議論の末, 大きな方針の転換を行っている. 単語の意味をオントロジーとして構築するのでなく, 単語にリンクされたコンテンツで意味づけを行うこととした.
これによって, 厳密なセマンティクスの議論に陥らずに, 実際的な意味づけが可能となった.
Sparkの高速化としては,リプレイ機能の高速化,オブジェクト移動の高速化が行われている.各種設定ウィンドウとして,設定ウィンドウ,入力ウィンドウと折り返し翻訳表示ウィンドウ,コンテンツ表示ウィンドウ,カラーウィンドウ作成,リンクファイル表示ウィンドウが開発されている.その他,韓国語の追加,ログデータの圧縮,複数オブジェクト選択・移動機能が追加されている.
Sparkのコミュニケーションツールとしては,平成15年度に開発した機能に加え, 動画音声通信機能(TalkGear)に,録画再生機能が追加されている.テキストベースのコミュニケーション(チャット機能)に,各チャットのメッセージに対して,アノテーションを付加する機能が追加されている.
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11.成果

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異なる言語を利用する参加者間で,自国語を利用しながら,様々なコンテンツに対して情報を付加し,知識共有できるシステムが開発された.実際に使えるよう,
機能が充実されている.利用者の好みが反映できる機能として,初期設定機能,翻訳機能,カラーウィンドウの機能,複数オブジェクトに対する操作なども開発された.多数のオブジェクトを扱った際に,動作速度の低下が生じていたが,その問題も,描画方式を変更することにより改善された.
さらに,動画音声通信機能に録画再生機能を組み込んだことにより,Sparkを用いて共有の記録・再生だけでなく,動画音声通信の状況も記録し再生できるようになり,実際のコラボレーションでの利用できるものとなっている.結果として,
非常に充実したツールが完成している. 開発成果のWebサイトを以下に示す.
http://yoshino.sys.wakayama-u.ac.jp/spark/
プロジェクトの後半では, NTTコミュニケーション科学基礎研究所から引き合いがあり,同研究所で開発しているテーブル型の協調作業支援システム(Lumisight
Table:同じ画面を見ながら,個人の情報提示が可能な機器)上で,Sparkが動作させる共同研究が始まっている.Sparkの同一共有画面で多言語利用(個人情報の提示)という特徴が,Lumisight
Tableの特長と符合したためである.
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12.プロジェクト評価

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吉野氏のソフトウェアデザイン能力および開発能力は,特にGUIの操作を中心したソフトウェアおよびネットワーク対応のソフトウェアの開発において顕著である.従来のソフトウェアは,テキストなどの表示を中心としたシステムが多いが,より自由度の高い画面上で多種の操作に対応した機能を実現している.
このプロジェクトでは, 共有画面の機能と動画音声通信機能の両方とも自前で開発している. そのため, 共有画面の記録再生機能と動画音声通信の記録再生機能の両者を使うことで,協調作業そのものを保存し再生できるという特徴が生まれた.
開発されたコードは膨大で, さまざまなサービスが提供され, 統合され, 稼動しているのが素晴らしい. サービスは, チャット,
絵文字, 共有画面を用いた知識共有ツール, ビデオ会議, プレゼンテーション, 機械翻訳など, 多岐に渡る. さらにそれらの機能を,
ネットワークに対応したリアルタイム系のソフトウェアとして開発していることも高く評価できる.

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13.今後の課題

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現実のプロジェクトでの利用を考えた場合のデータの共有方法を検討する必要がある.
現時点では,P2Pのみで利用可能であるが,P2Pでの利用とプロジェクト全体でのサーバ利用とを組み合わせる必要がある.

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