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平成15年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 




1.採択者氏名


代表者

和田裕介(慶応大学)

共同開発者

菅野吉郎(慶応大学)萩原ゆづる(慶応大学)吉村茉莉(慶応大学)



2.担当プロジェクト管理組織


 リトルスタジオインク(株)



3.委託支払金額


 2,954,400円



4.テーマ名


 ”つながる”音楽再生ソフト「VACUUN!」の開発



.関連Webサイトへのリンク


 http://rg.ok.sfc.keio.ac.jp/vacuun/



6.テーマ概要


 テーマは,“つながる”ことによって「曲を介して人とコミュニケーションでき,さらに曲に対する興味が深まり, 新しい曲に出会える」音楽再生ソフトVACUUN! の開発を目的とする.

 IPv6やRFIDなどの普及により本やCD,DVDなどがネットワークに乗る日は近い.またカメラ付き携帯のヒットに見られるように,人間が日々の生活で見たり聞いたりしたことをコンテンツとして扱う「ロギング」が将来活発に行なわれるだろう.そんな遠くもない未来を思い描き,未来の世界の本棚を作りたい.

 本棚を単なる収納家具と捉えるのではなく,コミュニケーションツールとして捉えてみると未来の本棚の新たな価値が見えてくる.現在の本棚をめぐるコミュニケーションは,本棚を見ることによって相手のことを知れたり,本を貸し借りして興味を広げたりというような楽しさがある.未来の本棚ではそれに加えて,本や人がネットワークを通じて“つながる”楽しさを提供してくれるだろう.

 本テーマである音楽再生ソフトVACUUN! の開発は未来の本棚の“つながる”楽しさを手っ取り早く実現することを第一の目的とする.RFIDが一般的に普及していない今,もっとも身近なデジタルコンテンツである音楽ファイルを対象に“未来の本棚“を作るのである.

 VACUUN! では基本的な音楽再生の他に,特徴的な機能として,(1) 現在再生している曲と同じ曲を持っている人を表示する機能,(2) 人を選択するとその人の持っている曲を表示する機能,(3) 曲を選択すると再生する機能を持つ.また,自分が誰を選択したか,誰から見られたかという履歴を見ることができる.VACUUN! ではその語源である掃除機インターフェースを使って視覚的にわかりやすく“つながり”を表現する.また,ネットワーク部分を実装するために既存のP2Pプラットフォームを利用する.

 このVACUUN!の開発や,一般公開によるフィードバックを経て,モノを介したコミュニケーションを実現するコアを見極め,未来の本棚作りに活かしていきたい.




7.採択理由


 「本だな」(メタファ) で人々をつなげるというTSUNAを,MP3音楽ソフトをベースに実現しようという提案.著作権に関わる問題をうまくクリアすれば,若者に大受け,大化けする可能性がある.きちんとした社会情報学的な裏付けがあるのも強み.そもそもVACUUN!というネーミングと,掃除機メタファがいい.こういう発想の柔らかさをとことん発揮してプロジェクトを成功させてほしい.若い人達が自分で使いたいものを自分でつくるというところが,なんといってもPMの好みである.ビジネスモデルの模索など,やるべきことも多いが,これを成功させれば,TSUNAはもっとたくましいコンセプトとして世の中に打って出ることができるようになるだろう.

 

 
8.成果概要(中間報告時)
 

 
 前期の開発では,基本的な音楽再生の機能とともに,個人が所有している曲の情報を元に,人と曲とのつながりの可視化を行なった.また,再生している曲と人 (他のVACUUN!ユーザ) とのつながりを計算し,それを視覚化,つながった人の持っている曲を見るという機能を実現した.

 VACUUN!では基本的な音楽再生の他に特徴的な機能として
(1) 現在再生している曲と同じ曲を持っている人を表示する機能,
(2) 人を選択するとその人の持っている曲を表示する機能,
(3) 曲を選択すると再生する機能
を持つ.また,自分が誰を選択したか,誰から見られたかという履歴を見ることができる.VACUUN!ではその語源である掃除機をモデルにしたユーザインタフェースを使って視覚的にわかりやすく“つながり”を表現する.和田 図1はVACUUN!のユースケースである.

 VACUUN!の実装にあたり,まずオブジェクト指向分析開発を行なった.そのあと,前期でのビルドでは,インタフェース,基本的な音楽再生機能などはFlashとScreenweaver (http://www.screenweaver.com/) を使い,Windowsの実行可能形式のファイルとして書き出せるように実装した.自分が持っている曲を公開・共有し,つながりを作り出すところはサーバー上のPHP,MySQLを使って実装を試みた.

VACUUNのユースケース図

 

和田 図1 VACUUNのユースケース

 

 一つの曲と他の人とのつながりを算出するプログラムは「対象となる曲が何か」,「その曲は誰の曲か」という情報を受け取り,サーバーに登録されている人がどのようにつながっているかをXMLの形式で返す仕組みにした.対象となる曲 (mp3) のid3タグの情報と他の人の持っている曲のid3タグの情報を比較し,同じであればつながっていると解釈する.たとえば,「A Hard Day's Night」という名前の曲が対象の時に,アーティストタグが「The Beatles」である「Help」という曲を持っている人はその曲を介してつながっていると言える.

 実際に掃除機として描画を行なうFlashのプログラムでは,それぞれのタグの項目について,「曲の名前>アルバム>アーティスト>ジャンル>年代」というような順位をつけて,つながりの度合いを計算している.たとえば,対象となっている曲とアーティストが同じ曲を持っている人よりも,アルバムが同じ曲を持っている人ほど近くに表示される,という具合である.

 

 
9.PMコメント(中間報告時)
 

 
 和田君たちは,実際にビルドを行なうことにより,より強いコンセプトの必要性,アーキテクチャ,インタフェースの問題などを発見したようである.PMはたまたま前期終了間際にプロジェクトを訪問したが,あとに述べるように後期の計画と目標について根底をくつがえすようなアドバイスを行なった.

 和田君たちは,前期で作ったビルドを実際に使ってみて以下のような問題が浮かび上がったという.

(1) つながった後にどのようなコミュニケーションが行なわれるか

 現在のビルドでは,人とつながると,その人が持っている曲と曲ごとの情報,さらに曲に関してはAmazonWebサービスを利用したCDのデータが見れ,Amazonのサイトで購入することができる.ここで,実際の本棚を介したコミュニケーションという観点に立ち返ってみると,実際の本棚では友達の持っている本をパラパラと読んだり,借りたり (はたまた借りたまま返さない「カリパク」も) することができる.このような要素を後期の開発で取り入れていきたい.

(2) もっと堅固なアーキテクチャを

 前期で作ったビルドでは,実際に大量の曲を読み込もうとすると動作が重くなったり,不具合がでる.WindowsならばVisual C++やC#,Mac OSXならばCOCOAといった言語を使って曲を読み込んだり再生したりする機能を実現したい.

 また,前期のビルドではユーザの所有している曲の情報はサーバを使って公開・共有していたが,よりユーザの行動から情報を取得したり,今後の広い視野での展開を考えるとP2Pに近いネットワークのアーキテクチャを組むと面白いと考える.

(3) インタフェース

 曲を団子と見立てて掃除機で吸い取ったり,掃除機が寄ってきたりという中間報告時(11月末時点)のインタフェースはまだまだ味気がなく,問題を抱えている.曲団子が散らばっている画面を見るという経験は,現実の本棚を覗く感覚に近づいていない (近づかなくて新しい感覚を提供してもいいが,新しい感覚もいまいち提供できていない).掃除機が寄ってくる様子も,一体どうしてつながったのかわかりづらかったりする.

* * * * * * *

 和田君たちがインタフェースに問題を感じた直接の原因はMac上の人気プログラムでWindowsにも移植されたiTuneを見てしまったことである.これは曲団子よりもはるかに一覧性がよく,むしろ本棚そのものの見掛けである.iTuneは「友達とつながった後にどのようなコミュニケーションが行なわれるか」という問題にまったく応えていないが,和田君たちの本来の狙いを考えると,見掛け,あるいは開発ベースそのものをiTuneにしてしまって,iTuneの先を走ってしまうほうがよいとPMは考えた.このような感覚は和田君たちにもあったが,未踏ユースに出した企画をそこまで曲げていいのかという心配があったようだ.

 しかし,このような方針変更は生き馬の目を抜くこの種のソフトの場合,いくらでもあり得る.幸い,ちょうど前期で掃除機メタファーは完成している.問題の本質をインタフェース画面に因われてしまってはいけない.

 VACUUN!という名前はとてもいいので,そのまま残しておくとして,iTuneベースで計画を練り直してほしい.これが本来の「本棚」メタファーになっているからである.アイデアの出発点である「友達の本棚を見る楽しさ」という観点に立ち返ってほしい.


10.成果概要(終了時)


 後期には新しい開発コンセプトが追加された. Gather&Grooveである. これはより感動的なホン (本) や人への出会いを提供するコンセプトである. 以下, 和田君たちの報告からその部分を抄録する.

* * * * * * *

 Gather&Grooveの目的はネットワークを介して, 友達やTSUNAを介して知り合った人達同士が同じ時間, 同じ場所を共有し表現を行なえる「場」を提供することである. 従来のつながりのサイクルTSUNAにGather&Grooveのコンセプトが加わることで, ヒトが集まる「場」そのものを魅力的なものにし, 「場」に惹かれることによって生じるヒトとの出会い, そしてTSUNAによって実現する新たな曲との出会いをより感動的なものにすることができるのではないかと考えられる.

 このようなつながりのサイクルTSUNAを実現し, Gather&Grooveにより「場」を提供する未来の本棚を物理的な本棚として実現したいが, 現時点では一般的にRFIDやリーダー・ライターが普及されておらず実現不可能である.  今後, RFID環境を搭載した本棚のプロトタイプを作るにあたって, 「つながり」のサイクルの仕組みをしっかりと見極めて, 固めておく必要がある.

 前期のビルドに加えて, 後期においては「場」の概念を取り入れたGahter&GrooveをGGという機能で実装した.  未来の本棚つくりに向け, 様々なコンテキストでGather&Grooveというコンセプトがどのように実現されるかを検証するための重要な第一歩である.

* * * * * * *

 以上のコンセプト追加と, 前期のビルドに対する評価から, 後期の開発は次のように行なった.

(1) 本棚的なインタフェース

 前期の成果物であるVACUUN!では人と曲とのつながり, 曲を介した人と人とのつながりを, 掃除機を使ったメタファーで表現したが, 実際に使用してみると当初再現したいと考えていた友達の本棚をみるときのワクワク感が今ひとつ感じられないというフィードバックを得た. そのため以下のようなインタフェースを実現することにより, 本棚を見るときのワクワク感とユーザビリティの向上を図った.

 ・本棚のように本が背表紙を向けて並べられていて一覧性に優れたインタフェース
 ・Aさんの本棚→曲Aを持っている人→Bさんの本棚→曲Bを持っている人・・・と次々に閲覧できるインタフェース

(2) GG機能

 Gather&Grooveは, ヒトとモノで形成されていた「つながり」のサイクルに, 新たに時間と場所というパラメータを加えたものである. これにより, 「つながり」のサイクルによってつながったヒト (他のユーザ) と, 時間と場所を共有し, さらに同じ曲というモノを介して集まるGatherという行為と, さらにそこで曲に「ノル」ことで曲に対する盛り上がりを表現するGrooveという行為を可能にする.

 和田 図2はGGの機能コンセプトを示したものである.

 

 

GGコンセプト図

 

和田 図2 GGコンセプト図

 

 本プロジェクトではGather&Grooveにおける場所の共有点は考慮せず, 時間の共有による「場」の提供に重点を置き, GG機能としてVACUUN!に追加する形で実現した. GG機能は以下のユースケースによって実装される.

 ・友達が今何の曲を聴いているのかを見る
 ・同じアーティストを聞いている人を見る
 ・曲を聴いて「ノル」
 ・友達/自分の「ノリ」を見る

 これに伴い, TSUNA及びGather&Grooveコミュニケーションを可能にするアーキテクチャの考案・構築した. 和田 図3はVACUUN!の後期アーキテクチャを示している.

 GG機能は「場」の共有に関して面白い特徴をもつ. 同じ時間を共有するリアルタイムコミュニケーションは互いへの影響力が強い. たとえば, インスタントメッセンジャーでは, あらかじめ登録しておいた友達がオンラインかどうかをリストから知ることができ, オンラインならばチャットをすることができる. インスタントメッセンジャーでは見知らぬ人を登録したり, 新しい友達に出会ったりすることはあまりない.

 しかし, VACUUN!ではTSUNAを介してつながった人とGG機能を通じて, 間接的にリアルタイムにコミュニケーションを行なうことができる (和田 図4). 見知らぬ人でもTSUNAを介して知り合った人, つまり同じ曲や似た曲をたくさん持っている人ならばその分信頼も増しリアルタイムのコミュニケーションが可能になる. さらにGrooveボタンを押してアイコンの大きさを大きくするという「ノリ」の表現により「ゆるい」リアルタイムのコミュニケーションが可能になる.

 

VACUUN! 後期アーキテクチャ図

 

和田 図3 VACUUN! 後期アーキテクチャ図

 

BrowserGG機能部スクリーンショット

 

和田 図4 BrowserGG機能部スクリーンショット




11.PM評価とコメント(終了時)


 PMは根っからの (しかも16世紀以前が好きという) クラシックファンであり, かつ一般の人から見たら多分オカルト的な境地のオーディオマニアなので, ポップス系の音楽を聴くことはほとんどない. 実際, MP3程度の音質で満足している若者たちには隔絶感を禁じ得ないのだが, それとこれとは別. このようなプロジェクトが社会現象をうまく切り取っているところに深い興味を感じる. 慶應SFCでなければ出てこないような提案というところも興味深い. 彼らが仕事場にしている建物に入ると, なるほど, こういうところからこういう自由な発想が生まれるのかなとも思う.

 iTuneにショックを受けたあとの和田君たちの変わり身は素早かった. わずか2ヵ月程度で, 次なる手のデモまでつくってしまった. Gather&GrooveのGGデモは, ちょっとお猿の太鼓みたいだったが, 結構面白かった.

 しかし, リアルタイムで同期をとりながら, 音楽で仲間が集う「場」というのはなかなかきわどい概念だ. インスタントメッセンジャーに代表されるチャットにはまる若者は多い. しかし, GGのように間接的でありながら時間 (と音楽アーティスト) を共有することから, さてどの程度の「ノリ」が生まれるのだろうか? 和田君たちはローカルにはノッていたらしいが, PMには予測がつかない. 予想外にブレークする可能性もありそうだけれども…. それにはある種のゲーム性が必要だろう. 和田君たちもそれは意識しているようだ.

 しかし, このような間接的な「つながり」はどうも本来和田君たちが考えているTUNAの概念からは「ゆるすぎて」少し外れているような気がしないでもない. そのあたりは和田君たちも気がついているようで, 最終報告会での最後のスライドでのボクダナ (ユビキタス環境における本棚) への指向がそれを物語っていた. 彼らの真の目標は, やはり本物の本棚を通したコミュニケーションにあるのだと思う. その意味で, 音楽を題材にしたVACUUN!プロジェクトはちょっと回り道だったかもしれないが, ボクダナの設計と実装に向けての良い経験が積めたのではないかと思う.

 とはいえ, VACUUN!そのものはなんとか公開に持ち込んで, 多くの人に楽しんでもらいたい. よろしく.

★★ 準スーパークリエータ: いろいろなことをよく考えている.できたソフトウェアが設計思想の氷山の一角の現われと言えるようなところが良い.




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