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平成15年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 




1.採択者氏名


代表者

上松 大輝(横浜国立大学)

共同開発者

徳永 徹郎(横浜国立大学大学院)
沼 晃介(横浜国立大学大学院)



2.担当プロジェクト管理組織


 三菱マテリアル(株)



3.委託支払金額


 3,000,000円



4.テーマ名


 場log:位置情報を利用した個人写真日記コンテンツの統合



.関連Webサイトへのリンク


 http://www.balog.jp/



6.テーマ概要


 近年,Weblog (あるいはblog) の普及に伴い,個人が情報を発信することが容易になってきている.またblogでは閲覧者が発信された情報に直接コメントすることが可能であり,Web上のコミュニケーションの形態にも変化をもたらしつつある.

 一方で最近,ケータイが常にユーザと同じ場所,時間を共有できる唯一のメディアとして特別な地位を築き始めている.ケータイを利用したblog (moblog) では,最もユーザに密着したデバイスからの情報発信ということもあり,リアルな表現が可能になる.

 しかしこれら現状のblogは,ある個人の生活を切り出したもので,一個人の視点から物語が語られているに過ぎない.

 そこで我々は,情報発信者,ひいては情報そのものが存在する「場所」に注目して複数主体による情報を再構成し提示する場所blogシステム「場log」を提案する.

 提案システムではユーザに,カメラ付きGPSケータイを用いてある場所での体験や思いを写真と文章により表現しメールで発信してもらう.またすでに個人で運営しているblog (moblog) サイトからも,RSS (RDF Site Summary) などのメタデータを利用して,情報を取得,収集し,サーバに蓄積する.このように位置情報を付加した情報を蓄積するインフラを整備することにより,さまざまなアプリケーションの可能性が広がる.

 たとえば,地図上にユーザの写真日記コンテンツを配置したり (地図ビュー),同じ場所にまつわる複数ユーザの記述を時系列に表示して閲覧しコメントしたり (時間軸ビュー) といったことが可能になる.

 今回は,ケータイおよび既存のblogからデータエントリを収集・蓄積・管理するサーバ,および地図ビュー,時間軸ビューを簡易的に実現するCGIプログラムを作成する.

 「場log」は,分散して蓄積されたblogを位置情報を基に整理し,人から街,街から人へという,新しい情報伝達,コミュニケーションの形を提供する.



7.採択理由


 技術的発想の深みはともかく,社会的な視点がしっかりしているというのが第一印象.これはGPSつき携帯などのように位置情報が自動的に取得できるモバイル機器を多数の人が使うことによって,場所・時間に連想された巨大な合作日記が溜るアプリケーション (の枠組) の提案である.開発者の想像しなかったような使い道が出てくるかもしれない.そういう意味では,ビジネスモデルに奥行きを感じさせる提案である.そのための枠組や具体的アプリの提案をたくさん出してほしい.

 まずはともかく動くものをつくったら世の中の人がどんな反応を見せるか,それが楽しみである.


 

 
8.成果概要(中間報告時)
 

 
 1.場logサーバの構築

 場logシステムでは,ユーザからコンテンツをメールで受け付け,自動処理で順次場logサーバのデータベースに蓄積する.この場logサーバを用意し,メール・ハンドリング機構を整備した.

 具体的には,カメラ付きGPSケータイから場logへ登録処理を行なう場合,以下のような手順でコンテンツデータが自動的に管理・蓄積される.

(1) カメラ機能により撮影をする.この際,Exif情報並びに位置情報が自動的に画像 (JPEG形式とする) に付加される.

(2) 撮影した画像を添付ファイルとし,場logシステムのコンテンツ受付用メールアドレスにメール送付する.

(3) 場logシステム側では,受け取ったメールを解析し,添付ファイルが画像情報 (JPEG形式) であった場合は,Exif情報を抽出する.画像情報に位置情報が書き込まれていた場合は,その位置情報並びに住所を保持する.

(4) こうして取得したExif情報,位置情報,住所と画像情報をまとめてデータベースに管理・蓄積する.

2.コンテンツデータの蓄積

 上で整備したメール・ハンドリング機構の検証並びにテストデータの蓄積を兼ねて,コンテンツデータの登録作業を行なった.あとで整備する各種ビュー機能の検証の際にも活用するため,引き続きコンテンツデータを蓄積している.

3.既存のblogサイトとの連繋機構の整備

 場logシステムでは,既存のblogサイトとXML-RPCを用いて通信を行ない,RSS等で情報収集する.この既存blogサイトとの連繋機構を整備している.ケータイからのコンテンツデータ登録も含めた,場logシステムの構成図を上松 図1に示す.本作業は,未完成であるが,従来のblogコンテンツに位置情報や地図へのリンクなどを追加する機能をMovable Typeのプラグインとして整備済みである.

場logシステム構成図

 

上松 図1 場logシステム構成図

 

* * * * * * *

 なお,本プロジェクトでは,上松が携帯メールによるコンテンツデータ登録機構を,徳永が場logコンテンツを管理・蓄積するDBを中心にしたサーバ周りを,沼が既存のblogとの連繋機構を主に担当している.各種ビューの検討並びに実装については,共同で対応している.

 

 
9.PMコメント(中間報告時)
 

 
 このごろはなにかシステムをつくろうとすると,多かれ少なかれ,システムインテグレーション的な作業がどうしても必要になる.このプロジェクトも,ケータイという猛烈に速く動いている技術トレンドを追いかけながらシステムを構築しないといけない.この追いかけるという作業が結構大変である.

 先日訪問したときも,JPEGに埋め込まれる位置情報の表現方法がケータイのバージョンアップによって変わってしまったという.JPEGの仕様書を見ても,そのあたりがどうなっているのかよくわからないといった事件を聞いた.

 Linux上で動いているユーザ登録のプログラムもPMが訪問したときには不安定であった.どうもシステムインテグレーションに纏わる不安定だったようだ.

 このようなちょっと地べたの努力を強いられている状態だが,なんとか次のステップ,すなわち,場logをいかにユーザに魅力的なシステムに仕上げるかという課題に早く進んでもらいたい.つまり,集まってきた画像情報をいかに魅力的に地図上に見せるかという問題である.キラーアプリとなるべきモデルをまず考え出すことが必要だろう.また,大量にデータが集まってきた際の管理法も難しそうだ.ともかく,ここにはオリジナリティを発揮できる課題が一杯転がっている.PMは知らなかったニアミスしているような研究プロジェクトも世の中にあるようだ.これは競争だ.

 まずはプロトタイプをつくって,試用してくれる仲間たちを増やすことが肝要だ.



10.成果概要(終了時)


 前期の成果をリファインし,統合的なシステムとして動くところまで仕上げた.

 場logシステムのコンテンツは,大きく分けて二つの経路から収集される. 一つは,ケータイからメールにより登録されるもので,ユーザに密着したリアルタイムな情報である. もう一つは,既存のWeblogコンテンツを活用するもので,位置情報や地図へのリンクを追加する機能を整備し,場logとの連繋を可能とした.

 上松 図2に場logシステムの構成概念図を示す.これは中間報告の上松 図1をより詳細化したものになっている.登録された場logコンテンツは,要求に応じた情報の抽出と各種ビューへの表示といった形で適宜活用される. 終了時(3月時点)は,地図ビュー並びに時間軸ビューが用意されている.

 


場logシステムの構成概念図

 

上松 図2 場logシステムの構成概念図

 

 個々の開発は以下の通り.

(1) 場logサーバの構築

 場logシステムでは,ユーザよりコンテンツをメールで受け付け,自動処理で順次,場logサーバのデータベースに蓄積する.メールによる場logコンテンツの登録の流れを上松・図3に示す.場logサーバを用意し,このメール・ハンドリング機構を整備した. 具体的には,カメラ付きGPS ケータイより場logへ登録処理を行なう場合,以下のような手順でコンテンツデータが自動的に管理・蓄積される.

 [1] カメラ機能により撮影,この際,Exif 情報ならびに位置情報が自動的に画像 (JPEG 形式とする) に付加される.
 [2] 撮影した画像を添付ファイルとし,場logシステムのコンテンツ受付用メールアドレスにメール送付する.
 [3] 場logシステム側では,受け取ったメールを解析し,添付ファイルが画像情報 (JPEG 形式) であった場合は,Exif情報を抽出画像情報に位置情報が書き込まれていた場合は,その位置情報ならびに住所を保持する.
 [4] こうして取得したExif情報,位置情報,住所と画像情報をまとめてデータベースに管理・蓄積する.

 

メールによる場logコンテンツの登録図

 

上松 図3 メールによる場logコンテンツの登録

 

(2) コンテンツデータの蓄積

 サーバのメール・ハンドリング機構の検証ならびに各種ビュー機能の検証用データの蓄積を兼ねて,コンテンツデータの登録作業を行なった.

(3) 既存のWeblogサイトとの連繋機構の整備

 場logシステムとWeblogサイトとの連繋機構を整備した.XML-RPCによるWeblogへの投稿や,RSSを用いたWeblogからの場logへの登録を可能にした.

(4) 情報提示部の整備

 蓄積したコンテンツデータより,各種Viewerからの要求に応じてデータを抽出し,提供する情報提示部を整備した. 終了時(3月末時点)は,位置情報,時間,人によるFiltererならびに位置情報,時間によるSorterを提供している.

(5) 地図ビューの整備

 場logシステムが返したデータを,関連付けられた位置情報に基づき,地図上に配置して提供する地図ビューをFlashを使って整備した.上松 図4に一例を示す.このように抽出された情報が多数あるとビュー上でデータが重なってしまう.現在は,マウスポインタの位置に相当するデータを拡大表示する機能を実装済みであるが,元のサムネイル画像を小さくするなど,重複表示されたものから欲しい情報が容易に選択可能となるような改良が必要である.

地図ビューの一例図

 

上松 図4 地図ビューの一例

 

(6) その他のビュー

 複数のWeblogからの情報を,場所によるフィルタ,時刻や距離によるソートを適用することで,特定の場所にまつわる情報を整理して表示するビューを開発した.その例を上松 図5に示す.

 

その他のビュー(特定の場所にまつわる情報を整理して表示)の画像

 

 

上松 図5 その他のビュー(特定の場所にまつわる情報を整理して表示)

 

(7) MovableTypeへのプラグインの整備

 Weblogの管理ツールとして人気の高いMovableType は,プラグイン機構により機能を拡張できる.通常のWeblogでも位置情報の扱いを可能とするため,MovableType向けプラグインを整備した.このプラグインを組み合わせたMovableTypeで管理されているWeblogサイトの場合,コンテンツデータが位置情報を含むため,場logと連繋しやすい.

(8) テスト並びに仕上げ

 開発した場logシステムを「マルチメディアブンカサイ」 (横浜国立大学教育人間科学部マルチメディア文化課程の学生主催,12 月8 日〜12 日) にて,ポスター展示,デモ展示並びに概要紹介資料の配布を行なった. また,デモ用のアカウントを用意し,参加者数人からメールによる投稿を受けた.終了時(3月時点),エントリー数は247 件である.コンテンツデータを格納するデータベース並びにデータ収集部については,計画通りのものに仕上げることができた.

 場logへの参加希望等は http://www.balog.jp/ で受け付けている.



11.PM評価とコメント(終了時)


 11月末に現場で見たデモに比べて安定度が格段に向上した.サーバ周りがしっかりすると,コンテンツの整備が進み,さらにいろいろな改良意欲が湧く.後期はそんなポジティブフィードバックループに入ったようだ.

 個人の日記として活用されてきたWeblogが,その潜在能力を十分発揮できていない,もっと違った活かし方ができるのでは,という視点から出発したこのプロジェクトは,各サイトに分散した情報を集約して活用することを目指している.場logは,位置情報と写真情報を絡めた新たなコンテンツの管理システムであり,かつ既存のWeblogサイトとの連繋機構を活かし,そのコンテンツを集約して任意の切り口でユーザに提供する情報共有システムである.

 このあたりが実際にどうユーザに受け取られるかがこれからの勝負だ.www.balog.jpを見るとまだ実験が始まったばかりの印象だが,なにやら情報は集まりつつあるようだ.そういえば3日ほど前に電通大であった東日本成果報告会で上松君たちとPMが並んで撮った写真も載っていた.電通大は調布市調布ヶ丘なのであるが,GISから住所情報を引き出すと調布市富士見町になっていて驚いた.キャンパスの西側は郵便宛先とは異なる町名だったのだ.場logのおかげで思わぬ発見をした.

 場logは5〜6月に金沢で開催される人工知能学会で,学会サービスとして実運用される予定である.参加者は場logを用いて,ローカルな情報を得たり,交換しあうことが可能になるらしい.なかなかうまいチャンスを利用していると思う.こういうシステムの出出しとしてはグーである.それまでに,操作性,ビューの見やすさなどをさらにリファインすべく努力してもらいたい.

 それとは別にWeblogなどとの連携も,場logがこの世界に新規参入するために重要な鍵となる.ここもうまくやって輪を広げてほしい.こういうものは参加者がコンテンツをつくって盛り上げていくということがないと決してブレークしないものなので,その臨界点までどうもっていくが戦略の勘所だ.




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