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平成15年度未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM


 中島 達夫  (早稲田大学 理工学部コンピュータ・ネットワーク工学科 教授)



2.採択者氏名


 代表者

岩井 将行(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 学生(後期博士課程))

共同開発者

高橋 元(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程)



3.プロジェクト管理組織


 株式会社CRCソリューションズ



4.委託金支払額


 9,824,849円



5.テーマ名


 プライバシを考慮する分散型位置管理機構Tachyonの開発



6.関連Webサイト


 http://www.ublocks.org/



7.プロジェクト概要


 近年,RF(無線電波)タグとタグリーダの小型化と低価格化によって研究機関だけでなく,一般的な企業や家庭内への普及が可能になった.しかし,タグリーダを使ったユーザが,望まない人や望まないアプリケーションに自らの位置情報が伝わってしまい,不快な思いをする可能性が発生し始めている.既存の位置情報システムとして,データベース(以下DB)を中心としたクライアントサーバモデル(C/Sモデル)への依存が強いシステムが多くみられる.しかし,中央集権的なDBは,DB管理者に対する信頼を前提としており,一括してユーザの情報が監視されている印象をユーザに与える問題点がある.またC/Sモデルの位置情報管理システムは拡張性や柔軟な変更可能性を欠くため,柔軟で安全な分散システムによって位置情報を管理できることが望まれる.

 本テーマでは,ユーザの位置情報を,ユーザのプライバシを考慮しながら扱える分散型位置管理機構:Tachyonの開発を行なっている.Tachyonは,ユーザの位置情報の伝播をユーザが望むポリシの範囲で制限可能である.例えばあるユーザが自らの位置情報を「望む相手に」「望む場所において」「望む時間帯だけ」公開可能とし、公開した位置情報が信頼している人にのみ利用いることを要請できる.さらにTachyonは,完全分散型(サーバーレス)で動作し,容易にその構成要素であるノード間の構成を変更することが可能である.Tachyonは,プライバシの保護と使いやすさの両輪をバランスよく保つことを目指した分散位置情報管理システムである.





8.採択理由


位置管理システムにおけるプライバシ情報の管理は次世代分散組込みシステムにおいて重要な課題であり、本提案では新規性が高くかつな解決法を提案している。また、位置検出技術は今後の情報処理技術において最重要な課題の1つであり本技術に関する技術者を本事業で育成することは好ましいと考えられる。



9.開発目標


 プライバシを考慮する手法として,ユーザの位置情報はプライベートな情報を含むため,そのユーザの情報の伝播をユーザが望む範囲で制限しなければならない.ユーザの位置情報管理システムに対する信頼性を維持するためには,「望む相手に」「望む場所において」「望む時間帯だけ」公開可能であり,公開した情報が信頼している人に使われていることを保証可能な枠組みが必要である.本テーマではXMLでユーザのプライバシポリシを定義し,プライバシポリシ同士を交渉可能にさせることを目標とした.

 次に,DBを中心としないシステムを実現するために,位置情報管理システムにP2P(ピアツーピア)型通信機構による完全分散システムを適応させることを考えた.既存のP2P型通信機構の多くが,スケーラビリティ,コンテンツ分散,コンテンツ検索の効率性などに重点を置いているが,通信の柔軟性と信頼性,システム管理の容易さが備わっていない.既存のP2P型通信機構に対して,位置情報を扱うシステムは,主としてユーザの日常的な生活の場面で頻繁に利用されるため,スケーラビリティとしてのノード数は,日常生活で頻繁に訪れる場所として高々数十個程度で十分である.むしろ,ユーザの状況によって構築されるノード関係の変更がユーザの認識できる範囲で柔軟に即興的に行えることが重要である. 例えば,会議を行うために急遽部屋を押さえた場合,一日だけその部屋に位置情報取得ノードを設置し,一日だけ分散位置情報管理システムに追加すればよいというアドホックな分散位置情報管理システムの構築を目標とした.



10.進捗概要


Tachyonは,位置情報を検知するノード間をオーバーレイネットワークのように接続するだけで動作可能なサーバレスなシステムである。管理者はGUIを使って簡単にトポロジを構成し、ユーザの一人一人のエージェントであるRepresentationをトポロジ内部に放流する.ユーザの位置情報を管理するのは,各ノードが分散して行う.RFIDのタグを持っているユーザの近傍には常にRepresentationが存在し,他からのユーザに対する位置情報の獲得要求の正当性をユーザのPrivacy Policyに照らし合わせて検査する.
 Privacy Policyの項目として,位置情報を公開する相手/位置情報を伝達依頼を受け付ける相手,位置情報を公開する時間帯と曜日,位置情報を公開する場所,入退出後の情報更新の遅延を設定できる.

 本開発プロジェクトでは,その他に,Berkeley Moteによる位置情報取得部,ユーザのPrivacyPolicyを設定するGUI,Tachyon上で動作するチャットアプリケーションのプロトタイプを開発した。 以上、 計画書に記載されていた開発項目の実装はすべて終了した。



11.成果


 本研究では、以下のような成果発表をおこなった。

●ソフトウエア科学会SPAサマーワークショップ2003
「Tachyon:オーバーレイネットワークを用いる位置情報管理機構の設計」
岩井 将行 2004年3月箱根

●第66回全国大会TT1 特別トラック(1)ユビキタス社会とセキュリティ
「Tachyon:プライバシを考慮する電子タグ位置情報管理機構」
岩井 将行、高橋 元、門田 昌哉、中島 達夫、徳田 英幸
2004年3月慶應大学湘南藤沢キャンパス

●ソフトウエア科学会SPAワークショップ2004
「Tachyon:オーバーレイネットワークを用いる位置情報管理機構」
岩井 将行、徳田 英幸
2004年3月上諏訪

●ソフトウエア科学会論文誌
分散アプリケーション構築操作を複数種インタフェースから可能にする研究
岩井 将行, 中澤 仁, 徳田 英幸
日本ソフトウェア学会 コンピュータソフトウエア
Vol.21 No.1(2004) 2004年1月 pp.13-26




12.プロジェクト評価


 位置情報管理システムは将来の組込みシステムにおいて大変重要なシステムと考えられる. 現在, 位置情報を用いる多くのサービスが検討され本テーマで開発されたミドルウエアを採用することにより位置情報を用いるサービスの構築が容易になると思われる. また, 本テーマを担当者は博士課程の学生であり, 本テーマの開発の中で将来の組込みシステム研究をリードする研究者となることが期待される.



13.今後の課題


 プライバシ保護はユビキタスコンピューテイングの研究にとって重要な課題であり, さらなる研究を必要とする. 本研究に関しても研究結果をさらに精緻に検討することで、著名な国際会議やジャーナルでの発表を期待する.

 また安全なプライバシポリシの生成,管理と修正アクティブやパッシブなどの複数種類のRFリーダへの対応、暗号化通信などにも挑戦する.位置情報の世界規模の名前付けなどの研究も必要であろう.


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