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社会基盤センター

変革のススメ vol.6

パターン・ランゲージ研究の第一人者、慶應義塾大学井庭教授にパターン・ランゲージの活用方法やこれからの可能性についてお話しを伺いました。ご自身の組織や個人の変革に向けた取組み、またトラパタの活用のご参考になれば幸いです。

vol.6 井庭崇 氏(慶應義塾大学 総合政策学部, 株式会社クリエイティブシフト

慶應義塾大学総合政策学部教授。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学クリエイティブ・ラーニング・ラボ代表、株式会社クリエイティブシフト代表、パターン・ランゲージの国際学術機関 The Hillside Group 理事、および、一般社団法人みつかる+わかる理事。専門は、創造の研究、およびパターン・ランゲージ。創造についての理論的研究として「創造システム理論」および「深い創造の原理」を提唱するとともに、情報社会の次の社会ヴィジョンとして「創造社会」を掲げ、一人ひとりが日常的な創造性を発揮しながら「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを支援する実践研究に取り組んでいる。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、同大学大学院政策・メディア研究科修士課程および後期博士課程修了。2009年にはマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院 Center for Collective Intelligence (MIT CCI) 客員研究員、2018年にはオレゴン大学 Portland Urban Architecture Research Laboratory (PUARL) 客員研究員として研究に従事。

vol.5 井庭崇 氏(慶應義塾大学 総合政策学部,株式会社クリエイティブシフト)
Q.パターン・ランゲージの活用方法を教えてください。
典型的な使い方(対話や改善)から、ユニークなものまで、いくつか紹介します。
  • ・対話ワークショップ
    パターン・カードを5枚程度配って、そのカードに書かれているパターンを読んでそれに該当すると思う自分の経験について話します。経験談を語り合うことで、お互いの経験から学び合うことができます。また、パターン名を実際に口に出して使ってみることで、共通言語としてパターン名を使う練習にもなります。 手元のカードから2~3枚分、自分の経験について話すと、手元に残るカードはあまり経験がなかったり、苦手なものだったりするので、今度は他の人に問いとして投げかけ、他の人の経験やコツを聞くということをおすすめしています。パターンがあることで、どういう話をすればよいかがわかるので話しやすくなり、また、聞く側にとっても、他の人の具体的な話が何の話なのか受け取りやすくなります。配るときに、ポーカーのように1枚ずつ配るなどすると、ゲーム的な雰囲気が出て、より気軽に話せる場になります。
  • ・改善ワークショップ
    自分たちの現在の実践・活動を改善するために用いることもできます。例えば、プレゼンテーションをよりよくするのに「 プレゼンテーション・パターン」を用いたり、プロジェクトのコラボレーションの改善に「コラボレーション・パターン」を用いたりすることができます。パターン・カードを見ながら、自分たちが実践できていることとできていないことに振り分け、できていないものをどうしたらできるようになるかを話し合います。こうすることで、自分たちで自分たちの実践・活動を改善できるようになるのです。
  • ・Pattern Objects(パターン オブジェクト)
    パターン・ランゲージは、書籍や冊子、カード、論文など、プリント・メディアで共有されることが多いのですが、もっと日常の中に埋め込まれたかたちで目にすることができるようにすることもできるでしょう。例えば、料理のパターンを、そのパターンを実践するときに使うまな板に刻んでおくと、料理をするときにそのパターンを自然と意識できるようになります。
    変革のススメvol.6 写真1 変革のススメvol.6 写真2
  • ・パターン ソング
    花王株式会社と共同制作したパターン・ランゲージ「日々の世界のつくりかた:自分らしく子育てしながら働くためのヒント」は、歌にもなっています。各種音楽配信プラットフォームで「日々の世界」で検索してもらえば、見つかるので、聴いてみてください。仕事や勉強、子育てなど、毎日をがんばっている人への応援ソングとしてつくりました。そのパターン・ランゲージ(日々の世界のつくりかた)の言葉・内容が歌詞に埋め込まれていて、聴くだけでパターンの大切なメッセージが届くようにつくられています。見るメディアから、聴くメディアでの表現は、まだまだ開拓の余地があると思っています。
Q.パターン・ランゲージとは何かを説明する時に大切にしていることは何ですか?
パターン・ランゲージは、ある領域での実践において「大切なこと」を言語化したものです。それぞれのパターンは、よい実践の型であり、コツにあたるものなのですが、それを単に「うまくやるコツの言語化」だと思うと、功利的なテクニックやティップスと同じようなものに見えてしまいます。そう捉えてしまうと、パターン・ランゲージの大切な側面が抜けてしまうと思っています。単にうまくやるためのテクニックなのではなく、良い実践の本質を明らかにした、実践の体系なのです。パターン・ランゲージの個々のパターンでは、その領域の実践では「何をすることが大切なのか」(What)、「どうやってその大切なことを実践できるのか」(How)、「それはなぜ大切なのか」(Why)の3点が込められています。たしかに、実際に実践するときにはHowが参考になり重要ですが、Howばかりに注目せずに、何が(What)なぜ(Why)大切なのかも含めた全体が、パターンにとって重要です(最近、井庭研での研究の結果、発見的な良いソリューションの内容は、How→Whatの順で書かれていることを見出しました)。ぜひ、単にHowを書いたものだと思わないようにしていただければと思います。

Q.これからのパターン・ランゲージの可能性を教えてください。
原理的には、あらゆる人間行為・活動の領域でパターン・ランゲージをつくることが可能です。そして、あらゆる領域でパターン・ランゲージがつくられるということが、これからの社会にとって重要だと思います。 ここ100年を振り返り、これからの時代の変化を考えるとき、消費(Consumption)が関心の中心だった「消費社会」から、コミュニケーション(Communication)が重視された「情報社会」へと歩んできて、ここから、つくる(Creation)ことが軸となる「創造社会」※へと入りつつある、と私は考えています。
これからの創造社会においては、つくることを支援するメディアとしてパターン・ランゲージが、あらゆる領域で実践の下支えをしてくれます。人々は、いろいろな創造実践に取り組み始める自由度が大きくなるとともに、よい実践が生み出されやすくなります。そのように、パターン・ランゲージは創造社会におけるソフトな社会インフラになるのです。
そういう大きな視野に立つとき、現在のように、私の研究室やうちの会社(クリエイティブシフト)が中心となってつくる体制では、つくり切れるわけがありません。パターン・ランゲージがどんどん広がっていくためにも、それぞれの領域において、自分たちで自分たちのパターン・ランゲージをつくるという人を増やしていくことが重要だと思っています。そのためにも、私たちが研究・実践してきた「パターン・ランゲージのつくりかた」を多くの方々に伝え、作成の支援することが不可欠です。これまで十年ほどそのことに取り組んでいきましたが、今後ますます本格的に取り組んでいくことになると思います。
パターン・ランゲージをつくると、その領域の実践についての深い学びが得られます。そのため、パターン・ランゲージをつくるということを研修に取り入れた企業や省庁もあります。そして、そのような深い学びの重要性は、大人だけでなく、子どもにも当てはまります。
子どもたちが、自分たちが関心のあるテーマについて、経験者から話を聞いて、そこから実践で「何をすることが大切なのか」(What)、「どうやってその大切なことを実践できるのか」(How)、「それはなぜ大切なのか」(Why)をつかみ、それを記述し、魅力的な名前をつける。それは、まさに深い学びにつながるとともに、学びという営みの本質でもあります。
子どもたちが、経験者の話や、伝記・ドキュメンタリーから学ぶということができれば、物事の本質を学ぶとともに、実践力を育てていくことができます。小学生(6年生)や中学生、高校生がパターン・ランゲージをつくった事例がすでにありますので、まったくもって無謀な話ではありません。学校や放課後、家庭や地域で、大人も子どもも一緒になってパターン・ランゲージがつくられているような時代は、そう遠くないのではないでしょうか。
しかも、そうやって自分たちが発見し編み出した言葉を、他の人に役に立つように発信するわけで、そのような社会的な経験の感覚は、とても重要です。自分たちを高めるとともに、周囲の人や遠く離れた他者に、自分たちの見出した知を届ける。それは、「創造的民主主義」(クリエイティブ・デモクラシー)の入口と言えます。自分たちで自分たちの未来をつくっていく。パターン・ランゲージは、個人にとっても、その領域の人にとっても、社会全体にとっても「未来をつくる言葉」だと言えるのです。

※創造社会:人々が自分たちで自分たちのモノや仕組みなどを「つくる」ことができる社会、そのような社会では、一人ひとりが自然な創造性(ナチュラル・クリエイティビティ)を発揮する。創造社会では、自分たちが日頃使うものや食べるものなどを、買うのではなく、自分でつくるということが豊かさの象徴になる。そのような創造社会での「つくる」は、働き方、暮らし方や生き方、社会のあり方も自分たちでつくるようになるでしょう。

イラスト

トランスフォーメーションに対応するためのパターン・ランゲージ(略称トラパタ)
https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20200514_2.html