【講演レポート】
両利きの経営×アーキテクチャ経営=CX経営
新時代の経営リーダーシップが問われていること

2021年7月9日

2020年1月16日(木)に経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)(後援:一般社団法人日本経済団体連合会)により開催された「Society5.0を目指したアーキテクチャセミナー ~今後の経営層に求められる発想~」における講演の内容をご紹介します。

当講演は IPA公式YouTube 新しいウインドウで開きますでご視聴いただけますが、内容を簡単にご紹介します。



  • 開催日時:2020年1月16日(木) 15:45 – 16:15
  • 講演者:
    (株)経営共創基盤(IGPI)CEO 冨山 和彦氏
    ※講演者の所属・役職はセミナー開催時のものです
はじめに(野球型からサッカー型へ)

冨山です。かなり中西さんに言われたが、私はどちらかというと、生々しいビジネス上の競争の話をしたい。

私はずっと企業再生家さんとして、要はトランスフォーメーションに失敗した会社の後始末をしてきているが、その理由を後から検討して分かることは、頭悪かったから失敗したとか、起きていることが理解できないから失敗したということはほとんどない。みんな結構わかっている。

ほとんどの場合は、企業体としての組織能力がついて行けなくなることが原因。それまで、例えば野球型でやっていたとすると、例えば保線は保線、運行は運行、車掌は車掌、駅は駅で別れている。野球の場合、ちゃんと1番から9番まで打順決まっている。守備範囲も決まっている。だから、その秩序が破られると弱い。例えばサッカーは、場合によってはゴールキーパーもコーナーキックのとき出てヘディングするというフォーメーションにしなければならない。

これはとっても不愉快なこと。現場の人からすれば、どうしてもストレスがかかる。長年ずっと野球を一生懸命やってきた人で、例えばキャッチングに関しては名人という人がいた時に、それが今後は手を使ってボール取るなというルールになるということ。

アーキテクチャが変わるとは要はこういうこと。そういった環境下においてついていこうとすると、実は会社自身が相当根源的なとこで変わる努力を継続的にやらないといけない。

ただ、二、三年ですごい声で転換するぞと言っていても、だいたい失敗する。二、三年改革ブームが起きて、二、三年経つと、みんなもう改革疲れをして元に戻るということが過去の政権でもあった。

破壊的イノベーションの時代

この30年間はデータの30年間でしたと言われる。この間にグローバリゼーションが起きて、それからデジタル革命が同時に進展した。従来のアナログ型の大量生産が厳しくなり、日本の20分の、30分の1の値段でたくさん物を作る人が出てくる。加えてデジタル化で、大量生産品ものすごい勢いでモジュール化が進んで、コモディティ化が進む。

デジタルトランスフォーメーションは、同時に産業的なアーキテクチャチェンジを伴うが、野球からソフトボールぐらいであれば良いが、サッカーぐらいにまで変化してしまうので、これはもう本当に大変なこと。

その結果として、例えば時価総額のトップテンが変わったという変化がある。日本の会社は駄目になったとみんな言うが、私はそれよりも大事なことは、現在のトップテンのうち、大半の会社が、新しい会社になったということ。たしかに日本企業もランクに入ってはいたが、ほとんどが規制産業。

なお例えば私の出身であるスタンフォード大学の最近の学生はどこに就職するのかを聞いてみたところ、ファーストチョイスがスタートアップ、セカンドチョイスがモラトリアムとしてベンチャーキャピタルやコンサルティング会社でとりあえず勉強を継続、サードチョイスとしてラージコーポレーションとしてのグーグルやアップル、という回答があった。既にグーグルやアップルは、彼らにとっては古くて大きな保守的な会社であるという世界観になっている。

私が留学した30年前、アメリカは株主資本主義で、短期的利益志向が猛烈すぎるため、長期的投資ができなくなるから将来はないという議論を、日本の経営学者や当時の経団連も言っていた。しかし現実としては、長期投資をして長期的成長を重視していたはずの日本企業は売り上げランキングで、世界で150社あったものが、残念ながらも50を切るところまで減ってしまった。長期的に成長しなかった。

これはどういう意味なのか。今は破壊的イノベーションの時代であり、アーキテクチャが変わる時代。ほとんどの将来投資には極めて大きなリスクを伴う中、可能性があるところに張っていくことが重要であり、こうした投資は基本的にはエクイティ性の資金でやる必要がある。これには収益が重要。アマゾンは利益を上げてないという人もいるが、アマゾンという会社は資金回転差が逆転しており、見かけのPLはトントンだが営業キャッシュフローは潤沢であり、それを大胆に投資に活用している。こうした動きを日本企業は理解し、頭を切り替えないといけない。

アーキテクチャチェンジの歴史

デジタル革命の波は80年代から起きており、ダウンサイジングと水平分業で現れた。その後、インターネットモバイル革命でサービスモデルのチェンジが起きているが、この過程で、予測できたことと予測できなかったことがある。物というレベルでは、ほとんど予測は当たっている。例えば、コンピューターが小さくなる。パーソナルコンピューティングになるということ。

予測がつかなかったことは、産業構造の変わり方。例えば、IBMという圧倒的な企業がいたが、それに大きな業態転換を迫ったプレイヤーはMicrosoftとインテル。ハード・ソフト・半導体まで完全に自前主義で作ってしまうIBM垂直統合モデルは、分業型に変わった時、あっという間にMicrosoftとインテルの展開になった。これがまさにアーキテクチャチェンジであり、要は世界変わってしまうということ。

その次に起きたことが、インターネットモバイルの世界。あるところまで日本は世界をリードしていた。iモードがその典型。技術的にも世界を引っ張った時期があった。この時の携帯電話の産業構造は、基本的なスペックは、携帯電話、通信会社、キャリアが決めていた。例えばNTTドコモがある意味ではキャリアごとにアーキテクチャを作っていて、そのアーキテクチャの下で詳細スペックを作り込むことが世界中の携帯電話会社の仕事の仕方だった。したがって売り方も、ドコモのP、ドコモのN、あるいはソフトバンクのP、ソフトバンクのNだった。

それを見事にひっくり返したのがAppleの登場。この90年当時Appleは実は潰れかかっていた。このときスティーブ・ジョブズはAppleをクビになっていて、どんどんWindowsに追い詰められている時代。そのAppleがiOSを出してきて、iOSとiTunesあるいはiMusicのサービスを連動させて、キャリアフリーな携帯電話を出してきた。要はお客様が受けるサービスについて、ドコモの携帯か、ソフトバンクの携帯かはどうでもいい。Appleが提示しているサービス価値というものを実現するためのアーキテクチャに、産業アーキテクチャを変えてしまった。これは劇的な転換。それまでパナソニックはBtoBでNTTドコモが客であり、そこ向かって商売をしていた。ところが突然、世界60億人がひとつのマーケットになった。もう到底、組織能力的にはついていけないような展開。

その後Androidが出てくるが、そのアーキテクチャ転換の重要性に気付いていたGoogleはAndroidを買収した。本当はAndroidを買収するチャンスはおそらく日本の会社にもあったが、当時今ほど圧倒的ではないGoogleに先に気づかれてしまった。これまでのキャリア向けの商売に慣れていた古いプレイヤーはどんどん衰退していく。

アーキテクチャとは憲法

そしてこの議論は、ある意味では、過去あったような歴史の繰り返し。みんな、頭ではわかっている。しかし、体がついていかなかった。そうすると次の問いは、この後の変化の仕方。これは、いわゆるスマイルカーブの中で、川上と川下にシフトすればいいという議論になるが、この真ん中を中心に既に出来上がった組織能力を転換するということが本当にできるのかという点が一つ出てくる。もう一つは、川下側も川上側もアーキテクチャの支配者が総取りする構造として、アーキテクチャとアーキテクチャの戦いとなる。一方では、CPUを軸にした標準CPUのアーキテクチャの取り合い。他方では、サービスプラットフォームのサービスアーキテクチャの戦いが加速する。

要するに、アーキテクチャを作っていく話は、俺様は神様であるという世界観。普遍的な宗教を作るようなもので、そういうことをやる能力が日本企業にどれだけあるかという問いも出てくる。ユーザー側がスペックを決めてくれる世界では、下のレイヤーで作り込む詳細設計をすることになるが、この能力はだいたい日本のメーカーが強い。ところがその根っこにある基本的なアーキテクチャを革新することや、新しいものを提示していくことは、日本人は苦手である。

少し例えが悪いが、日本という国は自分でちゃんとした憲法を作ったことない国。大宝律令は中国から輸入し、大日本帝国憲法はプロシア憲法を輸入し、日本国憲法はアメリカ人が作成している。アーキテクチャというのは、要は根本的な憲法であり、それをどう発想するかという話。したがって、アーキテクチャチェンジが伴うゲームになると多くの場合、日本は窮地に立たされる。アーキテクチャの上部構造にいるプレイヤーがその下のプレイヤーを支配する構造になり、どうしても上の人が儲かるような構造を作られてしまう。そうすると、すごくいい仕事をしても残念ながら儲からないという罠にはまっていく。

これからの経営に必要な議論の本質

今、デジタル革命の主戦場が、リアルからシリアスの領域に移っている。そうなるとソフトウェアだけで物事は解決しないので、ハードウェアあるいは社会のリアルな世界との統合が必要になる。これは実は日本にとっては良いニュースであり、ギルプラッドがトヨタを、ヨーキ松岡がパナソニックを選んでいる。そうしたアーキテクチャデザイナー系の人たちは根こそぎ考えるタイプであり、そもそも論を突き詰めることが得意。それを進められる組織能力は、今後極めて決定的な意味を持ってくる。今後は、根こそぎ新しいものを探索し創造するという能力と、今やっていることをちゃんと深化させる能力の両方、まさに両利きの経営ができるような組織能力が非常に重要。

DXの議論をする際、概念的な問題やオープンイノベーションのようなことをやりがちだが、自分自身の組織能力の一番際どいところに踏み込まないと、この問題に対して持続的な解にはならない。今後永久に、ある種のトランスフォーメーション経営を続けなければならないということが、企業経営の宿命。これは表層的な戦略の問題ではなく、根源的な当該企業体の組織能力の高さと幅の問題であり、日本企業の得意だった改良型イノベーション能力と、この破壊的イノベーションの両方の力を兼ね備えるということが、今まさに問われている。

同質的・連続的な組織特性は、少なくとも破壊的イノベーションにとってネガティブ。今日、私もそうだが、だいたいこういうところに集まると、ほとんどが日本人の高学歴の中高年の男性ばかりになってしまう。はっきり言って、この現実はやはり厳しい。世代も人種も性別も、いろんな人が混ざっているチームで経営しなければならない。ただ、急にそうはできないので、腹を据えて、10年20年、本気で努力しないといけない。

そうやって本気で10年20年努力した会社と、しなかった会社の10年後20年の差はそう簡単に埋まらない。例えばある会社は、真剣に若いロナウドとメッシを海外から呼んで鍛えている。他方、別の会社はごまかしごまかし野球選手を活用してやり過ごしていく。これは、本当の競争力の差になる。

Society 5.0とは企業・社会・個人の変革

私は、ここから本気でいろいろな意味での改革をしていくべきと考えている。デジタルトランスフォーメーションというのは、我々企業自身がコーポレートトランスフォーメーションしていくことを意味しており、また政府も本質的な変革が求められることを意味している。さらには、個人の変革、パーソナルトランスフォーメーションも重要になっており、Society5.0というのはそうしたことを深く意味していると思っている。そのアーキテクチャというのは非常に本質的な要素なので、そういった問題に是非とも皆さんが真剣に腹を据えて取り組まれていくきっかけになれば、今日の私としては非常に光栄に存じます。



詳しくは、講演の動画をご覧ください。
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