【講演レポート】
Society5.0時代に求められるアーキテクチャの考え方

2021年7月9日

2020年1月16日(木)に経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)(後援:一般社団法人日本経済団体連合会)により開催された「Society5.0を目指したアーキテクチャセミナー ~今後の経営層に求められる発想~」における講演の内容をご紹介します。

当講演はIPA公式YouTube新しいウインドウで開きますでご視聴いただけますが、内容を簡単にご紹介します。


  • 開催日時:2020年1月16日(木) 15:05 – 15:45
  • 講演者:
    一般社団法人 日本経済団体連合会 会長 中西 宏明氏
    ※講演者の所属・役職はセミナー開催時のものです
はじめに

経団連の会長がこういうことを話すのはあまり過去に例がないと思うが、元々私はコンピューターシステムデザイナーだったので、こういう話は乗りに乗る方であり、もともと10分で話す予定と言われていたが、事務局にもっとちゃんと時間をくれとお願いし、今日の設定になっている。

Society5.0がデジタル時代にどういうことを考えていくか。経団連では、これを創造の時代と呼んでいる。創造とは、クリエーションとイマジネーションの両方であり、これからの時代はそのベースがデータとなる。このデータをどう活用していくのかと知恵を出すこと。それが、新しいビジネスモデルの設計にもなるが、次の世界の構造を考えておかないと、スムーズには進められない。

今回はまず私自身が行ったアーキテクチャの事例を参考に、アーキテクチャを考えていく必要性と、さらに、それを使う将来がどういう産業構造になっていくかの話をする。

アーキテクチャの重要性(技術ではなく社会や経営の話)

今がデータの時代と呼ばれている理由は、それだけデータを集めることができ、膨大に蓄積できる。膨大に蓄積したデータを解析して、コストを下げることが可能になった。例えば都市化におけるインフラのデータ、人の健康データ、また交通に関する移動データ。データは簡単に集められるようになり、プライバシーのデータが集まることで、その人が次に何をやるかを予想できるようになった。しかし、これをうまく使っているかと言えば、そこに実は大きな課題がある。

次にどういうことを考えていかなければならないか。それはルールを持つこと。欧州ではGDPRがあり、アメリカでは民主導でルール作りが進んでいるが、各国の重点は異なるため、一つの切り口から色々なルールが出てきてしまう。この中できちっとしたルール作りをするため、G20やWEFでDFFTやデータガバナンスなどの議論が今進んでいる。そうしたルール形成を考えていく上では、どういうデータの構造にすべきかといったことが重要になってくる。

その中でも、クオリティ・オブ・ライブをしっかりあげていくことがゴールとなるが、それを考えていく上で、データを使う人たちの社会構造を含め、様々な成り立ちを汲み上げていかなければならない。これがひとつのアーキテクチャとなる。こうしたバリューが最後ゴールになるので、アーキテクチャの議論は非常に大事であると強調したい。そしてこの話は、技術の要素はたくさん入っているが、技術屋の話ではなく、社会設計の話であり、企業の経営や組織の在り方とも全く同じ話である。

アーキテクチャの実例(新幹線と首都圏の違い)

システムアーキテクチャについて、自分がやってきた二つの事例を紹介する。

ひとつはコムトラックという新幹線の運行管理システム。世界で初めて250キロのハイスピードで飛ばす新幹線の運行管理は、コンピューターでやらなければ、信号の制御なども難しい。この仕組みは高速でたくさんの列車で流しても、途中で分かれたり入ってきたりはしないので、ある意味でシンプル。そのため、高速性と絶対に誤らないことだけを考えて作成された。1974年からスタートして、同じやり方で今でも継続してやっている。すなわちトップダウンで中央集中型の典型的なシステム。

ところがもうひとつ、首都圏の運行管理システムであるATOS(Autonomous decentralized Transport Operation control System)は、管理する線路の様相が新幹線と全く違う。いろんな線が入り乱れ、スピードが違い、線路も違う。例えば首都圏には約300の駅があるが、毎日何か変わっている。したがって、新幹線と同じ運行管理システムではまったく使い物にならない。そのため、分散型のパソコンで運行管理を行い、ぶつからないように管理しているが、このためにはあるひとつの駅を中心に、前後三区間ぐらいの列車情報がわかれば、すべて制御できる。ただ、全体の把握のため情報は集中させる必要があるため、制御は分散、情報は集中というミックス型のアーキテクチャになっている。

このように、同じ運行管理が目的でも、発想が一点集中型と超分散とでまるで違う形を考えていく。これがアーキテクチャ議論の、一番重要なポイント。どういう目的で、どういうデータをベースに、その次を考えていくのかという設計。これはある意味で会社経営と全く同じ。Society5.0というゴールを実現するために、どういうデータの受け渡しを可能とし、どういうデータ構造を作り、どう活用していくか。こういうアーキテクチャ設計の考え方が非常に重要になってくる。

これからの産業構造(「実現価値別の産業」という見方の重要性)

アーキテクチャをどう事業に展開していくか。ゴールは実現価値、つまり社会全体で言えばクオリティ・オブ・ライフ、企業活動で言えばお客様に提供するバリュー。

経団連でも、Society5.0を創造社会と位置づけ、これからデジタルの力で非常に夢のある未来を作っていこうとしている。そのためにはどのような形で、データをどう活用していくのか、ゴールに向かって、どんなデータを使っていく必要があるのか。そういうシステム設計が必要になっていく。

例えばJRだと、品川と次の駅を新しいデータをベースにしたスマートスモール設置のひな型、トライアルとして開発している。そうなると、鉄道のストップ駅という意味だけではなく、当然タクシーや、バス、ほかの公共交通手段とのドッキングによりサービスをどう繋げていくのかという観点から幅広く考えていくと、街全体がスマート化する考えになる。運行管理から出発し、人流情報やテナントスケジュール、バス・タクシー、インフラ行政へと全部繋げていく。このように幅を広げて考えていくことは、これからのひとつの大きなポイントになる。

こうした発想が豊かなベンチャー企業は、ある着眼点をベースに機能とサービルを膨らませていくが、その次がなかなかイメージしにくい。つまり、最後のゴールはどうやったらお客様を取り込めるかではなく、どうやったらお客様が喜んでくれて新しい社会的な価値が提供できるのかという発想が必要になってきている。そうすると、やれることとゴールとの間の行ったり来たりがどうしても必要になる。そうすると、Society5.0みたいな将来社会のコンセプトが非常に重要になってくるので、彼らは日本に大いに期待していると言ってくれている。そしてこれがさらに進むと、実は産業構造が変わってくる。例えば配車サービスが典型例だが、タクシー業界がなくなってしまうといったことがどんどん起きてくる。こうした変化を、社会が本当に受け入れられるかどうかは、業界の問題ではなく、最後のバリューがどこにあるかということの議論である。

スマートシティという言葉は使われて十数年が経つ。当時は個別機能の効率化に焦点があったが、今は新たなライフスタイルを提案すていくところに到達している。そうなると、アーキテクチャがますます大事になる。ステークホルダーが非常にいろんな層、いろいろな切り口で出てきて、ソーシャルニーズをどう具体化していくかという議論が大切になる。最後のゴールが、人を幸せにすることだとすると、医療、住民サービスまで全部包含したものが、一つのデータのストラクチャ、アーキテクチャの上に乗っかって、作られていく。それが、スマートシティである。

こうなると、製品やサービスなどに個別の業界がとらわれていると、この話は進まなくなってしまう。どういうバリューを届けられる企業なのか、行政なのか、産業なのか、という考え方に変える必要がある。例えば電気業界とは何かという話になる。運輸業界も、物を運ぶだけではどうもバリューにならない。そういう世界にどんどん変化していくため、実現価値別の産業という見方をして、産業政策を作っていかなければならない。これらはまさにアーキテクチャ設計。社会産業の再提示、あるいは社会システムのアーキテクチャという発想を持って、今のデジタル化を考えていただくことが、まさにこれからの社会をどう作っていくかという話に直結することになる。この際、実はもっと良い社会になるということを示しながら既存業界を壊していかないと、ただ壊れるだけでは混乱してしまうことに注意が必要。

経団連の活動

経団連としては、society5.0、共に創造する未来という提言を作った。industry4.0の議論をすると、日本は遅れているとか、そういう議論から出発する人は多い。言語や人口の観点からなかなか厳しいとは思うが、IoTの時代になり機械のデータも様々につながってくるようになれば、日本が持っているポテンシャルはすごく大きい。また同時に、日本はいろんな社会課題を抱えているので、それをデジタルによって解決できることが示せれば。それは、夢のある創造的な社会ではないかと思う。

しかし現実にそれをやっていこうとすると、最初に費用が変わる問題が出てくる。要するに良いものを作って売って儲ける単純な話ではなく、本当にそれを使っていただく方々に思いを届けられるかどうかが勝負のポイントになる。そういうことができるようにするために、先ほど申し上げたようなアーキテクチャの議論や、あるいは業界が壊れる痛みのある変化を、アグレッシブに取っていくというアクションが必要になる。今、一生懸命、いろんなところで議論し発展させることを、経団連の一番重要な活動にしている。

まとめ

デジタルによる情報共有の進展で、業界の垣根はなくなる。新しいサービスは、それ自体に意味はなく、実現できる価値に重要な意味がある。それを頭に置いたうえで、この価値を何とか作るため、いろいろな事業企画、あるいは行政上の制度整備などを変えていく必要がある。このためには、データ活用の戦略、そしてアーキテクチャが必要になる。そういう発想で見ていただき、デジタルトランスフォーメーションを推進していきたい。


詳しくは、講演の動画をご覧ください。
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