HOMEIPAについて新着情報過去年度の記事2008年度ソフトウェアエンジニアリング

本文を印刷する

IPAについて

ソフトウェアエンジニアリング

2008年5月22日
独立行政法人 情報処理推進機構
ソフトウェア・エンジニアリング・センター

 独立行政法人 情報処理推進機構(略称:IPA、理事長:西垣 浩司)は、ソフトウェア開発現場の抱える課題を構造的に捕捉することを目的に、エンタプライズ系ソフトウェア技術者個人に対してソフトウェア開発現場の実態を調査し、報告書を2008年5月22日より、IPAのウェブサイトで公開しました。

「エンタプライズ系ソフトウェア技術者個人の実態調査」報告書
http://www.ipa.go.jp/sec/reports/20080522.html

調査概要

 IPAでは、ソフトウェア開発の生産性・信頼性向上を目的に様々なソフトウェアエンジニアリング施策を実施しています。今回の調査は、ソフトウェア産業が抱える課題を構造的に捕捉し、さらに有効な施策を検討することを目的としています。

 エンタプライズ系ソフトウェア技術者個人の実態を調査することにより、エンタプライズ系ソフトウェア技術者個人の視点から見えるソフトウェア開発現場の課題を浮き彫りにするとともに、業務の実態も把握することで、現場において技術者個人が置かれている状況を明らかにしました 。

1.調査の実施内容

調査の実施内容は次の通りです。
  • ソフトウェア開発現場に混乱があるという仮説を検証することで、ソフトウェア技術者個人の実態を把握する方針で調査を実施しました。
  • ソフトウェア技術者の職場の実態に関する仮説として、技術者個人と技術者が実施中のプロジェクトの2つの局面を用意しました。技術者個人においては、期待理論*に基づいた本人のやる気について、プロジェクトにおいては、現場の混乱がプロジェクトのQCD*のどこかに問題を引き起こしているという仮説からPMBOK*の管理項目別の現場の状況をそれぞれ調査する設問を用意し、実務者へのインタビューを通じて設問を精査しました。
  • ソフトウェア・エンジニアリング・センター(略称:SEC、所長:鶴保 征城)のダイレクトメール送信先とWEB調査会社の一般モニターを中心に調査協力を募り、2,168件の回答を得ました。
  • 次集計の後、回答者に対してグループインタビューを実施し、分析を深めました。
  • 本調査における「ユーザ(発注業務)」、「ユーザ(自社開発)」、「元請け」、「一次下請け」、「二次以上の下請け」の出現率は、17%、24%、20%、13%、8%でした。
* ここでは「人は、仕事の報酬に魅力を感じ、かつその仕事が達成できそうだと思えたときに、その仕事に対してやる気になる」というモチベーションに関する理論である。
* Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期 の略。
* Project Management Body Of Knowledge の略。プロジェクトマネジメントの知識体系。

2.技術者個人の状況

 技術者個人については期待理論に基づいて、本人のやる気を調べるための仮設に基づいた設問を用意し、調査を実施しました。その結果否定率が肯定率*を上回ったのは3項目のみで、全体的に前向きな回答が多くを占めていました。
 「モチベーション」は肯定率53.1%で過半数に達しており、かつ期待理論のパラメータ間で強い相関が確認されています。産業界全体では、正のモチベーション・スパイラルが回っているといえます。

* 肯定率:「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」、否定率:「そう思わない」+「あまりそう思わない」

図2-1
図2-1:会社生活について(全体 N=2168)(※クリックで拡大)

図2-2
図 2-2 やる気(モチベーション)と相関のある項目(※クリックで拡大)

図2-3
図 2-3 就労時間 (N=2168)(※クリックで拡大)

 「開発現場の厳しさ」の理由のひとつである「就労時間」では、平均就労時間の中央値は180h/月で、組込みソフトウェア産業と同水準(出所: 平成17年版組込みソフトウェア産業実態調査技術者個人向け調査)となっています。平均値でみると、製造業よりは高く、建設業よりは低い水準(出所: 2006年期毎月勤労統計調査、厚生労働省)にあります。但し、月平均就労時間が200hを超える「長時間労働者」の比率は40.1%で健全な水準とは言い難い状況です(cf.組込みソフトウェア産業は48.1%)。

 「開発現場の厳しさ」のもうひとつの理由「収入」は、全体で「年収」の中央値が500~600万円で、組込みソフトウェア産業と同水準にあります。ユーザ企業と元請けベンダでは「年収」分布の差は小さいですが、ベンダ側で比較すると、「元請け」→「一次下請け」→「二次下請け」となるに従って、分布は低い側にシフトしています。

3. プロジェクトの状況

(1) 全体傾向

 技術者個人からみたプロジェクトの状況を調査しました*
 「プロジェクトの成否」は、直近1年間の代表的プロジェクトのQCDについて、全体として肯定的な評価は50%に達しませんでした。また否定的な評価は20%程度でした。プロジェクトの成功要因として、QCDいずれかがうまくいったという場合、その要因は「コミュニケーション」次いで「管理手法」という結果でした。

図3-1
図3-1プロジェクトの成功要因 (全体 N=1031: プロジェクト成功回答者数)(※クリックで拡大)

 他方、「プロジェクトマネジメント上問題があり、かつ改善すべき」と認識されている最上位項目は「スキル」、次いで「要員調達」「実施スケジュール」でした。「要員調達」は、単なる人材不足ではなく、適材適所の人材配置ができない時に問題が起こり易いというインタビュー結果もあります。

*ソフトウェア開発の「契約内容」も含めて管理者側しか見えないものを除き、「技術者が見える内容」を調査しました。

(2) 産業階層別傾向

 「産業階層別成功要因」の分析結果では、「コミュニケーション」、「定量データ活用」、「スキル」が、ユーザよりもベンダにおいて、成功要因であるとする回答率が高い傾向を示しています。
 「産業階層別プロジェクトマネジメントの課題」の分析結果では、ユーザとベンダで課題認識に明確なギャップがあるのは、「スキル」、「要員調達」、「実施スケジュール」、「スコープ管理」、「チーム力」でした。また、「品質管理」、「リスク管理」、「品質計画」、「スコープ管理」、「外注管理」に関しては、一番課題認識レベルが高いのは「元請け」でした。
 「産業階層別 改善の状況」の分析結果では、約半数の項目で、ユーザの方がベンダよりも改善が進んでいます。全ての項目について、「二次以上の下請け」では改善が遅れています。

(3) 外注形態別傾向

 「外注形態別 プロジェクトの成否」分析は、委託度合いが高い「全部外注」の場合に品質で納期の否定率が高い傾向があります。品質、コスト、納期ともに「オフショアリングを実施している」が、「国内のみに外注している」よりも否定率が高くなっています。また「外注形態別 プロジェクトマネジメント上の課題」は、「進捗管理」、「報告活動」が、「一部外注」と「全部外注」とで有意差があります。「オフショアリングを実施している」方が、「国内のみで外注している」よりもほとんどの項目で課題認識レベルが高い傾向です。

(4) ミッションレベル別分析

 「ミッションレベル別 プロジェクトマネジメント上の課題」分析は、指揮命令する立場であっても、「決定権限をもつ人(リーダ)」と「決定権限をもたない人(フォロア)」の認識にはギャップがあります(管理項目の半数でギャップがあります)。

図3-2
図 3-2 ミッションレベル別傾向(全体 N=2168: ミッションレベル別回答者数)(※クリックで拡大)

4.まとめ

 ソフトウェア技術者の職場実態については、一部厳しい状況が疑われる部分もありますが、産業全体としてはそのような状況ではないことが確認できました。技術者個人は、報酬への不満は感じつつも、仕事のやりがいをスキルアップ等に見出しています。またモチベーションの“正のスパイラル”を確認することができました。

 ソフトウェア開発現場では、「要員調達」「スキル」等への課題認識が強いようです。また、プロジェクトの成功要因として第一に挙げられているのは、コミュニケーションです。産業階層別に見ると、ユーザ側で改善が進んでいるプロジェクト管理項目が多く、二次以上の下請けにおいては全般的に改善が遅れていることがわかりました。外注に関しては、委託度合い(一部・全部)、委託先(国内・海外)によって、プロジェクトの成否と課題認識における差が確認できました。

詳細・お問い合わせ

「エンタプライズ系ソフトウェア技術者個人の実態調査」の詳細は下記URLをご覧下さい。
http://www.ipa.go.jp/sec/reports/20080522.html

PR