デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業(ユース):2010年度採択プロジェクト概要(曾川PJ)

1.担当プロジェクトマネージャー

増井 俊之(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)

2.採択者氏名

  • チーフクリエータ
    曾川 景介(京都大学大学院)

  • コクリエータ
    片山 大(京都大学大学院)

  • コクリエータ
    里田 旭彦(京都大学大学院)

3.採択金額

  • 1,770,000円

4.テーマ名

  • 個人間の財の貸し借りを支援するソーシャルレンディングプラットフォームの開発

5.関連Webサイト

  • なし

6.申請テーマ概要

ユーザの車や本や家電などのものや時間や人手などを、余っている人から、必要な人へ貸し出すことができるサービス。ネットオークションにおける一般人が一般人に自由にものを販売するように、貸し借りする。ネットオークションでの物品はほとんど輸送できる物だが、それだけでなく、車や人手など近さ・地域性が必要なものをも対象にしている。

例えば、次のようなケースを想定している。 「10/7に車を貸せます。場所は京都市左京区。3,000円です。保険は~。」という情報を投稿する。京都市に登録しているユーザで、「10/7 車」などとアラートをつけていたりしている場合に、情報を取得し、貸し手と交渉する。ここで信頼性を担保するためのプロトコルを用意する。これにより貸し手は自分のものを効率よく使用し、お金を稼ぐことができ、借り手はものを買うことに比べて安価にものを利用できる。

ソーシャルレンディングという、個人間で金銭の貸し借りをおこなうサービスは存在しているが、これの、こうした金銭に限らずいろいろなものを流通させるものを目指す。ここでは地域性や信頼性の担保など新たな問題が発生するためこれの解決を目指す。

計算機のアナロジーを用いると、人の資源(車や時間などの財)を計算機に見立てて、稼働率を向上させることを狙う考え方である。

  1. インターネットというフラットな場と、ローカルなコミュニティを両立させること。
  2. 売手と買い手が分離している近代経済を一歩進めた市民主体の経済をつくること。

これら2つを達成し、次世代社会の構築に貢献することを目指す。

今回はこうしたサービスを実現できるユーザ全てが貸し主でもあり借り手にもなることができるプラットフォームを作成する。

7.採択理由

曾川君らの提案は、「一時的に必要なものは借りて使おう」という考えを普及させるため、ネットを利用して簡単にものの貸し借りができるシステムを構築しようというものである。滅多に使わない持ち物で家があふれ返っていて困っている人は多そうだし、本棚の本を減らすために電子書籍に期待してる人も多いようだ。この提案にもとづくシステムは、シンプルな生活に移行したいと思っている多くの人への福音となる可能性がある。

現在のネット環境を利用すれば、貸し借りしたいものの情報をネット上で共有するのは簡単かもしれないが、信用できる貸し借り相手をみつけるのは困難だと予想される。今回の提案は、Web上の人間関係情報を利用して信用のネットワークを構築することによって全くの他人間でも安心してものの貸し借りを行なおうというものである。この目標はかなり野心的なものであり、これを本当に成功させるためには実際にある程度大きな規模で実験及び検証を行なう必要があるだろう。

ネット上の行動から評判を抽出することは難しいかもしれない。他人の信用を落とすような行動はとりにくいかもしれないし、信用できないのか評価がまだ定まっていないかの判断も難しそうである。よくできたシステムを構築し、多くの利用者を集めた検証が必要であろう。これは大変だが、実験する意義はおおいにあると思う。

「信用ネットワーク」は人間生活で最も重要なもののひとつだと考えられる。
今回の提案にもとづく実験がうまくいけば、貸し借りだけでなく、あらゆる人間生活や仕事に応用できると思われるので、それを考慮した上で開発と実験をやってもらいたいと思っている。