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2006年度下期 未踏ソフトウェア創造事業  (未踏ユース) 成果評価報告(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー:  筧 捷彦 ( 早稲田大学教授 )



1.プロジェクト全体の概要

2006年度からは,それまでの年度ごとに1回募集していた未踏ユースプロジェクトを,上期・下期の2度募集を行うことになった。それまでの2人PM体制を強化して,3人PM体制となり,竹内・筧・安村の3人でPMを分担することとなった。
公募には, 47件の応募があった。審査は,3PMで共同して行った。まず書類審査によって,3PM合議の上,24件を選びオーディションを行った。オーディション結果に対して各PMが独自に順位付けを行い,その順位の調和平均に従って上位から採択案件を定めていった。採択が決まった案件の担当PMは,その案件に対して最も高い順位をつけたPMとすることを原則として,開発者の所属も勘案して3PMで合議して決定した。この調和平均による採択案件の選定は,それぞれのPMの意向を反映した結果をもたらす。今回は,上位14件のプロジェクトの採択を決定し,竹内3件,筧3件,安村8件の担当とした。
提案書をもとに実施計画書を策定してもらって,開発者それぞれにプロジェクトを進めてもらった。途中,3月20・21日にブースト会議をもち,それぞれのプロジェクトの立ち上がりを後押しし,7月7・8日には2007年度第I期未踏ユースのブースト会議に参加してもらって中間発表の機会を与えるとともにプロジェクト最終段階に向けての意識高揚を図った。それぞれの開発者には,管理組織を通じて進捗報告を出してもらい,必要に応じて個別に相談にのってプロジェクトが円滑に進行するようにした。8月4・5日に成果発表会を開いて,プロジェクトの成果取りまとめに向けての区切りとした。
3件のプロジェクト(1件は2名による共同開発)の開発者4名には,それぞれその個性を最大限活かしてプロジェクトを進めてもらった。どのプロジェクトも,計画した目標を実質的に達成することができた。それぞれの開発者は,互いに知己になり,刺激しあって力を伸ばしていった。その全プロジェクトの主開発者をスーパークリエーターに選定できたのは,PM冥利につきる結果であった。


 




2. 応募状況と採択時の評価 (全体)

採択したのは,つぎの3件である。

プロジェクト1 三次元折り紙設計ツールの開発(代表開発者:舘 知宏)

折り紙を三次元的に設計するツールを開発することを目的とする。
「襞分子」を用いた新しい三次元折り紙設計法に基づいて、与えられたポリゴンメッシュから、折線に従って折ると完成形になる「展開図」を設計するまでの支援を行うツールである。簡単な操作で三次元的パーツを設計することが可能であり、また既存の設計法によるパーツを配置して融合させることも可能である。折り紙の全体を設計、構築するための総合的なソフトウェアの開発を目指したプロジェクトである。
折り紙で三次元物体を構成する際の,その設計を支援するソフトウェアを作ろうというもの。この種のプロジェクトは,開発者自身がそれを使って楽しみたい,という強い希望・意欲をもっているものが多い。つまり,「好きこそものの上手なれ」という手合である。館君の三次元折り紙もその代表格となるプロジェクトである。すでにいろいろと下調べもすんでいるので,確実に「楽しい」ソフトウェアができることが期待される。もっとも,そうして設計された折り紙を実際に折るには,1件10時間もかかる(持参した急須の折り紙がそうである)というから,これまた「好きこそ…」の人でないととてもその結果を実際に楽しむことなどは凡人にできないところのものではある。ついでに,せめて1時間程度に折れて「おお!」という出来栄えの折り紙を例として設計してみせてくれるといいかもしれない。

プロジェクト2 データ管理システム (代表開発者:荒川 淳平,共同開発者:淺川 浩紀)

利用者が意識することなくデータ管理をきちんと実行し,その恩恵を受けられるシステムの実現を目指す。
具体的には,データ管理用の仮想ドライブを実現し,そのディスク上で利用者は普段通りの作業を行うと,バックグラウンドで自動的にデータ管理(バックアップ,バージョン管理,暗号化)が行われるようにする。このように,利用者が直接的にデータ管理を行うのではなく,利用者の作業に応じて自動的にデータ管理を実行することで,人為的なミスが入る余地をなくし,データ管理を徹底することが可能になる。

開発者の2人は,ともに未踏ユースの2度目の挑戦である。荒川君は,4人グループのリーダとして携帯をUnix端末として使う仕組みを仕上げた。なかなかのアイディアマンであり,「1人プロジェクトならまちがいなくスーパークリエーター」という評価であった。今回は,各自のための分散ファイルシステムを実現するという「しごく当然な」プロジェクトを立てている。すでに多くの研究成果が既知であり,個別になら使える部材も公開されたものがある。しかし,実際に「各自が意識せずに使える分散ファイルシステム」を作り上げて提供しようという,実用目的の計画である。やろうとすることについてだけみれば,未踏性に乏しいといっていえないこともない。しかし,実際にそうして環境がすでに使える状況に達しているか,といえばそうなってはいない。半年ばかりの期間の中で,どこまできちんとしたものが作り上げられるか,と考えると,これは結構チャレンジングなプロジェクトである。しかし,この2人の開発者コンビならそれをやり遂げられるに違いないと思えてくる。未踏ユースに留まらずにドーンと大きな夢へとつなげるステップにしてくれることを期待している。

プロジェクト3 マルチ計算機・マルチマウスシステムの開発(代表開発者:上田 真史)

マルチマウスシステムは、1台のPCにマウスを多数接続し、低価格ながら多人数での共同作業が可能になるシステムである。しかし、それゆえに、ユーザ数を増やしていくと、すぐに作業スペースが逼迫してしまう。大きなディスプレイをつなげばよいのだが、大きなディスプレイは高価であるので、マルチマウスシステムの安価という特長を損ねてしまう。
そこでPCを複数台接続してそのディスプレイ空間を結合して使えるマルチ計算機・マルチマウスシステムの開発を行う。提案システムは,従来のVNCなどと異なり、マウスの個数やワークスペースの境界など、作業領域に関する世界をアプリケーションが自由にかつダイナミックに設定できる。この特長により、真にフレキシブルなグループワークを実現できる。

  PCに何個でもマウスをつなぎ(したがってその個数分だけのユーザが集まって),さらに複数台のCRTをつないで,多人数で共同作業を行う環境が簡単に作れるといい。その予備実験はすでに済ませている開発者が,CRTは高価でもあるので,多数のPCやノートPCをネットワークでつないで同じ効果がえられるようにするミドルウェアを開発して一般に公開しようというプロジェクトである。ミドルウェアの基本的な部分の構想はすでにでき上がっている段階にある。あとは,なんといっても人を引きつけ,マルチ計算機・マルチマウスの有効性を印象づけるアプリケーションを実際に作って見せられるかどうかにかかっている。開発者にそれを見つけてもらえるよう,刺激を与えることができればPM冥利につきるというものであり,邪魔にならない程度にやり取りをしながら,いいものが生まれてくるのを期待したい。
 


3.プロジェクト終了時の評価

開発者は、いずれもPMの期待に十分に応える結果を出したといってよい。開発者全員が実力を伸ばしそれを発揮した。いずれもが、プロジェクト設定時の目標を達成し、さらにそれを上回る内容にまで仕上げた。その実力は。ぬきんでたものであり、3件の主開発者それぞれをスーパークリエーターに選定し、共同開発者1名を準スーパークリエーターに選定した。
今期は、応募者の中に実力の高い人が他の期に比べて多く居た。それにしても採択したプロジェクトの開発者・共同開発者全員をスーパークリエーター・準スーパークリエーターに選定するというのは稀有のことである。どれほどのプロジェクトの仕上がりであり、開発者の力量がどうであったかを、個別に述べる。

プロジェクト1 三次元折り紙設計ツールの開発(代表開発者:舘 知宏)
折り紙をデザインするための既存のシステムとしては、ツリー構造を実現するものと純粋な幾何学的パターンを自動生成するものという2種類のものしか存在しなかった。この壁を打ち破り,自由な三次元形状の折り紙表現を,襞による領域分割によって可能とするシステムを構築し,数百個のポリゴンメッシュ程度で構成できる三次元形状であれば,どんなものでも実用的に使える時間内に折り紙表現に持っていけるようにしたことは,いわば,折り紙表現の革命といっていいものである。
舘君は,オーディションのときに大きなお茶缶をもって現れた。中から出てきたのは,人頭ほどの大きさの折り紙でつくったお急須であった。「こんな折り紙を折るのには10時間ほどかかりますが,これを設計するのにはそれこそ何週間もかかります。」そうした3次元オブジェクトの折り紙を設計する一般的方式を見つけたので,それを計算機で支援するシステムを作るのだという。折り紙が好きで好きでたまらない,という気持ちが聞き手に伝わってくるプレゼンテーションであった。2004年度にスーパークリエーター選定した井尻君がそうであったように,舘君も“好きこそものの上手なれ”タイプの典型であった。
開発当初の目標をすべてクリアするのには,プログラミングの力に加えて,折り紙の数理を極める必要があった。襞成分を並行配置することで,生じる制約条件の個数を大幅に減らすことに成功し,「スタンフォードバニーを折り紙するんです。」という目標をみごと果たしてる。そして,成果発表会には,これまた10時間をかけて折り上げたスタンフォードバニーをもって現れたのであった。その実力は,数理解析の力においても,数百ポリゴンのモデルであってもスムーズに計算し画面表示するツールに仕上げたプログラム開発能力においても,まさにスーパークリエーターにふさわしい。

開発者の館君は,今回の成果を論文の形にまとめて公表する予定で居るほか,この素敵なツールを世界中の折り紙仲間に使ってもらう予定で居る。残念なことに,折り紙デザインにいそしむ人たちは世界中を見ても多くはない。ということは,今回の成果であるシステムそのものがビジネスに結びつく可能性は低いし,館君も折り紙デザインをたしなむ人たち向けにシステムを改善し公開していくことを主に考えているという。できることなら,良きビジネスパートナーを得て,さまざま形でその技術を活用することも進めてほしい。その願いを添えた上で,着想力・実現力は評価して開発者の館君をスーパークリエーターに選定する。

プロジェクト2 データ管理システム(代表開発者:荒川 淳平,共同開発者:淺川 浩紀)
開発者の荒川君も淺川君も2004年度ユースの開発者であった。荒川君は,他の4人の共同開発者と「携帯電話から遠隔地のコンピュータを操作するシステムの開発」を行った。携帯電話のあの入力装置を使いながら遠隔地のUnixをGUIならぬCUIで使ってやろう,というプロジェクトで,実際にスイスイと使えるシステムを作り上げたみせた。PMであった私の評価は「個人での開発であれば,まちがいなく“スーパークリエーター”の称号を与えたであろう。今回は 5 人の共同開発であり,報告された分担表をみても, 5 人のチームワークで仕上がっている。チームリーダの荒川さんのリーダとしての力量が大いに発揮されていると思われるが,それをもって個人に称号を与えていいものかどうか判断に迷」って準スーパークリエーターに留めたのであった。
淺川君も,2004年度に私がPMを務めた。大学生でまだ勉強半ばであったが,「Ruby.NET コンパイラの開発」を行い,20000万行ものプログラムを書き上げて一通りのものを仕上げた。そのときの私の評価は「応募をした時点で, Ruby やそのインタプリタの詳細や, .NET の詳細まではまだ勉強できていなかったように思われる。それが,この半年の間で,オブジェクトコードを設計してそれを吐き出す翻訳部分を実現するところまで詳しく勉強しきったのだから,まさに若さの勝利である」が,さらに勉強を重ねてほしいというものであった。
その二人が,大学院でを席を並べることになって,新しいテーマを掲げて挑戦してきたのが今回のプロジェクトである。誰でも必要としていて,要素技術の研究はさまざまにあり,それぞれにオープンソースのソフトウェアも入手可能でありながら,ほとんどの人が利用できていないもの,それがデータ管理である。それをすべての人が使える形にしてみせる,というのである。

要素技術があれこれ開発されていながら,なおすべての人が使えるものになっていないのは,データ管理をファイルごとにやろうと考えるからであって,すべのファイルに自動的に施される仕組みにしてしまおう,というのである。つまり,ファイル管理システムそのものに組み込んでしまう。ところがファイル管理システムは,OSと不可分の存在である。それをOSに依存しない形で実現してみせたのだから,まさに画期的な成果である。データ管理の機能をユーザプログラムの形で用意すれば,それでOSと不可分なファイル管理システムの一部として動作する一般メカニズムを実現したのである。そして,その成果をさらに増強したのが,当初計画にはなかったLinuxへの対応とRubyバインディングまで仕上げてみせたことである。
十分な情報が入手できないオペレーティングシステム内部に踏み込んで読破し,種々に試験しながらの作業はすさまじく困難を極め,さすがの両君も期限内に仕上がらないのではないかと頭を抱えていたときもあった。それを克服して,総計2万行に及ぶプログラムとしてシステムを作り上げたその力は,スーパークリエーターの名にふさわしい。とはいえ,1プロジェクトで複数のスーパークリエーターを選定することの基準がないので,プロジェクトのとりまとめを担当した荒川君をスーパークリエーターに選定し,淺川君は準スーパークリエーターに選定するにとどめることとした。

プロジェクト3 マルチ計算機・マルチマウスシステムの開発(代表開発者:上田 真史)
Windowsをのせた計算機をLANにつなぐことでそれぞれの計算機につながれた画面表示装置すべてからなる画面空間が使える仕組みを作り上げた。出発点は,すでに開発していたマルチマウスシステムを動かすには,通常の表示装置(PCのLED画面など)では狭すぎる。複数の表示装置を何台も組み合わせて大きな画面を構成してその上でマルチマウスが使えるようにしよう,というものであった。
デスクトップPCとスタンドアローンLED表示装置であれ,ノートPC組み込みのLED画面であれ,CPUがそこにはある。これらをLANで結んで巨大な仮想画面を実現するという計画である。大多数を占めるWindowsに組み込んでだれでも簡単に仮想画面を使えるようにするというアイディアは,いうは易くも行うに難いものであった。必要な情報を記した技術資料がうまくは手に入らない。結局は,試行錯誤を繰り返さざるを得ないことになり,Windowsが落ちて真っ青な画面が出てばかりではかどらない日々が続いた。どうなることかとPMとして心配をしたが,上田君は,本来の自力を十二分に発揮してシステムが動く状態にまで組み上げた。書き下したプログラムは25000行に及ぶ。それも上田君1人でやり遂げたのである。その力量は称賛に値する。また,その大変な時間の中で,開発したシステムをどのように外部に出していくか,どのようにビジネス化できるかについても頭を巡らして,一応のビジョンをもつに至った。
研究室の仲間に手伝ってもらって,開発したシステムのデモを実施している。特に,4台のPCを平面状に突き合わせて大画面を作った例や,横に難題も連ねてスーパーハイビジョン画面を作った例は,このプロジェクトの成果の活用先としてさまざまな夢を抱かせてくれるものである。
その成果といい,その実力の伸び方といい,実にすばらしいものであった。ここに開発者の上田君をスーパークリエータに選定する。

 




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