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2006年度下期 未踏ソフトウェア創造事業  (未踏ユース) 成果評価報告(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー:  安村 通晃 (慶應義塾大学教授 )



1.プロジェクト全体の概要

2002年度に始まった未踏ユースは、2006年度から年2回の募集となった。また今までの竹内、筧の二人PM体制から、今回から新PMとして安村が加わり、3人体制となった。新PMが加わることによって、これまでの未踏らしいソフトウェアの内容に加えて、Web2.0的なもの、実世界とのインタラクションなども積極的に募集することとした。
2006年度下期の応募件数は47件(上期は70件)で、一次審査をパスし、12月24日〜25日のオーディションに臨んだのは24件。厳選の結果、2006年度下期の採択件数は14件(上期は21件)で採択率は29%(上期は30%)となった。一次審査の方法として、3人のPMがそれぞれ独自に評点をつけ、その結果を調和平均として合計することとした。ただ今回のみ、新規に加わったPM安村の分を他の二人のPMよりも比重を倍にした。これは、安村PMの担当する開発者の数を他の二人のPMのそれよりもおよそ2倍とすることに合わせるためである。二次審査では、各PMの評価が高いものができるだけそのPMの担当となるように、割り振られる調整を行なった。今回、最終的に採択した14件で、安村PMの担当は8件、他の二人のPMの担当がそれぞれ3件ずつである。
採択された14件の中には、飛び級で大学に入学してきた18歳の若者1名と女子大学院生1名が含まれている。
採択後は、3月20日〜21日の2日間のブースト会議、6月の土日を利用した現地でのプロジェクトレビューを経て、8月4日〜5日の2日間成果報告会を実施した。


 




2. 応募状況と採択時の評価 (全体)

安村が担当したプロジェクトは8件である。このうち6件までが、なんらかの形でWebと関わりをもつWeb2.0的なものである。残りの2件の内1件は、ロボットをプログラミング教育に用いようとする実世界インタラクション的なものであり、またもう一つは古典音楽の自動伴奏に向けた芸術色の高いものである。
採択した各プロジェクトの採択時の評価は、それぞれ次の通りである。

プロジェクト1
AjaxによるWebコミュニケーションツール(稲津和磨)
この提案はAjaxを用いてWikiを高速化しようという単純明快なものである。Ajaxを用いたWikiとしてはすでにTiddyWikiなどがあるが、本提案ではページデータのキャッシングなどの点でより工夫している。書込みなどしない読出しだけのユーザーにとってどんなメリットがあるのかとか、書込みの非同期制御はどうするのか、と言った問題も無いではないが、今後ますます増えると思われるWikiの高速化や改良はWeb2.0時代には期待が大きい。Ajaxによる高速化以外にも、ページ閲覧者同士のコミュニケーション機能などの追加を考えているようで、こちらも期待したい。基本部分をキチンと動くようにした後、このような拡張部分に少しずつチャレンジしていって貰いたいと考えている。稲津君は最新技術の動向に目配りのきいた若者でもある。技術を磨きつつ、本提案の完成を目指して貰いたい。

プロジェクト2
共同ローカリゼーションフレームワーク(井上謙次)
本テーマは、「共同ローカリゼーションフレームワーク」となっているが、要するに、ソフトウェアなどの翻訳を効果的に行なうためのシステムと環境の構築が主題である。提案者の井上君は、実際にこれまで共同翻訳に関わっていた経験を持つ点が非常に重要である。この提案では、共同翻訳では欠かせない、翻訳前のテキストと翻訳後のテキストの対である翻訳メモリ、および共有用語集といった、基本要素を備えたWeb上のアプリケーションである。特に、「共有」という点に力点があり、まさにこれからのオープンソースコミュニティにとって、重要なシステムとなりうる。井上君の趣味が翻訳、というのもいい。単なる試作に留まらず、ぜひ実用になるようなところまで、工数をかけて、より完成度の高いシステムに一歩でも近づけて欲しい。

プロジェクト3
DBLP2.0:教授の世界を大航海するウェブインターフェースの開発(坂本剛彦)

自分の教授がどういう人とつながっているのか、教授自身のホームページではほとんど書かれてないので、自動的に関連研究者を表示しようとする動機は非常に良く分かる。「教授の世界を大航海するウェブインターフェース」という命名も良い。共著者から、関連研究者を算出するWebアプリは既に存在するが、今回のものは、共引用関係から計算、というところがちょっと面白い。類似の研究もあることから、どれだけ関連性をうまく引き出すかと、その結果の表示がポイントとなりそうである。ついでに、その研究者の関連する学会の写真が、Flickrなどから検索されて表示されるのは良い。せっかく良いタイトルを付けたのだから、単に関連検索が良くできているだけではなく、その研究者の周辺的な情報も併せて表示される工夫もぜひお願いしたい

プロジェクト4
BlockBug 〜PCなしで遊べるブロックプログラミングおもちゃの開発〜(垣田幸子)
プログラミング可能なロボットは最近増えつつあるが、今回は、パソコンなしで、ロボット上に置いたブロックで、そのロボットの動作を記述すると言う点がユニークで面白い。垣田さんは高専時代からロボット制作の経験を持つので、基本的なロボット制作の部分はまったく問題がないと思われる。取り外し可能なブロックを入れたり外したりが可能なメカの部分と光学的にその内容を読み出す部分などはしっかりした作りにする必要があるだろう。円盤上に置かれたブロック円盤ごと回転する方式だが、命令の読出しと動作のタイミングなど、解決しなければならない問題もある。逆に、それだけチャレンジングな提案であり、期待したい。基本的な部分の動作を確認した後、徐々に拡張していくような開発方式が望ましいと思われる。

プロジェクト5
次世代Greasemonkey、Tsukikage Systemの開発(中山心太)
この提案は、ユーザカスタマイズが可能なGreasemonkeyというFirefoxのプラグインに対して、形態素解析と外部情報への参照という2点を機能拡張しようとするものである。この拡張により、Webページの内容に立ち入った外部情報の付加が可能となる。着目点は非常に明確であり、いろいろな可能性が開けてくるものと思われる。具体的に、どのようなカスタマイズが可能なのか、できあがったシステムと同時に、いくつかの効果的なサンプルの提示を期待したい。中山君は、プログラマーとしての実績は充分もっているし、いくつかのプログラミングコンテストにも参加しているのは頼もしい。ただ、学業(修士)以外に、プログラマーとしてアルバイトもしていると聞くが、やはり、未踏の期間中は、できるだけこの開発に集中して貰いたいと願っている。

プロジェクト6
通奏低音自動リアライズによる古楽演奏者の独習支援システムの構築(新妻雅弘)

バロック音楽の低音部を記述する数字のみから即興的な和音、すなわち、通奏低音を自動的に作り出す試みは独創的で面白い。新妻君と共同開発者の松原正樹君も共に、音楽の素養があり、またプログラミングもできるので、どちらも両刀使いであるが、実際に作成した和音が適正なものか、専門家の判断を仰ぐ必要がある。プロトタイプとして、少しずつシステムを作りながらでき上がったものを評価していく、と言ったスパイラルな開発方式が望ましい。本方式の応用として、リコーダー教育への導入や、ジャズの自動伴奏などが挙げられているが、実際にそういった試みへとつなげられれば、夢はさらに広がってくるものとなり、そのためにも基本部分はしっかりと作って欲しい。音楽情報関係の学会での発表も期待したい。

プロジェクト7
テキストマイニング技術を融合したウェブブラウザの開発(上村卓史)
この提案は、従来のWeb検索に加えて、辿り着いた複数のWebページからキーワードを抽出し、それらをハイライト表示したり、そこからさらに先のリンクを表示したりするテキストマイニング機能を追加しようとする試みである。提案の中でも述べている通り、少ない文字数のWebページの中から、いかに効果的に適切なキーワードを抽出するかが、また、それをいかに短い時間で抽出できるかが、本研究の要(かなめ)と思われる。単独のWebページよりも、連続して閲覧した一連のWebページからのキーワード抽出が特に効果的である。このキーワード抽出と従来からの検索との使い分け、および、それらの両者の融合が、実際にどういう使い勝手をWebユーザーにもたらすか、興味のあるところである。

プロジェクト8
ブロガーのためのソースコード管理システム(伏井洋平)
Web2.0時代の今日、ソースコードの共有化とブログによる情報交換は欠かせない。本提案は、ブログ上でのソースコード共有の仕組みの提案であり、まさにこの目的にとって有効な手だてである。ソースコードからコピーする手間が必要なく、一元管理できるメリットがある。システムを実際に構築し、使い勝手を含めた実証実験も必要になるだろう。伏井洋平君自身、Plaggerと呼ばれるオープンソフトウェアの情報交換サイトに参加の経験を持っていることは心強い。また、「はこべ日記」と呼ぶ、ソースコードを交えた自らのブログを書きつづっている経験も役に立つであろう。早めにシステムを稼働させ、公開の上利用者からのフィードバックを得る実証実験の成果に期待したい。

 


3.プロジェクト終了時の評価

プロジェクトの途中で、現地にてのプロジェクトレビューを行なったが、この段階では、順調に進んでいたものと、若干開発状況がやや遅れ心配のあったものとが、ほぼ半々ほどであった。開発期間の最終段階である成果報告会の時点では、すべてのプロジェクトはほぼ予定の開発を終了していた。内容的にも当初の予定通りの開発を行なったものだけではなく、内容的な検討に基づき、より進化した開発結果となったものもある。
総じて、当初の目的を達している点ではなんら問題はないが、今後の展開に関しては、それぞれ違った方向性を持っており、プロジェクト毎に、今後どうすべきかよく考えて開発を続行する必要がある。
それぞれのプロジェクトの最終評価は次の通りである。

プロジェクト1
AjaxによるWebコミュニケーションツール(稲津和磨)
今回、開発者の稲津君は、まだ二十歳という若さではあるが、しっかりとWeb2.0の基幹技術であるAjaxを我がものとし、軽量・高速のWikiを実装した。その実力は手堅い。今回のプロジェクトで、ソフト開発への自信につながったものと思う。今後の一層の発展を期待したい。

プロジェクト2
共同ローカリゼーションフレームワーク(井上謙次)
ソフトウェアのインターナショナリゼーションとその逆のローカリゼーションは、どちらも、ソフトウェアの国際化と地域ごとの活用の観点から重要である。これは、特にオープンソースについては避けては通れないプロセスである。このローカリゼーションの作業が、これまでともすれば人手のみ、あるいは、非常に低レベルの支援しかなかった。今回、これらを支援するソフトがそれ自身オープンソースとして新たに開発されたことは小さな一歩ではあるが、ソフトウェアの国際化と地域化・流通にとっては大きな一歩である。

プロジェクト3
DBLP2.0:教授の世界を大航海するウェブインターフェースの開発(坂本剛彦)
DBLP2.0がベースとしたDBLPの方は、単に論文リストが表示されるにすぎない。これに対して、今回開発したDBLP2.0では、関連研究者、関連学会、および、その研究者に関したWebページが表示されると言った工夫がされている。また、最初の手がかりとなる、関連研究者ユニットはカスタマイズ可能となっている。ただ、この関連研究者ユニットのカスタマイズの際に、生成されたコードを生でコピー&ペーストしなければならないのは不便である。この点は改善を要する。

プロジェクト4
BlockBug〜PCなしで遊べるブロックプログラミングおもちゃの開発〜(垣田幸子)

自立型でダイナミックにプログラム変更可能なロボットの設計と開発は非常にユニークであり、今後の発展が大いに期待できる。パソコンを一切用いずに、電子部品とアクチュエータ、センサーのみで構成されている点も面白い。カラーに塗られた色を識別する部分は安定性に欠ける点であり、今後の改良が必要である。プログラムブロックも、現在は最小限のものがアドホックに選ばれてあるだけであり、今後どういう命令セットが望ましのかの検討が必要である。

プロジェクト5
次世代Greasemonkey、Tsukikage Systemの開発(中山心太)
Greasemonkeyと同等以上の機能をもつTsukikage System を新たに開発した。このシステムはPythonで記述しているため、Python からネイティブコードで実行が可能で、Proxyを使用しているにもかかわらず、低レイテンシー、高スループット、低CPU負荷と言った性能面での特徴を有する。特に強調すべき点としては、従来のGreasemonkeyはFirefox のみでしか動かなかったが、今回のTsukikage Systemはブラウザの種類を問わない点の意義が大きい。Greasemonkey自体が、通好みのところがあり、その機能を非常に有り難いと思う人と、それほどとは思わない人とに分かれるが、前者の人にとっては、Firefox 以外にも使えるとか、自然言語処理が加わったことなどの意義も大きい。

プロジェクト6:
通奏低音自動リアライズによる古楽演奏者の独習支援システムの構築(新妻雅弘)
今まで誰も試みなかった、古典音楽の通奏低音(数字付き低音部)に対して、自動的に伴奏を付与するという、まさに「前人未踏」のソフトウェアを開発し、実際に人に聞かせるレベルにまで達したことは大きな成果であり、高く評価できる。適切な和音をつけるという行為は、音楽の中でも繊細かつ微妙なもので、一朝一夕には最適レベルまでは行かないが、とにもかくにも、その自動化の先鞭をつけた、という意義は極めて大きい。このため新妻雅弘君を、未踏ユースの準スーパークリエータと認定する。

プロジェクト7:
テキストマイニング技術を融合したウェブブラウザの開発(上村卓史)
所定の目標通り、テキストマイニングを用いたブラウザが開発された点は大きな成果である。今回のテキストマイニング法としては、従来よく用いられてきたtf-idf法ではなく、単語のNグラムに基づくスコア計算を採用している。しかも、単語Nグラムのコスト計算を高速化する工夫も行なっている。今回のコスト計算の方式がどの程度有効なのかは、もう少し評価実験が必要であり、また開発したブラウザの一般公開もこれからの課題である。今回、新たにテキストマイニングを基本とするウェブブラウザを開発し、そのためのキーワード抽出法に創意工夫をしたのは、まさに未踏ユース にふさわしい内容であり、上村卓史君を、準スーパークリエータと認定する。

プロジェクト8:
ブロガーのためのソースコード管理システム(伏井洋平)
当初に掲げた、ブログにおけるソース管理という目標は十分に達している。従来のブログ中に単にコードを書き連ねるのに比べれば、はるかにコードの参照が便利になっている。今後はさらにシステムの完成度を上げ、一般公開・実運用した上で、このシステムのメリットと問題点を明らかにしつつ今後の改良を行ない、ブログを利用したソースの交換促進に役立てて欲しい。

 



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