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2006年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書

 


1.担当PM

   河野 恭之 (奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 助教授)


2.採択者氏名

開発代表者

伊藤 冬子 (同志社大学 大学院工学研究科  知識工学専攻 2年)

共同開発者

天白 進也 (同志社大学 大学院工学研究科  知識工学専攻 1年)


3.プロジェクト管理組織


   テクノロジーシードインキュベーション株式会社


4.委託金支払額


  4,712,799


5.テーマ名


 ふんいきロギング - あの日あのときあの感じ -

 


6.関連Webサイト


 なし


7.テーマ概要


 本プロジェクトでは,断片的なテキスト情報で占められるログに対し,雰囲気や感情といった,曖昧でありながらその空間を決定づける重要な情報を記録する「ふんいきロギング」を提案する.「ふんいきロギング」により,記録した時点での空間を再体験することが可能になり,ログの使い方の意識は変わる.現在のログのうち,ユーザが意図的に記録している形式のほとんどは断片的なテキスト情報から成り立っており,その記録行為への動機付け,論理的なプロセスを辿ることができない.しかし,断片的なログを深く理解するために,また薄れていくテンションやモチベーション,その動機や文脈などを思い出す必要が生じる場合がある.それを助ける情報として,雰囲気,感情の情報を感情メタデータとしてアノテートすることを考えている.実際には記録行為を行う際にコンテンツに対して抱いた感情や雰囲気といったものをそのログにアノテーションする.感情アノテーションのインタフェースとしては直感的に感情や雰囲気を扱いやすいアバターを利用する.また,ユーザが意図的に残すログだけではなく,昨今の音声認識技術の進歩やストレージの大容量化などの背景から,近い将来にはコンピュータ上の全ての行動の網羅的なログが残すことが可能になると考えられる.この網羅的なログと,提案する「ふんいきロギング」を組み合わせることで,さらに記録行為に至る文脈,プロセスの再現を行い,従来のログの再利用を「再体験」のレベルにまで昇華させ,埋もれている記録の利用範囲を拡大することが本プロジェクトの目的である.


8.採択理由


 アバターの存在が逆に雰囲気情報を強調しすぎた再体験になってしまうことを危惧する.また,会議記録への拡張はそう単純ではない.実会議から「雰囲気情報」を抽出するのはどのように行うのか,モチベーションの再現のために会議を再体験するのは時間効率が悪いなど心配のタネは多々あれど,提案は適度に挑戦的で面白い.ただし風呂敷がでかいので,目標を絞る必要があるだろう.目標点が適切に設定でき,そこまで到達するモチベーションを保てばよいものを作るだろう.

 





9.開発目標


実世界・仮想世界における日々の活動であるBlogWWWページにするリンクとタグ,コメントを付与して共有するソーシャルブックマーク(SBM),音楽や映画などのコンテンツに対するアノテーションやレビューサービス,更には個人の日常記録である写真や映像を登録できるメディア投稿・共有サービスなど,個人の活動記録を意図的にWeb上に残す行為が一般にも浸透してきている.また,議事録やメモなど体験や活動の一部を再利用のために別のメディアに切り出し記録するという行為が計算機の普及以前から(極端には有史以前から)行われてきた.

これらのログを記録したユーザ自身はロギング行為時には記録情報を再利用する意図を持っているのが通常である.特にWeb上でのロギング行為は他ユーザの再利用も想定して行われている場合もある.しかしながら,例えば簡潔な議事録を閲覧してもどこで議論が沸騰しモチベーションが高揚したのか,対象ページのどこにどのような価値を見いだしてブックマークをつけたのかなど,ログを後で閲覧しても,そのコンテンツに情報を付与した時点での記録者の状態を再体験・追体験することは困難である.そこで,本プロジェクトでは上記の情報記録(ロギング)の際に記録する内容自体だけでなく,記録行為に至るまでの動機・文脈を感情メタデータとして記録し,「ふんいきタグ」やアバタの表情や動作で記録時の文脈を再現する「ふんいきロギングフレームワーク」を開発する.本フレームワークのアプリケーションとして,1)Webページを記録対象とするふんいきソーシャルブックマークシステム,及び2)映像などのストリームデータを対象とする再体験型会議記録システムを開発する.

 


10.進捗概要


前項に記したように提案時にはユーザの主観情報をコンテンツや一般的な分類タグと共に記録するフレームワークを構築し立ち上げる予定としていた.開発期間の前半には開発者の所属研究室内で主観タグと通常のタグ(文字タグ)を付与できるSBMを試験的に立ち上げ運用すると共に,主観タグとアバタ表情・動作のマッピングを行うモジュールの試作を行っていた.しかしながら前記の小規模な試験運用の過程においても,膨大なコンテンツやアノテーション情報を持つ既存のSBMサービス(del.icio.usやはてなブックマークなど)やメディア投稿・共有サービス(FlickrYouTubeなど)を多くのユーザが既に利用しており,それらのデータとの併用ができない独立のサービスを立ち上げても普及の可能性または速度が問題となることが予想された.このためユーザ移行の負荷や初期コンテンツ不足の問題を劇的に低減させる手段として,前記のような膨大なコンテンツを既に保有してはいるが多くのサービス上に散在している各種サービスを統合すると共に,外部Webアプリが持つ通常の分類タグを付与する機能をそのまま利用し,主観のアノテーションと再体験のためのサービスのみを提供するきもちタグラッパーへと目標を変更し実装した(図2.4.1参照).

 


11.成果


前項の変更により,当初の開発目標であったふんいきSBMdel.icio.usとはてなブックマークなどの外部SBMへのラッパーとして実装され,ブックマーク及び通常の分類タグは外部SBMにそのまま保存される.きもちタグやアバタの属性はきもちタグラッパーによって外部SBMにタグとして保存可能な形式に変換され同様に保存される.このようにして保存された外部SBMコンテンツをきもちタグラッパーのユーザがラッパーサービスを通して閲覧すると,きもちタグの情報がラッパーによって解釈されて主観タグが表示されると共に,アバタの表現・動作が再現される.図2.4.1にシステム・サービスの構成を示す.

2.4.1 きもちタグラッパーシステム構成図

2.4.1に示すようにきもちタグラッパーは写真の保存と主観タグの付与をFlickrのラッパーの形で実現している.更にきもちタグラッパーでは各ユーザのこれらサービスへのロギング行為時にそのタイムスタンプを記録し,複数種類のコンテンツのロギング行為を一つの時間軸で閲覧する手段であるタイムラインインタフェースを提供することで,ロギング時のユーザのアクティビティと主観の変化,注目コンテンツ以外との関係性などを再体験・追体験することができる.図2.4.2に示すように,タイムラインインタフェースでは中央のダイヤルコントローラを回転させることで,表示の時間幅を自由に変更することができる.

2.4.2 タイムラインインタフェース

きもちタグラッパーのサービス対応対象を動画などのストリームコンテンツに拡張すると,もう一つの開発目標である再体験型会議記録が容易に実現できる.本プロジェクトでは,動画投稿型の外部Webアプリケーション対応の前段階として動画共有サービスを開発者の内部サイトに実装し,再体験型会議記録システムを試作した.図2.4.3に試作システムの動画閲覧画面を示す.

2.4.3 動画閲覧画面

本システムは動画投稿を受け付けると共に,投稿された動画の任意のフレームにコメントときもちタグを付与することができ,図2.4.3に示すようにコメントが付与された部分はアバタと共に閲覧することができる.

 


12.プロジェクト評価


2006
年度上期に担当した6件のうち,途中段階の進捗が最も心配になったプロジェクトであった.試行錯誤を繰り返した末に,効率的に目標達成に至る実装形態を見いだした後の進捗は驚嘆に値する.ストリームコンテンツに対する盛り上がりの可視化,SBMや写真サービスとの統合など若干の残件は残されているが,採択時に風呂敷が広すぎる懸念があった目標のほとんどを結果として達成してしまっている.開発成果の適用範囲も広範囲であり,普及可能性も提案時より向上している.必要な機能の取捨選択の適切さ,本質的な機能を見極めてからの粘りに感服すると共に,スライドやポスターのデザインやキャッチコピーを創り出すセンスも評価したい.

 


13.今後の課題


前項でも述べたようにストリームコンテンツに対する盛り上がりの可視化,外部動画共有サービスへの対応ラッパー,そして他の既対応コンテンツとの統合インタフェースが残件として残っている.期間終了後も開発継続すると共に是非公開サービスとして新しいWeb文化を創り出して欲しい.

 




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