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2006年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書

 


1.担当PM

   並木 美太郎 (東京農工大学大学院 共生科学技術研究部 助教授)


2.採択者氏名

開発代表者

池長 慶彦 (早稲田大学大学院 理工学研究科 修士課程 2年)

共同開発者

首藤 一幸 (ウタゴエ株式会社 取締役 最高技術責任者)


3.プロジェクト管理組織


   ウタゴエ株式会社


4.委託金支払額


  6,773,750


5.テーマ名


 実ネットワークに適応するオーバレイマルチキャスト放送基盤

 


6.関連Webサイト


 なし


7.テーマ概要


 本プロジェクトでは、視聴者の PCも映像や音声の中継を行う放送基盤ソフトウェアを開発する。視聴者が、受信だけでなく再配信も行うことで、強力/大規模/高価な配信サーバやコンテンツ配信ネットワーク(CDN)が不要となり、極めて安価に大規模な放送を行うことが可能となる。加えて、単に安価なだけでなく、誰にでも放送が可能となり、コンテンツクリエータが国内外の多数の視聴者に対して直接作品を届けるという新しいコンテンツ流通形態が現実のものとなる。
視聴者のPCが中継を行うというマルチキャスト形態は、アプリケーション層マルチキャスト(ALM)やオーバレイマルチキャストと呼ばれる。従来ソフトウェアは、配信木を構築するアルゴリズムの中で、実ネットワークの様々な制約、例えばxDSL回線の上り下り非対称性やNA(P)Tの存在を考慮していない。このため、上り帯域幅が再配信には足りないようなPCが誤って配信木に入ると中継が破綻するといった問題があった。xDSL回線の上り大域幅は数百 kbps程度であるため、音声(例: Skype)では顕在化しないこの問題が、動画では問題となってくる。
また、従来ソフトは、配信木の構造を特定のサーバが集中的に決めるか、各PCが非集中的/自律的に決めるかのどちらか一方である。集中的に決める方式には、サーバが単一故障点であるという対故障性の問題や、数千、数万のPCを管理することの負荷が集中するという問題がある。しかし、系の全体を把握することで、非集中的に決めるよりも安定性、効率、スケーラビリティの良い配信木を構築し得るという利点もある。
そこで、次の特徴を備える放送基盤ソフトウェアの開発を提案する。(1)実ネットワークの制約、例えばxDSL回線の上り下り非対称性やNA(P)Tの存在を考慮して配信木を構築する。(2)集中的(ハイブリッドP2P)にも、非集中的/自律的(ピュアP2P)にも、両者を組み合わせても、配信木を構築できる。
これらの機能によって、実ネットワーク上で、安定して、大規模な放送を安価に行うことを可能とする。


8.採択理由


 インタネットによる動画像、音声配信の放送基盤として、P2Pを用いて動的にマルチキャストネットワークを構成する提案である。実用重視、ということで、チャネル数、ノード数が具体的に示されており、未踏性を認めることができた。また、準備状況も十分であり実用に向けた開発を期待できることから採択とする。

 





9.開発目標


 従来、映像や音声のライブ配信を大規模なノードに対して行う場合、高性能かつ高価な配信サーバやコンテンツ配信ネットワークを用意する必要があった。このため、コンテンツ配信業者が大規模なライブ配信を行うのは困難であると言う問題があった。

 本プロジェクトでは、オーバレイネットワークを用いP2Pにより、視聴者のPCも映像や音声の中継を行う放送基盤ソフトウェアを開発することで、高性能な配信サーバや配信ネットワークを用意することなく、安価に大規模なコンテンツ配信や放送を行えることを目標とした。本基盤ソフトウェアを用いることで、単に安価なだけでなく、誰でも、誰にでも放送が可能となり、コンテンツ作成者が国内外の多数の視聴者に対して直接作品を届けるというコンテンツ流通形態を提供できるようにする。

 性能目標として、5001000kbpsの映像データのチャンネルを用意し、最大1万ノードが参加可能なシステムを目標とした。このために、

  (1) ノード情報の管理

  (2) メンバー情報の輻輳制御

  (3) データ要求やソースノードのスケジューリングアルゴリズム

  (4) 隣接ノード管理

について効率の良い新しい方式を考案する。また、

  (5) 各ノードの状態を可視化 することにより、デバッグおよび評価の参考とする

これらの各方式を Java 言語を用いて実装し、プラットフォーム独立な基盤ソフトウェアとする。

 多くのP2Pの論文は、NS2をはじめとするシミュレータ上での評価にとどまり、実用性の観点から不十分な検証であると言わざるを得ない。本プロジェクトでは、1万ノードが参加可能なシステムとし、クラスタ上での評価により本方式の本質的な項目に対する評価を、また、実ネットワーク上で配信実験を行う、実用面からの評価を行うことを重視する。

 


10.進捗概要


 本プロジェクトにおける配信ネットワークのトポロジーを図3に示す。メッシュ型を想定している。最大1万ノードの参加を可能とする。基盤ソフトウェアの構成を図4に示す。このソフトウェアが各ノードで実行される。

      

図3.配信ネットワーク                        図4.ソフトウェアの構成

 

 ライブ配信システムでは、次の機能が重要である。

(1) ノード情報の管理

 トポロジーに参加しているノードの情報を管理する。

(2) データ要求のスケジュール管理(バッファスケジューラ)

 接続したノードからデータを要求するスケジュールを管理する。また、取得したデータを管理する。

(3) 隣接ノードの管理

 ノードの接続、ノードの切断を管理する。

 

 これらの各管理について、それぞれ新しい方式を提案した。(2)のデータ管理については、6種類のアルゴリズムを実装し、状況に応じて適切なアルゴリズムを利用できるように設計されている。隣接ノードの管理についても帯域幅を用いて動的に隣接ノードを変化させる。

 本プロジェクトは、1万ノードを参加できることを目標としている。1万ノードを用いて評価を行うには、それらのノードの参加離脱など様々状況を作り出すために、ノードを一括制御する必要がある。このことから、シナリオベースのノード制御システムも同時に実装された。また、各ノードの状況を直観的に理解するために、可視化システムも用意した。

 これらのソフトウェアを用いて各種大規模なノードに対する実験、また実ネットワーク上での実験を通じて有効性を検証した。

 


11.成果


 本プロジェクトでは、従来のサーバ・クライアントモデルと比較して、P2Pにより視聴者のPCも映像や音声の中継を行う放送基盤ソフトウェアを開発することで、安価かつ手軽に大規模な放送を行うことを可能にした。従来のオーバレイマルチキャストの研究では、方式の評価はシミュレーションにとどまったものが多く、実ネットワーク上での問題を考慮していないものがほとんどである。本プロジェクトでは、実ネットワーク上で動作することを前提に各種方式を検討・提案し、実際に実ネットワーク上で実験を行い方式の有効性を実証した。また、PlanetLab(25カ国の百数十台)で本ソフトウェアを動作させ、地球規模の広域ネットワークでも実行できることを検証した。さらに、実ネットワークを模した帯域を制限したクラスタ上で最大10000ノードでの動作を検証した。これら各種評価実験の結果、従来手法に対する性能向上を確認した。本プロジェクトによって、安価かつ手軽な大規模放送を行う基盤を提供することができた。

 


12.プロジェクト評価


 大学におけるネットワーク研究はP2Pが花盛りである。猫も杓子もP2Pの観を呈しているが、どれくらいインパクトのある内容を持っているかは疑問を感じることが少なからずある。その理由は、明確な応用を持った上で各種方式を考察していないこと、それから評価のほとんどは実用に即しているか不明なパラメータとシミュレータで評価しているため、実用上有用かどうかが判断できないのである。

 本プロジェクトは、産学の共同で行われた。アルゴリズムの発案、検討、ソフトウェアの実装は学の代表者が行い、評価実験の立案などはベンチャ企業の共同研究者が行った。ソフトウェアの開発目標も企業が要求しているライブ配信となっており明確である。特に1万ノードが参加可能な目標は野心的であり、実用的に魅力的なことから採択した。

 ノード管理、データ配送管理など各種アルゴリズムを検討し、実装した上で、実際に実ネットワーク上で実験を行い方式の有効性を実証した。また、PlanetLab上で本ソフトウェアを動作させ地球規模の広域ネットワークでも実行できることを示したこと、実ネットワークを模した帯域を制御したクラスタ上で最大10000ノードでの動作を検証した。これらの結果から、実ネットワーク上でも十分な配信性能を持っていることが期待できる。実用的な水準に達していると判断し、高く評価する。

 


13.今後の課題


※秘匿項目につき記載不可




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