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2006年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 




1.担当PM

   美馬 義亮 (公立はこだて未来大学システム情報科学部 助教授)




2.採択者氏名

開発代表者

中野 洋一 (エーアンドエー株式会社 研究開発部第2研究室 室長)

共同開発者

大谷 和利 (テクノロジーライター、有限会社アシストオン取締役アドバイザー)

加藤 一彦 (MPスタジオ代表)




3.プロジェクト管理組織


   株式会社 創夢




4.委託金支払額


  8,000,000




5.テーマ名


 創作者の意図を最大限に活かす立体マンガエディタ/ビューワ開発




6.関連Webサイト


 なし




7.テーマ概要


 当プロジェクトは、従来の平面的なマンガの世界を超越しつつも、3D CGに見られるようなアルゴリズムによるリアルさの追求とは一線を画する「立体マンガ」制作のための専用ソフトを開発するものである。
 作業にあたっては、CADアプリケーションや3Dデータの立体ディスプレイに対する表示関係のプログラミングを手がけてきたプログラマの中野洋一を中心として、IT関連技術やデザイン関係のコンサルティングなどを行っているテクノロジーライターの大谷和利がユーザーインターフェイスやユーザビリティの面で協力。さらに、「ルパン三世」などの作品で知られるプロの漫画家であり、東京工科大学大学院メディア学研究科において立体マンガの研究を行ってきたモンキー・パンチ氏が実作者の立場からアドバイスを行うことで、実際の作品制作に使用できるレベルの仕上がりを目指す。
 昨今、アルゴリズムによる質感の生成やモーションキャプチャを利用した動きの追求など、リアルさを重視した3Dアニメーションのような映像表現が当たり前のものとなってきているが、これは動画・映画の方法論を用いてマンガ的な世界にアプローチしたものと言える。しかし、本来、マンガにはマンガとしての文法や約束事(コマ割りによるストーリーの展開法や動きを表すグラフィックス、擬音語・擬態語の表記、時間・空間的な表現など)があり、それらがマンガ独自の世界やアート性を生み出してきた。また、電子的なディスプレイ装置は、臨場感を追求するために解像度や色の再現性、視野角などを向上させてきた。ところが、この方面での進化はすでに高いレベルで飽和状態にあり、今後のブレークスルーを担うのは紙媒体の置き換えを狙った電子インク技術と、人間にとって自然な裸眼立体視が得られる3D表示装置になると考えられる。
 そこで、マンガ本来の特性を活かしながら立体視を前提とする表現技法の研究がモンキー・パンチ氏などの先進的なマンガ家の手で行われてきたが、このような「立体マンガ」を実作するにあたって不可欠となる電子的な高機能エディタはこれまで存在していなかった。マンガは、すでに日本の重要な産業の1つとなっているものの、その電子化にあたっては、印刷物をそのままスキャンして画像ビューワ向けに配信するような物量作戦に出た諸外国の急激な追い上げを受けつつある。このことからも、高い付加価値によって日本のマンガ産業のリードを保つことが可能な「立体マンガ」を確立するためのツールの整備は、未踏ソフトウェアのテーマに相応しいものと考えられる。
 なお、このソフトウェアは、リーズナブルな価格と市場での入手のし易さから、シャープ製の3D液晶技術を採用した外付け15インチディスプレイ「LL- 151D」での表示を前提に開発されるが、最終的な表示装置はこれに限定せず、新たな、もしくは複数の異なるディスプレイへの対応も考慮した内部構造を採る予定である。

 




8.採択理由


 経験豊富な異分野、隣接分野の協同開発者が協力していることを評価した。立体漫画を表示するためのデバイスが新たに登場したこと、漫画の新しい表現という積年の夢を実現したいというクリエータ、そのためのソフトウエアを開発する開発者のコンビネーションの体制となる。新規の環境でソフトウエアとしても斬新なものが出現することを期待する。

 




9.開発目標

立体マンガは時間をかければ、現在のマンガを作成するためのデジタルツール上での作成が可能ではあるが、ひとつのストーリーを構成するだけの立体画像を生成する作業はすで現実的なものではない。現在PC を用いて作画を行っているマンガ家が、大きな手間をかけることなく、立体漫画化を作成できる機能を提供する必要がある。ユーザーインターフェースを含めた新たなシステムを、ユーザである漫画家が満足できるレベルに高めたものとすることが期待される。また、立体視の手法は現在標準的なものがあるわけではないため、提案されるシステムはできるだけ汎用性をもつような設計とすることは目標設定の大きな留意点である。

 




10.進捗概要

メンバーは、CAD アプリケーションや3D データの立体ディスプレイに対する表示関係のプログラミングの経験があるプログラマの中野さん、IT 関連技術やデザイン関係のコンサルティングなどを行っているテクノロジーライターの大谷さんがユーザーインターフェースやユーザビリティの面で協力。さらに、「ルパン三世」などの作品で知られるプロの漫画家であり、東京工科大学大学院メディア学研究科において立体マンガの研究を行ってこられた加藤さんが漫画家としての立場から評価・アドバイスを行うという体制でプロジェクトは進行した。

最初にPhotoShop のレイヤー構造に基づくビットマップベースでのシステムからOpenGL をベースにしたレイヤー構造を3D で可視化するシステムへの転換をおこなった。同時に、大谷さんの提案によりマウス操作にかわる直感的な入力装置としてMacintosh のモーションセンサを使った立体ビューアなどの試みがなされ、加藤さんの評価を受けている。このプロジェクトには、プログラマである中野さんに、プロトタイプを作った後、その評価と考察の後、再びスクラッチから立体マンガエディタのアプリケーションを作り直すことを勧めたが、スケジュールの三分の一を過ぎたころ、その再構築が開始され、その後も大谷さんの関与をうけながら、プロトタイプシステムは惜しげもなく再構築がなされ続けた。この間、加藤さんによる立体マンガコンテンツの試作などがプロトタイプシステム上で行われ、コンセプトやユーザーインターフェースの改善が弛みなく行われた。平面マンガから立体マンガを作り出す基本的なスキーマがデザインされたころ、あわせて立体マンガビューアプロトタイプの開発も始められた。最後の2,3ヶ月は細部の改善に充てられており、理想的なプロジェクト進行だと考える。

 




11.成果

想定されていた立体マンガエディタとそのビューアが、ユーザである漫画家との緊密なかかわりをもちながら開発された。また、擬似バンプマッピングという手法で平面に傾きを与えるといった手法を作り出し、また上述のように「立体の度合い」を見るのに都合のよい入力方法なども提案されている。

                      

 

これらの設計は、中野さんという優秀なプログラマ、ユーザーインターフェースに造詣の深い大谷さん、強いニーズや実現へのビジョンや動機をもつ加藤さんの協力があって初めて成立したものであると考えられ、それらはシンプルでありながら強力な機能をもつソフトウェアの造りこみにも現れていると考える。また、後半で追加された立体表示デバイスを複数想定した出力が行えるようになった機能も重要であり、色眼鏡をもちいた立体視やカラー画像にも安価に対応できるホロブレードという装置を前提とした出力も可能になっている。

 

                        

 

漫画家としての加藤さんの立体マンガエディタとしての評価は高く、立体マンガ向けのコンテンツを作成することのできる状態になっているということなので、当初の目標は達成されていると考える。

 




12.プロジェクト評価

 

順調に、組織的に、プロジェクトが実施された。プロトタイプ作成を行い、中野さんによる頻繁なシステムの作り直しがなされ、何度もフィードバックを繰りかえされたことで、技術的な成果は想定以上のものとなった。高く評価したい。

 




13.今後の課題

立体マンガは、読者が特殊なビューアを使わなければならない点や作者がコンテンツの制作に幾許かの追加的な作業が必要な点があるため、普及への障壁がないわけではない。しかし、電子的なマンガビューアが一般的になった時点では、既存のマンガをスキャンして読むということを超えたコンテンツの出現も期待されるであろう。このような状況では立体マンガのニッチは存在し、ビューアの普及とともに立体マンガが一般的になる可能性はある。立体マンガの可能性を、その性質を生かせるような作品をつくって広めるとともに、立体マンガのコンセプトを広めること、立体マンガ文法の構築、あるいは、さまざまなデバイスの出現を見越したデバイス独立なデータフォーマットの策定など、新しいメディアとしての成熟・普及に向けての作業を続けていただきたい。

 



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