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2006年度上期 未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書(プロジェクト全体について)


 プロジェクトマネジャー: 高田 浩和 (株式会社ルネサステクノロジ システムコア技術統括部 CPU開発第二部)

 

 


1.プロジェクト全体の概要


 さまざまな組み込み機器とそこに使用される組み込みソフトウェアは、ユビキタス社会を支える重要なキー・コンポーネントとなっている。本プロジェクトでは、「高性能組み込みシステム開発のための基盤ソフトウエア技術」をテーマに、2005年度に引き続き、2006年度も次世代の高性能組み込みシステムを開発する上で重要となる基盤ソフトウェア技術について開発テーマを募集し、プロジェクトを推進した。

 

 携帯情報機器やデジタル家電の例からもわかるように、近年、組み込みシステムに使用されるソフトウェア規模は著しく増大している。加えて、それら組み込み機器の製品開発サイクルは極めて短期間となってきていることから、個々のエンジニアの経験と職人技にたよるだけでは高性能なソフトウェアを効率的に開発することが困難になりつつある。一方、ハードウェア記述言語を用いたハードウェアの開発が主流となるに伴い、ハードウェアとソフトウェアの境界は性能・コストのトレードオフにより決定されるようになり、組み込みシステムのハードウェア開発にもソフトウェア的な側面が導入されつつある。

 こうした状況のもと、組み込みソフトウェアの特徴であるハードウェアに密着した個別性、特殊性を考慮しながらハードウェア性能を最大限に生かし、かつソフトウェアの生産性を飛躍的に向上させることのできる、組み込みシステム(ソフトウェア/ハードウェア)の開発におけるブレークスルーが強く求められている。そのためには、プラットフォームやミドルウェア、そして開発ツールの整備といった従来手法だけでなく、もっと異なるアプローチにもとづく新しいプログラミング環境、開発ツール、あるいは開発スタイルといったものを導入し実用化していく必要がある。

 

 今回、2006年度上期のプロジェクトでは、以下の2件のテーマを採択した。

 

        マルチロボット管理のための協調フレームワークの開発 (片岡)

        PCIバスを利用した組み込み向けデバッグ支援システムの開発(藤田)

 

 これらの採択プロジェクトでは、それぞれ次のような内容について開発を行いプロジェクトを推進した。

 

        無線接続され、独立に動作する複数のモバイルロボットを協調して動作させて目的を達成させることを目的とする、マルチロボット管理のための協調フレームワークの構築と、そのためのアドホックネットワーク技術の開発。

        PCIバス上を流れるデータを取得することにより、組込みシステムにおけるソフトウェア・デバッグを容易にするためのデバッグ支援システムの開発。

 

これらプロジェクトの意義はおよそ以下のようなものである。これら各プロジェクトの目指す開発成果は、特定のシステムに限定されるものではなく、より広範な応用が可能な基盤技術を含んでいる。

 

        多数のモバイルロボットを個別にコントロールするのではなく、協調フレームワークを用いてロボット全体をコントロールすることにより、スケーラブルな分散・並列処理を可能にしたこと。フレームワークにコマンドを投げることで、ロボット全体に対してコマンドを投げ、全体として処理を行わせる。インテリジェントなロボットが相互に通信し全体として作業・処理を行うため、探索などの処理において、ロボット数によるスケーラブルな処理性能を得ることができる。

        隣接するロボット(ノード)間で相互に通信可能な状況において、独自の高信頼プロトコルにより、組込みシステムに十分搭載可能な、低消費電力で高信頼なアドホック・ワイヤレス・ネットワークを構築したこと。

        市販のFPGAボードを用いて、低価格で入手しやすい簡易バスアナライザ機能を実現したこと。PCIバスを持つ組み込みターゲットシステム上のプログラムの挙動を調べることにより、ターゲット・ハードウェアの開発に際して効率的で生産性を向上できるようなデバッグ支援システムを実現したこと。

 


2.プロジェクト採択時の評価(全体)


 応募総数は7件であり、うち2件を採択した。募集に際しては、

      組み込みシステム用基本ソフトウェア

      マルチコア環境、分散システムへの対応

      組み込みシステムのシステムレベル設計・評価技術

に関するテーマを募集した。このうち、採択した片岡プロジェクトは複数ロボットを対象とした分散システムに、藤田プロジェクトは組み込みシステムの設計・評価技術に、それぞれ関連したテーマとなっている。

 

 審査はPMが単独で行い、書類審査で絞り込んだ後、ヒアリングを行って採否を決定した。採択については、目的や目標が明確で、開発者自身にやる気がみられ、成果としても有用と思われるものを採択した。採択時の審査に当たっては以下の点を重視した。

        有用性が高いこと。使えるソフトウェアであること。

        未踏性が高いこと。技術的にユニークで、独創性があること。従来の枠組みにとらわれない新しい切り口をもつこと。

        期間内に実現可能なテーマであること。

        オープンソース・プロジェクトとして公開されること。

 

 片岡プロジェクトでは、複数のロボットを協調して動作させるためのフレームワークを構築することを提案している。個々のロボットに動作を個別に指示するのではなく、指定したコマンドに基づいて協調フレームワークがインテリジェントに移動可能なロボットを制御し協調動作を行うようにするというもの。位置取りシステムのアルゴリズム改良だけでなく、無線接続されたロボット間のアドホックネットワーク通信技術への展開を目指しており、技術的にも有用で面白いと考えられるため採択した。

 

 藤田プロジェクトでは、PCIバスを用いた組み込みシステムのデバッグ支援を目的として、低コストな簡易PCIバスアナライザを開発することを目指している。これまでオープンソースなPCIバスアナライザ・システムというものは公開されておらず、ハードウェア記述言語(HDL)を用いた、FPGAボードに搭載するハードウェアの開発が中心となる。非常にニッチなテーマではあるが、開発に成功すれば有用性は高い。個人プロジェクトであるからこそ実現可能なテーマであり、未踏プロジェクトで支援するのが適当と判断し採択した。

 


3.プロジェクト終了時の評価


 今回採択したどちらのプロジェクトも、開発したソフトウェアについては全くの新規開発であったが、おおむね当初の計画どおり開発を行うことができた。

 

 中間成果報告会(20061218日、大阪市立総合学習センター)は、一般公開形式で実施した。関係者のスケジュールが合わず遅めの開催となったこともあり、2006年度下期キックオフ・セミナーとの合同開催としたが、このような合同開催は開発者同士のつながりを深める意味でも有効であったと思われる。中間報告会では、成果報告のプレゼンテーションとは別に時間をとり、ある程度最終的な成果物の動作をイメージできるようなデモンストレーションを開発者に実施してもらうこととした。上期発表2件のうち、1件については当日、発表者が体調不良により欠席となったため、余裕のできた時間をデモンストレーションにまわすことで、デモンストレーションには十分な時間をとることができた。中間段階でのデモ展示は、開発者にとっては準備等が大変になるが、開発のマイルストーンを明確にするとともに開発成果へのフィードバックを得やすい点で大変有効なものであると考えている。また今回、下期キックオフとの合同開催としたことで、下期の開発者の参加も得て、開発者間での質疑応答や議論を行うことができ、その後の開発についてのコメントやサジェスチョンが得られるなど有意義なものとなった。

 

 最終成果報告会(2007218日、大手町サンケイプラザ)は、並木PM, 斎藤PMのプロジェクトとの3PM合同報告会(一般公開)とした。それぞれのPMごとに担当するプロジェクトの分野や内容が若干異なり、バラエティに富んだ報告を聞くことのできる良い機会となった。開発者の方々にとっても刺激に富む成果報告会にすることができたのではないかと考える。一方で、未踏プロジェクト関係者以外の一般参加者は少なく感じた。その意味では、ある程度関連のある内容のプロジェクトを集めて成果報告会を開催する方が、報告会としての統一されたテーマを明確にすることができ、一般参加者の興味を引きやすかったかもしれない。成果報告会をプロジェクト開発成果のアピールの場として考えたとき、いかにして多くの参加者を集めるかについては今後の課題と思われる。

 最終成果報告会では、プロジェクトの成果を具体的に示すため、各プロジェクトにはデモンストレーションの実施をお願いした。全ての成果報告プレゼンテーションを終えた後、最後に全体でのデモンストレーションの時間を設けたが、やはり 30分間では少し時間が短く感じられ、23件のプロジェクトについてデモンストレーションを見るだけで時間が過ぎてしまったのは少々残念に思われた。成果報告会の当日スケジュールに余裕があるようであれば、もう少しデモンストレーションに時間を割けるとよいかもしれない。

 

 各プロジェクトでは、おおむね当初の目標どおりの成果を得ることができた。

 マルチロボット管理のための協調フレームワークに関しては、実際に無線通信モジュールを用いたアドホック・ワイヤレス・ネットワークを構築し、位置シミュレータを利用して、協調フレームワークを用いたマルチロボットの位置取りシステムの動作確認を行うことができた。位置シミュレータを使用することにより、障害物の配置など、様々な地形の制約条件の下で、ロボットの動作を確認することができる。当プロジェクトの成果はただちに実用化に結び付くものではないかもしれないが、惑星探査、災害時の人命救助、索敵、地雷除去といった用途において、多数のエージェントからなる効率のよいマルチエージェントシステムを構築する上で道を拓くものである。

 PCIバスを用いたシステム組み込みシステムのデバッグ支援システムの開発に関しては、FPGAボードを用いてターゲットシステムの動作についての情報収集が可能となり、波形表示ツールを用いた基本的な解析ができるようになって、目標としたシステムについては一応の完成をみた。。機能や使い勝手の面で、まだまだ改良の余地は残っているが、より実用的なツールとすべく、今後さらに改良をすすめていって欲しい。

 

 今後、成果の普及とともに、ユーザからのフィードバックを得て、さらに各プロジェクトが発展することを期待している。

 

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