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2005年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 



1.担当PM


 竹内 郁雄   (東京大学大学院教授)



2.採択者氏名


 代表者

宮崎 真(同志社大学大 学院 博士課程前期)

共同開発者

なし



3.プロジェクト管理組織


 株式会社オープンテクノロジーズ


  4.委託支払金額


 2,928,541円



5.テーマ名


 Webコミュニケーションツールとし てのイントラブログの構築



6.関連Webサイト


 http://www.sixapart.jp/

  http://geta.ex.nii.ac.jp/

  http://chasen.org/~taku/software/mecab/

  http://www.boxerblog.com/intrablog/index.html



7.プロジェクト概要

 本プロジェクトで は,会社や研究室等,比較的大きな組織を対象としたイントラブログツールを作成する.
 イントラブログとは,従来の公開型のブログとは異なり,企業内などのイントラネット内のみで公開される閉じたなブログであり,社員を読み手として情報発 信を行なうビジネスブログである.本プロジェクトで作成するツールは,ブログ上でのコミュニケーションを目的とし,社員の意思に基づいた,ボトムアップ的 な人的ネットワークの形成を促進させる機能をもつ.
 本システムの具体的な特徴は,社員のブログをエントリー単位でデータベース化し,さまざまな連携をとることにある.
 提案するさまざまな機能を用いることで,ボトムアップの意識をもったプロジェクトチームが形成され,このネットワークの集合体である組織全体がボトム アップ的に進化することが期待される.

 



8.採択理由


 イントラブログにより 企業のようなトップダウン構造と,blogやSNSのようなボトムアップ構造をうまく共存させ,組織内コミュニケーションを活性化し,新しいものを生み出 す組織内コミュニティを形成させようという提案である.既存のグループウェアよりもゆるく,かつblogという親しみやすい形式を使い,キーワード自動抽 出や自動トラックバック機能,宮崎君のいう「人のブログではなく,情報のブログ」など,いくつかの新規性がある.主に社内システム用なので,展開性も高そ うだ.



9.成果概要


 本プロジェクトでは, システムの有効性を検証することを考慮し,開発者が所属している研究室 (学生約50名) を実施対象としたシステムを構築した.研究室では従来,各個人がブログを保持し,かつ継続的にブログを投稿していたが,各個人が既に保持しているブログの 利用形態は変更せず,多人数のブログを効率良く読むために普段利用しているRSSリーダーに着目し,RSSリーダーへのアクセス時に認証を付加すること で,閲覧制限を可能とするブログリーダを作成した.
 本システムにおいてユーザがエントリーを閲覧する際,認証が必要となるため,システムが利用者を特定できる.その結果,エントリー単位での閲覧制限が可 能となる.
 想定している基本的な利用形態は以下の通りである.

(1) 今まで利用している既存のブログで,ユーザは簡単なGUIを使って,閲覧対象者を指定したタグを本文に埋め込み,エントリーを投稿する.
(2) 本システムのRSSクローラーがエントリーを収集し,さらに本文に埋め込まれたタグから閲覧対象者を判断し,その情報をエントリーに付加してデータベース へ保存する.
(3) ユーザが本システムでブログを閲覧する際,アクセス時に認証を行ない,システムへログインする.
(4) システムは認証情報をもとにそのユーザを特定し,そのユーザが閲覧できるエントリーのみを表示する

 また,認証により各ユーザの利用状況や閲覧状況など,さまざまなログをとることができる.たとえば,自分のブログへのアクセス数などをユーザに提示でき るなど,情報制限だけでなく,既存のシステムでは出来なかった機能を付加することができる.
 さらに本システムは,認証により副次的に得られる情報に基づいて,さまざまなユーザにとって関心のある情報を提示し,ユーザの投稿への意欲,つまりブロ グの活発化をも狙う.
 本システムの概念図を図2.10.1 開発したイントラブログシステムの概念図に示す.システムは大きく3つのモジュールで構成される.ブログのエントリー情報を収集してデータベースへ格納す るRSSクローラー @,格納したエントリー情報を取り出して,ブログのエントリーを表示するインタフェース A,エントリー情報が蓄積されているデータベースにおけるエントリーの解析モジュール B である.


図2.10.1

2.10.1 開発したイントラブログシステ ムの概念図

 

  図2.10.2 インタフェースの概念図にインタフェースの概念図を示す.インタフェースはエントリーデータベースからエントリーデータを取り出し,そのエントリーデータ を自分のブログスペースであるリーダーに動的に貼り付ける.また,閲覧者の要求に応じて画面は再構成される.

 

 

図2.10.2

2.10.2 インタフェースの概念図

 

 図2.10.3 ブログエントリー閲覧画面に本システムにおけるブログエントリー閲覧インタフェースを示す.これはAjaxを用いて実装した.画面は表示するエントリーの 条件を指定する部分と,指定されたエントリーを表示する部分からなる.エントリーを読むためには,まず @ にあるエントリー投稿者の名前をクリックする.A に投稿されたエントリーのタイトル一覧が表示されるので,閲覧したいタイトルをクリックすればよい.

 

 
図2.10.3

2.10.3 ブログエントリー閲覧画面

  このような基本的な構成のもと,インタフェー スにさまざまな機能を付加した.ごく簡単に紹介すると

・エントリーの本文中に閲覧対象者を指定するタグを埋め込むことにより閲覧対象者を選択する機能 (図2.10.4 エントリー別閲覧者選択機能)
・未読記事表示機能 (エントリー単位の管理なので容易に実現可能だった)
・特徴語抽出を使った自動的な関連エントリー表示機能 (形態素解析器MeCabと汎用連想計算エンジンGETAを組み合わせて関連度計算を行なった - - - 計画書と異なりオートサーチトラックバックを使わない方式となった)
・エントリーでよく使われているキーワードのランキングを表示する機能
・キーワードに対して,データベースの一括検索を行ない,そのキーワードを含むエントリーすべてを表示するエントリー一括検索機能 (全ブログ横断型の検索)
・各個人が良く使うキーワードをもとに,「人のキーワード」同士の関連度を計算し,ユーザに自分と類似したエントリーを書く傾向にある他のユーザを提示す る「人とのつながり」表示機能である.

図2.10.4

2.10.4 エントリー別閲覧者選択機能

 

 このシステムを用いて,開発期間終了間際 (2006年2月) に実施実験,というよりシステムの実運用に入った.すなわっち,研究室で従来から利用されているサーバ型RSSリーダーから本システムへ全面的に移行し た.研究室の学生・教員・OB・OG計64名がすでに使用しており,正常に稼動している.ユーザをスムーズに新システムに移行させるために,各種機能は小 出しにして追加するという戦略をとった.現在もログ解析を続行中であるが,安定期に入るまでの過渡期は,データ解析よりもシステムの改良を続ける.

   



 



10. PM評価とコメント


 宮崎君 (学部4年の天白君も途中から手伝った) のシステムの素晴らしいところは,開発期間内に実運用に持ち込んだことである.所属研究室が実は全員ブログが義務化されているという恵まれた環境であり, かつ指導教員の理解 (指示?) があったとはいえ,全員のブログ環境をここで開発したシステムに「強制的」に移行できたというのはすごい.特に2月は論文でみんながバタバタしており,そ れゆえにまたブログも盛り上がる時期であるにもかかわらずである.土日に移行を済ませたというのも巧みだった.もっとも,実運用となれば,それはそれなり にバグ対応,小改良の手間がしばらく発生する.これもうまく乗り越えているように見える.それにしても,いろいろな機能を小出しにしてユーザに公開してい くという戦略はなかなかしたたかだ.
 こういうことが可能になったのは,普段利用しているブログのRSSの登録のみでイントラブログに参加可能という特徴を本システムがもっているからであ る.すなわち,本システムでは,利用者は既存のブログの利用形態をほとんど変えずに,本システムのイントラブログに参加できるという特徴を持つ.従来シス テムでは,新たなイントラブログに参加するためには,ユーザは今まで利用していたブログとは別に,新たに用意されるブログを用いる必要があった.つまりエ ントリーを投稿するブログのプラットフォームを2つ持つことが前提となっていた.これに対し,本システムのイントラブログに参加するためには,RSSを登 録するのみでよく,参加の敷居が非常に低い.
 一方,この提案の本当の売りであったエントリーごとの閲覧者選択機能は,ユーザの評判があまりよくないようである.宮崎君が想定したのは以下のような ケースである. 普段学生は研究に悩んでいることをブログに書くケースが多く,教員がそのブログを見て自分に共感してもらえることを期待している.しかし ながら,従来のブログリーダでは登録人数が50以上にもなることから,教員はそのようなエントリーを読み飛ばすことが多い.これに対し,本システムでは学 生がエントリーの本文に教員宛のタグを埋め込むことにより,教員が本システムにログインした際,自分宛のメッセージとしてそのエントリーを受け取り,それ にほぼ必ず目を通すこととなる.このように,学生は教員に自分の悩みを伝えることができ,また教員にとっては学生の考えを把握できることから,学生・教員 の両者にとって有効に働く.このようなやりとりはメールと異なり,日記形式で相手へメッセージを伝えることができる.
 これは,エントリーに閲覧者への (これぜひ読んでねという) 指向性のみをもたせる機能と言える.しかし,このような指向性をもたせ,かつほかのユーザには閲覧許可を与えない機能も併用する必要があるだろう.組織に よっては,これが重宝する可能性が高い.
 このようなシステムが一般的な組織にどう受け止められるかは興味深い.この点についての宮崎君の分析は面白い.彼の書いた文をほぼそのまま引用しよう.
 「閉じたネットワークの中でコミュニケーションを活性化するモデルとして,本システムはmixiやGreeに代表されるSNS (ソーシャルネットワーキングサービス) のようなシステムに行き着くものではない.本システム内では弱いが強制力が働くという点で,従来のSNSと決定的に異なる.
 所属研究室は非常に特殊だと思われるが,教授が学生にブログを書くことを強制し,また本システムへの登録も強制的に行なわせている.つまり,本システム はブログやSNSのように,一般的な自由参加型ではなく,半ば強制参加型で,教授というボスが存在する.現システムでは,ボスの権力を行使できるような仕 組みは持ち合わせていないが,今後ボスの要求に応じてこのシステムを変更していく予定である.
 一見,この方法は強引でSNSの定義に反すると思われるが,普段はインターネット上と同じ形でのブログ利用が定着しており,コミュニケーションは十分活 性化している.つまり,本システムは教授による規範内において自由な環境を与えられている.そして,組織のボトム (構成員) の活性化を,組織のトップ (ボス) が弱い形で制御することにより,ボトムの活性化とトップの意思決定が融合し,組織全体としてのさらなる活性化が期待できる.
 これは,会社などの組織において,教授と学生の関係を社長と社員になぞらえれば,同じことが言えよう.本システムで規範の取り決めを行なうボスをつくる ことで,会社組織にフィットしたイントラSNSを提案できるであろう.このために,まずは研究室に特化させることで,新たな活用方法を見出していきた い.」
 とても良い考察である.研究室内の試練を経て,なるべく早くこのシステムが公開されることを期待する.PMはブログを「まだ」使わないが,このようなシ ステムがちゃんと稼働するのであれば,研究室の運営に使ってみたいとうい気にさせる.

 期間内に実運用に持ち込んだこと,今後の展開についての考察にも鋭いものがあり,あと1年,さらなる発展性が期待されることから,宮崎君にはスーパーク リエータの称号を送りたい.



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