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ABLA開発の目標は
以下の2点であり,これを達成するシステムを開発した.
・
個人ユーザ等の一般的なインターネット利用者がインターネット上の攻撃動向を把握し,セキュリティを向上させるための,より利便性の高い観測システムを構
築すること
・ 観測点の固定的な設置から解放された,より多くの観測点をもつ,真にグローバルでかつ観測精度の高いインターネット観測システムを構築すること
個人ユーザは,ABLAを使い,観測システムに接続することで,各観測点において公開されているtcpdumpの情報からインターネットの観測結果を得
ることができる.観測結果から,トラフィックの増減やパターンよりウィルス,ワームなどのマルウェアの活動状況や不正アクセスの最新の傾向を捉えることが
可能である (図2.7.1 ABLAの概要).
ABLAでは,観測結果を取得する際に,解析をする開始時刻と終了時刻,解析結果を収集する観測点数,観測結果に含める情報の細かな条件などを自由に指
定することができる (図2.7.2
ABLAの解析要求GUI).すなわち,利用者は自身の環境にあわせ,必要とすべき情報のみを含んだ観測結果を取得することが可能である.このように,観
測要求条件を柔軟に指定できるため,既存のインターネット観測システムでは得ることが難しい特定のポート番号やIPアドレスのみを対象とした観測結果と
いった詳細な観測情報を入手できる.
ABLAは観測結果の宛先ポート番号,送信元IPアドレス毎等をグラフとして可視化することが可能であり,時系列に沿ってウィルスやワームなどのマル
ウェアによる被害や不正アクセスの傾向がないかを見ることができる.さらに,観測結果に含まれるIPアドレスを世界地図,日本地図にマッピングして表示さ
せることで,マルウェアの感染元,攻撃元と疑われる計算機を国単位で知ることができる (図2.7.3
IPアドレスから場所を同定して地図上に表示する).このほかにも,可視化については多様な手法を開発して,評価した.
ABLAによる観測システムの観測点となるために必要となるのは,ABLAの起動後,公開する観測情報としてtcpdumpで取得したネットワークパ
ケットのログファイルを指定するだけである.そのため,個人ユーザが,匿名性を保証されつつ,観測システムを構成する観測点として参加し,インターネット
観測の精度向上に容易に協力できるようになった.
図
2.7.1 ABLA の概要
2.7.2 ABLA の解析要求 GUI
図
2.7.3 IP アドレスから場所を同定して地図上に表示する
主要技術の開発の詳細は以下の通りである.
(1)
ABLAは多数の観測点が観測網に容易に参加・離脱可能な分散型の観測システムである.そのため,観測点により構成されるP2Pネットワークとして実用に
耐えるネットワーク構築アルゴリズムとして,多数のノードが存在する場合でもスケーラビリティの高い Chordという分散ハッシュテーブルを用いた.
(2) Chordの実装に際して,論理ネットワークの構成確認と,自動化が困難なテストを目的としたネットワーク可視化ツールChord
Visualizerを作成した.ABLAの一般利用者が本ツールを使用することは想定していないが,Chord実装を進めるにあたり問題点の発見や修正
に用いた.
(3) プロトタイプにあった種々の問題を解決するために,ABLAアーキテクチャをChordに対応させるべく再構築した (図2.7.4
ABLAーキテクチャ).ABLAアーキテクチャの中のエージェントマネージャは,ホスト間を動いてログの解析を行なうエージェントを生成したり,ほかか
ら来たエージェントを動作させるものである.また,P2Pマネージャとエージェントの間でやりとりされるメッセージを仲介する.リソースマネージャは,
tcpdumpによるパケットログの頻度解析 (bpf形式のフィルタリングが可能)
を行ない,公開するログのパケットの各フィールドに対して公開・非公開を設定する.
(4)
エージェント移動アルゴリズムを改善した.従来は,エージェントが指定された数のホストを回り,情報をすべて背負ってから戻る方式だったのを,情報が得ら
れるたびに自分のコピーにその情報を背負わせて解析要求元に帰らせる方式にした.このほうが一般に負荷が軽くなる.そのほか,P2P特有のネットワークの
不確実性に対応できるような改善も行なった.
図 2.7.4 ABLA ーキテクチャ
ABLAを実験的に使用して得られた解析結果を図2.7.5
ポート135に対するパケット数が異常だったことがわかった例
に示す.この結果を受けて,さらに詳細な解析要求をした結果得られたグラフを図2.7.6
ポート135への集中パケットはx.156.43.39から送られていたことが判明 に示す.
図
2.7.5 ポート 135
に対するパケット数が異常だったことがわかった例
図
2.7.6 ポート 135
への集中パケットは x.156.43.39 から送られていたことが判明

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