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2005年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 



1.担当PM


 竹内 郁雄   (東京大学大学院教授)



2.採択者氏名


 代表者

野田 厚志(九州大学  工学部システム情報科学府 修士課程)

共同開発者

片桐 誉裕(同上)



3.プロジェクト管理組織


 株式会社びぎねっと


  4.委託支払金額


 2,655,806円



5.テーマ名


 位置情報を使った近くの端末との直感 的アドホック通信ソフトウェア



6.関連Webサイト


 http://www.f.csce.kyushu-u.ac.jp/rde/WiPS/



7.プロジェクト概要


 ミーティングや会議 において,持ち寄ったPC間でファイルのやり取りをしたいことがよくある.しかし,現状では外部記憶媒体,もしくはインターネットに接続できる環境が必要 であり,まさに目の前にあるPCとの通信なのに,手軽なものとなっていない.徐々に近づいているユビキタスコンピューティング社会においては,物理的に近 くにあるコンピュータ間で協調動作を行なうために,このような物理的に近くにある端末間でのちょっとした通信はより重要なものとなる.
 そこで,本プロジェクトは,近くにある端末間で直感的に,手軽にすばやく通信を行なえるソフトウェアの開発を行なう.このソフトウェアでは,無線LAN を使ったアドホック通信により,インターネットに接続することなく,近くの端末と情報交換が出来る.また,通信相手を選択する際に,名前の一覧から探すの ではなく,目の前のこの人という直感的な指定ができるようにする.これには,無線LAN位置測定システムを利用する.

 我々はすでに,以下の機能を有したプロトタイプを開発済みである.

・周囲の端末位置を画面に表示
・直感的選択による相手指定
・メッセージ通信

 今回の未踏ユース開発期間において,さらに以下のような機能を加えるほか,ドキュメントを整え,フリーウェアとして一般配布することを目標とする.

・GUIや位置測定精度の改善
・直感的グルーピング
・ファイル送受信機能
・通信路暗号化




8.採択理由


 位置情報に関してはこ れまでにたくさんの研究開発がなされてきたと思うが,端末同士だけで位置情報を求め,それをきっかけにアドホックな種々の交信アプリを動かそうというアイ デアはユニークだと思う.もちろん,アクセスポイントがあればあったで,それも活用してよい ―― つまり,なんでもありだ.これまで研究の蓄積やノウハウもあり,実現性も高そうである.プレゼンで面白いアプリをいくつか紹介していたが,この方面でもっ と新機軸を打ち出して,ビジネス展開をはかることを期待する.ともかく,なにやらいろいろネタがありそうだ.



9.成果概要


  本プロジェクトで開 発したものは,大きく3つに分かれる.
(1) 無線LANを利用した端末の測位システム
 測位システムは,開発者の所属する研究室で考案されたWiPS方式を参考にして開発した (図2.6.1 WiPS方式による,端末の相対位置の測定).この測位方式は2つのソフトウェア部品で構成されている.1つは,端末間でパケットを相互 に飛ばし,電波強度を測定するスニファ,もう1つは電波強度による距離情報を集約して位置を計算し,セッションマネージャへ位置情報を提供するサーバであ る.
(2) サーバとアプリケーション間の通信を受け持つセッションマネージャ
 これはサーバから位置情報を受け取る,サーバを発見する,などの機能をもつ.
(3) 位置情報を利用して近距離端末間の通信を行なうアプリケーション
 端末情報の表示と通信相手の指定を行なうためのGUI,メッセージやファイル送受信などの通信サービス機能がこれに相当する.

 本システムはインフラストラクチャモードの無線LAN上にこのソフトを配置すれば動作させることができる.ソフトはすべて同一のセグメント内に存在する 必要がある.システム構成を図2.6.2 システム構成 に示す.位置計算はサーバPC上で動作しており,通信端末ではスニファ,セッションマネージャ,およびアプリケーションが動作している.しかし,サーバ PCがない場合は,通信端末内でサーバ機能を動作させることも可能である.
 スニファ,セッションマネージャ,アプリケーション開発はSHARP zaurusのSL-B500で行なった.セッションマネージャ,アプリケーション,サーバについてはそれ以外の機種でも動作可能である.スニファは無線 LANのドライバを書き換えて電波強度情報を取得しているので,SL-B500以外の機種で動作させるためにはドライバを書き換える必要がある.

    図2.6.1

   

    2.6.1 WiPS 方式による,端末の相対位置の測定

 

  

    図2.6.2

     2.6.2 システム構成
  

  

  以下各ソフトの開発の要所について簡単に述べる.
 スニファによる電波強度の測定とそれに基づく端末間の距離の測定を,移動端末に向いた実時間的なものにするために,送信電波のサンプリングタイミングや 手法をそれまどのプロトタイプから改善した.また,マルチパスノイズによる測定の不安定性を,少し前の受信電波の強度を利用したフィルタリングで大幅に改 善した.
 位置計算サーバの構成を図2.6.3 位置計算サーバの構成 に示す.サーバは多くの端末の対の (やや不正確な) 距離情報から最急降下法を用いて各端末の平面上の相対位置関係を導く.ほぼ90%は正しく計算することが可能で,正しくない場合でもそれを自動的に判断 し,再計算する.この計算はプロジェクト開始前のJavaをCで書き直すことによって50倍速度が向上し (1回の計算が0.5秒から,0.01秒に短縮),実用上ストレスを感じることはなくなった.ただし,配置情報が完全に反転してしまう可能性はこれだけで は除去できないことに注意しておく.
 セッションマネージャは近距離にある端末の情報を取得し,位置情報サーバを発見するのが主要な仕事であるが,サーバが見つからない場合は,自端末に暫定 サーバを立ち上げることも行なう.
 セッションマネージャと密接につながっているアプリケーションの中の一番基本的な機能は,近隣にある端末の位置情報をGUI画面に表示し,ファイル転送 などのアプリケーションの起動を補助することである.図2.6.4 セッションマネージャとアプリケーションのやや詳細な構成 にセッションマネージャとアプリケーションのやや詳細な構成を示す.
 本プロジェクトで開発したGUIはプロトタイプに比べてはっきりと見やすくかつ使いやすくなっている.図2.6.5 新旧GUIの比較に新旧GUIの比較を示す.新しいほうが文字が重ならないようにするなど,きめ細かい工夫が織り込まれている.ユーザは,この画面の上 で,たとえばメッセージを送りたい相手のアイコンをクリックすればよい.

 本プロジェクトで開発したソフトの大きな特徴は,測位システムやセッションマネージャ,さらにGUIの一部も含めて,個別のアプリケーションに依存しな いフレームワークとしてまとめたことである.このフレームワークを利用すれば,多くの人が新しい位置情報利用アプリケーションを開発することが可能にな る.

  

   図2.6.3

    2.6.3 位置計算サーバの構成

   

    図2.6.4

    2.6.4 セッションマネージャとアプリケーションのやや詳細な構成

   

    図2.6.5

                       2.6.5 新旧 GUI の 比較




 



10. PM評価とコメント


 位置情報を利用したい ろいろなアプリケーションが考案されている.しかし,このように3台以上の動き回る端末の相互の位置関係まで視野に入れたシステムは珍しいように思う. オーディションやブースト会議で見せてくれた,無線LANを内蔵したPDAをトランプのようなカード (しかし,相互の位置情報がセンスできるカード!) に見立てて,ゲームに使おうという発想はかなり飛んでいる.
 しかし,その前提となるべき電波強度の測定に基づく測位と位置計算は,生易しくない問題だと思う.プロジェクトの中でマルチパスノイズの影響を大幅に軽 減したが,まだまだ改良の余地があるように窺えた.無線LAN端末の電波強度の較正も面倒そうだ.特に多数の人や携帯機器が集まるイベント会場では条件が 厳しいと思う.
 プロジェクトの提案の根本は,人々が出会ったときに,(ほかの端末があっても) 目指す端末との間でいろいろな通信が簡単にできるようにしたいということであった.近頃は多くの人がUSBメモリを携えているので,そんなニーズが本当に あるのかという疑問がないとは言えないが,アドホックネットワークをこんな仕組みで形成することができたらいろいろと有用な使い道があるという気はする.
 PMは,どういうわけか,最近震災などの災害空間を想定した情報共有の仕組みについて研究をしているが,野田プロジェクトの成果が花開けば,採用できる のではないかと思っている.災害空間では,たとえばボランティアが集まってきたときに,面と向かった瞬間になんらかのPC間交信を行ないたくなるはずであ る.
 このほかにも多種多様なアプリケーションが考えられそうだ.本当は一足飛びにそちらに走ってもらいたいのだが,やはりもう少し足元を固める必要がある. 無線LANカードから電波強度を取り出すのにデバイスドライバのレベルから改良しないといけないのはしょうがないとしても,ある程度の「常識」,端末は投 げつけでもしないかぎり,そんなに早くは動けない,動いていたとしても速度はそんなに急激に変化しない,そもそも急激に向こうに行ってすぐ元に戻るなんて よほどのことがないかぎりあり得ない,などをプログラムの論理の中に埋め込む必要がある.超ローパスフィルタでもいいような気もするが,人間の行動に関す る常識を入れようとすると,これはこれまでつくってきたプログラムとは一味違うスタイルのプログラムになる.ぜひその方向にも触手を伸ばしてほしい.

 ところで野田君は近い将来会社を起業して活躍したいとのことである.この半年の付合の中で,PMのいろいろな (ときとして無謀な) 意見にテキパキと柔軟に対応してもらった.このプロジェクトの経験はきっと起業に活かせると確信している.



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