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久井君のオーディションでもブースト会議でもユニークであった.本物のマリオ
ネットを用いて彼の考えていることを説明したからである (図2.2.5
ブースト会議でマリオネネットを実演.足元でマイクを持っているのはOBの川合秀実君).紐で吊されたマリオネットが奥の深い世界であることは本物を見る
とよくわかる.7〜9本の紐を指などでコントロールするだけで,人形に命が宿る様子は見ていて飽きない.非常に少ないパラメータでマリオネットが制御され
ているところに,コンピュータ屋の感受性が働くのはよく理解できる.
久井君が,AbelsonとSussmanの有名な教科書にインスピレーションを受けてこのプロジェクトを発想したというのは,Lisp愛好家のPMに
とって喜ばしいかぎりである.これによってゴチャゴチャになりそうなシステムの基底デザインがいきなり非常にすっきりした.それにしても,小さなソフトハ
ウスに勤めている人に結構「隠れLisper」がいることに驚かされる.
図 2.2.5 ブースト会議でマリオネネットを実演.足元でマイクを持っているのは OB の
川合秀実君
この種のシステムで,一番問題になるのが制約解消系の設計と実装であるが,久井君の方針はなかなか現実的である.システム側に過大なことをさせず,ユーザ
にある程度の,しかし現実的に許容可能な範囲の負荷をかけて制約を記述させる.また,厳密なエラーチェックはさぼっている.いろいろなアニメを作成する場
合それがどのくらいの問題を生み出すのかPMにはちょっと読めないが,簡単なデモを見るかぎり,うまく制約ライブラリを蓄積していけば,一般ユーザやデザ
イナでも使えるレベルになるのではないかと思う.
もう一つ良かったのは,いささかユニークな組成のシステムの汎用性を高めるために,プラットフォームになるべく依存しない作り方を進めたことである.つ
まり,久井君は図形言語とストリームと制約を束ねた一つのCGアニメーション自動生成の,ある意味で抽象的な枠組を開発した.これをいろいろなプラット
フォームに移植することはそれほど難しくないと思われる.性能が問題になる家庭用ゲーム機のことを考えるとそのような設計論をとったのは正解である.その
うえで,具体的なプラットフォーム上での最適化を久井君は考えているようだが,これも実に正しいと思う.
しかし,残念ながら,MEPHISTOの上で力学的制約が必要になるバーチャルマリオネットを実装するまでにはいたらなかった.これは開発計画の具体化
の段階で見切りをつけたということである.久井君の簡易な制約システムに真正直に力学を取り込むのは性能のことを考えると容易ではない.また衝突判定も,
単純なモデルでは対処しきれないところがある.いずれも抜本的なアイデアが必要である.しかし,初心はぜひ貫徹してほしい.
久井君は勤めていた会社をプロジェクト期間中に退職して,次の新天地 (海外)
に向けて充電しつつの開発となった.PMの見るところ,彼の力をもってすると,もっと早くいろいろな開発が進んだと思うのだが,そうもいかない事情があっ
たのであろう.また,実装よりも設計に時間を要するプロジェクトであったとも言えよう.
そういえば,久井君のプレゼンはいつもどこかピントが外れたようなところがあった.文章は非常にしっかりしているのに,誰にどのようなことを伝えるべき
かのプレゼンのTPOをどこか見誤るような不思議な癖があると見た.このあたりは今後改善してほしい.
途中で面談したとき,まだちょっとバグの残っている人形の動きを見せてもらった.非常に不思議なステップのダンスを踊っているように見え,バグが思いも
かけぬ「創発」を生み出したように見えて,PMには大変面白く,こういうのをもっと突っ込もうよと言ったのであるが,バグのせいなので久井君は気に入らな
かったようである.こういった遊び心もあっていいと思うのだが….
いずれにせよ,とても面白い成果が出ている.これをどのように世の中に出すのか,久井君にはぜひとももう一踏ん張りしてもらいたい.
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