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2005年度下期 未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書(プロジェクト全体について)


 プロジェクトマネジャー: 竹林 洋一 (静岡大学 情報学部 教授)

 

 


1.プロジェクト全体の概要


 人間・環境・コンテンツをキーワードとして「豊かな価値の創出」という観点で上期に続いて公募を行った。多岐にわたる分野の37件の応募の中から社会的インパクトの大きい上位の提案を選び、ヒアリング審査をして下記の2件の提案を採択した。

  @稗方和夫・中澤崇・湊谷洋平・安藤英幸:業務プロセスに基づく文書管理システムShareFastの開発

  A野口喜洋(山之口洋)「紙のキーボード」:デジタルペンのための新しい日本語入力方式の開発

  審査にあたっては以下の点を重視した。

   @開発成果のインパクト(新しさ、魅力度、市場規模)

   A具体的なソフトウェアやコンテンツの実用化の可能性(3年以内)

   B提案者のプロジェクト遂行能力と注力度(充当時間、優先順位)

  2件の採択テーマは人間と情報環境およびナレッジ・コンテンツに関わり、人間社会を豊かにする内容を含んでおり、開発者は前向きで好奇心旺盛だった。このような状況を踏まえて、上期の個性的な採択者も交えて、開発者同士が相互に啓発し合うようなプロジェクト運営を行った。

  11月末に静岡大学情報学部(浜松市)で開催した上期採択プロジェクトの中間報告会を兼ねた公開シンポジウムへの自主参加を促し、上期の開発者との密度の高い意見交換を行う機会を設けた。その結果、竹林がPMとして採択した各々のプロジェクトの位置づけと意義重要性を互いに理解し共有できたと考える。

  下期開発者のキックオフは行わなかったが、1月末までに開発者と面談を行いながら各開発プロジェクトの目的目標を明確化し、具体的な実施計画の策定についてアドバイスをした。

  2月〜3月は各開発者と個別にメールと面談を通じて、開発目標の明確化とプロジェクトの進め方についてヒアリングとアドバイスを実施した。

  4月から5月にかけては、各プロジェクトの開発が急ピッチで進められ、5月13日のプロジェクトの中間報告を兼ねた公開シンポジウムを実施(場所:浜松)した。各プロジェクトの最終目標の明確化が進み、チャレンジングな実世界指向の研究プロジェクトの構想と中間成果はシンポジウム参加者には好評であり、未踏プロジェクトとしての意義重要性を再認識できたことは収穫であった。

  6月〜7月は最終成果のスペックと差異化要素、実用化について指導した。

  8月に入り各プロジェクトの具体的開発成果の確認と発展シナリオについてアドバイスを行い、成果報告書の具体的な内容と注力すべき点を絞り込んだ。

  829日と30日に大分県別府のB-Con Plaza(29)KKR別府翠山荘(30)にて3名のPM(中島、原田、竹林)が採択した15プロジェクトの最終成果報告会を一般公開で開催し、他のPMの開発者とともにこれまでの成果を開示した。稗方氏のチームと野口氏は、実世界で使えるレベルの完成度の高いソフトウェア開発という点で、優れた成果をあげたことを確認した。また、中島PMと原田PMの開発者の成果に触れて、多方面の未踏関係者と交流する良い機会となった。

  今回は、人間の創造的活動を支援するペン入力インタフェースと、ワークフローをベースに複雑な業務を支援するオープンソース・ソフトウェアが開発された。いずれも当初予定の水準を越えて、実用化に向けてさらなる発展が見込まれる。PMとして、才能あふれる開発者と試行錯誤を繰り返して開発に関与できた。研究と実用化の両方の観点からも見ても、当初予定を越える高い水準のソフトウェアが開発できたと考える。


2.プロジェクト採択時の評価(全体)


 2005年下期の公募では多様な分野のソフトウェア開発に関わる37の応募があった。審査にあたっては、公募の概要で提示したように、(1)開発成果のインパクト、(2)システムや応用の実用化の可能性、(3)提案者のプロジェクト遂行能力を重視した。

  上期に続いて公募の際のテーマ設定を広くしたので、様々な分野の提案があり、従来の未踏プロジェクトの枠には収まらないようなテーマも散見された。2005年上期の公募は「未踏分野の豊かな価値創出」を狙い、魅力度と実用化重視でコンテンツ関連の4件のテーマを採択したが、今回は開発者の能力を重視し、未踏性と社会的なインパクトが高く、短期間で相当レベルの成果が見込まれ、継続的な発展が開発終了後も期待できる2件のテーマを採択した。

  採択したテーマと代表者および採択理由を下記に示す。

 @稗方和夫・中澤崇・湊谷洋平・安藤英幸:業務プロセスに基づく文書管理システムShareFastの開発

    上記提案は、多種・大量のデータや文書を扱い、複雑な業務を柔軟に支援する文書管理システムの実用化を目指している。既にクライアント・サーバ型のシステムをオープンソース化しており、実世界での応用で評価改良を行うことにより、本格的システムが開発可能である。社会的に重要なテーマであり、提案者の意欲と資質という面でも未踏に相応しいので、採択と判定した。

  A野口喜洋(山之口洋:ペンネーム)「紙のキーボード」:デジタルペンのための新しい日本語入力方式の開発

    作家である野口氏が「紙」とデジタルペンを用いて日本語文章作成を支援する「文房具」の開発を目指している。従来型の日本語入力方式やペン型の入力装置とは異なり、漢字仮名まじりの日本語文の特徴に着目して「紙のキーボード」を発案し、効率的に日本語入力が行える方式を開発した。未踏性の高い提案である。一般ユーザでも使えるレベルまでシステム開発を進めることができれば広く普及する可能性があるので採択と判定した。

 

  以上が採択時の評価であり、社会的に価値のある魅力的なテーマと考えている。


3.プロジェクト終了時の評価


 今回採択した2テーマは実際の応用場面まで踏み込んだ未踏性の高いヒューマンインタフェースと知識コンテンツに関わっており、何れも当初の提案内容を上回る成果をあげたと評価する。両テーマともに卓越した成果をあげており、採択時に不透明だった部分や課題であった事項を解決し、実用化の段階に至っており、今後の本格的な事業化が期待される。

  稗方・中澤・湊谷・安藤氏は、ユーザ同士のワークフローの共有により知識の共有を促進する実用的なシステムを開発した。業務プロセスという新しい切り口による整理を行うシステムであり、メーカーの設計部門での試行とフィードバックにより実用的なソフトウェアを開発し、複数の応用の場で実証評価を行った。オープンソースの開発プロセスを導入することで、製造業以外の分野への展開を促進しサンプルシナリオにより他分野での有効性を実証した。

  野口(山之口)氏の本業は小説家であり、「紙のキーボード」とは、デジタルペンを用いて文章の執筆を支援する一連の技術である。「デジタルペン」は、紙に手書きしたペンのストローク(筆跡)を記憶し、後で接続したPCに転送して利用する機能を持つデバイスであり、紙とPCの2つの領域を橋渡しできる可能性を持っている。このプロジェクトでは、デジタルペンの持つペン先の位置検知機能に、ペンジェスチャ検知や手書き文字認識、自然言語解析などの技術を組み合わせ、日本語の文章入力を高度に支援してくれる携帯電子文具を実現した。小説家として継続的に実証評価実験を行っていただき、本格的に事業化を進めていただきたい。

  上述したように、各プロジェクトは当初の目標を基本的に達成し、目標を上回る成果を挙げることができた。開発者の皆さんは9ヶ月間という短い期間の間に未踏の開発テーマに注力し、真摯にコンテンツの意義や実用化について検討していただいた。PMとして大変嬉しいことである。

  当然のことながら、ソフトウェアやシステム開発の評価はPMだけが行うものではなく、将来の利用者や社会が決めることである。新たな価値の創出に向けて、今回開発した技術やシステムを発展させ、商品化や実用化を加速していただきたい。

 

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