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2005年度下期 未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書(プロジェクト全体について)


 プロジェクトマネジャー: 長尾 確 (名古屋大学 情報メディア教育センター 教授)

 

 


1.プロジェクト全体の概要

 

今回採択されたプロジェクト全体に渡るテーマは、Web 2.0+である。

Web 2.0Webの現在の状況を示す言葉であり、その特徴は、Webに参加する人たちがコンテンツを共同で制作したり、コンテンツをうまく使って新しい体験としたり、コンテンツを中心として人同士のつながりができたりする仕組みが実現されていることである。

本未踏プロジェクトは、その延長線上にあるものである。

さらに、Webから実世界へのリンクも考慮されている点が+αと呼べる部分である。

 

今回のプロジェクトはよくがんばったものとそうでないものに大きく分かれた。

がんばったものの中でも特に神原のプロジェクト「Web上で協同利用するイラストレーションツールの開発」の成果であるWillustratorと呼ばれるシステムはすばらしい。

これは、ドローツールのオンライン版でWeb上で共同で絵を描くことができる。

できあがった絵はブログ等で引用できるが、オリジナルを修正・加筆しようと思えば簡単にできる。

これは、絵の完成イメージだけでなく、そのソースコードと呼べるような絵の構成要素とその関係を保存し参照可能にしているからである。

これはオンラインのコンテンツ制作にとても大きな貢献をしていると考えられる。

 

また、後藤のプロジェクト「環境情報を記録し、多面的にメタデータを利用するデスクトップ」の成果であるDashSearchというシステムも非常によくできている。

これは、仕事の内容をそのときに行った単純なタスクやそのときの文脈に基づいて検索する仕組みであり、検索における新しいユーザーエクスペリエンスを提供している。

 

また、石戸谷のプロジェクト「知識・情報共有プラットフォームSoya」の成果Soyaはコンテンツのメタ情報一般を扱うためのフレームワークであり、コンテンツのオーサリングやアップロードとは異なるユーザー参加を促す仕組みである。

 

吉江のプロジェクト「よせがき教科書出版のためのHowToコミュニティサイト「yosemite」の開発」の成果yosemiteは、HowToコンテンツと呼ばれる、人が何かを始めるときの手順とその効果に関する記述、を共同で作成するためのオンラインツールである。

このように、コンテンツそのものを多様化する流れと、コンテンツの使われ方を多様化する流れがある。

 

また、川北のプロジェクト「ブロック型表示インターフェースの開発における位置認識システムの研究−「からくりブロック」」の成果であるからくりブロックと呼ばれるシステムは、物理的な行為と情報コンテンツを連動させる仕組みである。

Webを拡張する一つの重要な方法は、実世界の行為や表現を統合することである。

そのためにも、このシステムは重要な働きをするだろう。

 

鈴木のプロジェクト「Blographerの開発」の成果Blographerは、ブログを書くという行為と文章の内容を可視化するという操作を同時に行い、文章を効果的に扱うためのメタデータを比較的容易に獲得するためのシステムである。

 

小池のプロジェクト「コンテンツ流通システム"PICSENSE"の開発」の成果PICSENSEは、アートコンテンツを口コミで流通させるためのシステムである。

このように、コンテンツの作成、流通、拡張、再利用を促進する新しい仕組みを実現することができた。

ただし、一部のプロジェクトはきわめて完成度が低く、当初に相談して設定した目標に到達できなかった。

この点に関しては深く反省すべきだと考えている。

 


2.プロジェクト採択時の評価(全体)

 

これまでと同様に、プロジェクトを採択するにあたって、提案しているシステムに実現するべき本質的な意義があるかどうかを最も重要な基準とした。ただ、あったら便利だからとか面白いからとか、自分が使いたいからとかいう理由の提案は不採択とした。なぜなら、それは提案者の独りよがりである場合が多いからである。それよりも、社会的な動向や近い将来のニーズに合致すると筆者が判断する提案を優先した。

今回採択されたプロジェクトは、いずれもこの条件を満たしている。

 

たとえば、神原プロジェクトの目指したWillustratorと呼ばれるシステムは、Web上でイラストを容易に作成し、そのソースコードと呼べるようなイラストの内部データを共有し、部分的な修正や改変等の操作を自由に行えるようにしたものである。Web上で発見したイメージを、少し手を加えた後で自分のWebサイトでも利用したいと考えたことのある人は少なからず存在するのではないかと思う。本システムは、そのような要望に十分に応えることができる。この仕組みによって、ブログ等で、イラストを共有したり、協同で作成したりする活動が促進されるだろう。クリエイティブな人たちにより多くの機会とツールを提供しようという試みは高く評価できる。

 

また、後藤プロジェクトは、ウィジェットと呼ばれる単機能のアクセサリソフトの利用が、PC上の人間の作業内容と強く関連しており、デスクトップアクセサリの状態の組み合わせがトリガーとなって、そのときの作業内容を想起する助けとなる、という発想に基づいて、ウィジェットとメタデータを組み合わせて、単純な操作で作業内容を想起するシステムを目指した。ウィジェットはメインタスクの作業内容の一部を参照でき、任意のキーワードを選択すると、複数のウィジェットを連携させて複数の辞書を同時に検索することもできる。これも仕事のやり方に大きな変化を与え、検索効率を向上させる可能性があり大いに評価できる。

 

石戸谷プロジェクトは、以前の未踏プロジェクトにおいて開発した、オープンソースのメタデータ共有プラットフォームをさらに発展させ、さらにこのプラットフォームをベースとしたアプリケーションの開発環境の充実などを目指した。これは、地味だが重要なソフトウェア資産をさらによいものに発展させようとするものである。

 

Wikipediaのように、オンラインで不特定多数の人間が協同執筆できる事典が現れたこともあり、コミュニティによる協同コンテンツ制作という考えは一般的なものになりつつある。ただし、事典のようなそれぞれの項目がある程度独立しているものならともかく、教科書のような比較的長い内容を一貫性を持って不特定多数の人間が執筆するのは困難である。吉江プロジェクトは、それに対して、「○○をやるにはどうしたらいいか」というHowToの形式にして、学習者の疑問に答える形で、複数人でコンテンツを充実させていく手法を提案し、そのためのシステムの開発を目指した。

 

物理的なオブジェクトを操作することで、情報処理が連動し、文脈と関連したコンテンツを表示するシステムは、これまでにも数多く提案されてきた。ただし、それらのほとんどが、ディスプレイ装置が埋め込まれたテーブルの上でのみ操作可能なものであった。川北プロジェクトは、その点を改善し、物理オブジェクト自身が表示機能を持ち、場は位置関係などの文脈情報しか持たないという新しい手法の開発、および、そのためのコンテンツのオーサリング環境の開発を目指した。

 

鈴木プロジェクトは、Blographerと呼ばれる、ブログのテキスト入力作業中に簡単なインタフェースで図(語をノードとしたグラフ)が描くことができ、その結果を、テキストと共にイメージとしてブログに投稿できるシステムの開発を目指した。これによって、テキストのような内容理解にコストがかかるものを、グラフィカルに表現することによって効率的に要点を理解することができるようになる。これによってオンラインのコミュニケーションが大きく変わる可能性がある。

 

そして、小池プロジェクトは、絵やイラストのようなアートコンテンツの流通の仕組みとして、ブログ等のWebサイトの主旨や雰囲気とマッチした絵をプッシュ的に提供し、そのサイトの閲覧者がアーティストの作品を購入できるように誘導するという構想に基づいて、ブログの内容とイラストの特徴を感性的な評価によって結び付ける仕組みやブログオーサーがイラストを選択して自分のブログに掲載するシステムの開発を目指した。

 

以上のように、採択された各プロジェクトの提案は社会的動向やニーズと合致し、大いに将来を期待させるものである。

 


3.プロジェクト終了時の評価

 

先にも書いたが、今回のプロジェクトは、目標を適切に達成できたものとそうでないものに大きく分かれることになった。これは、PMとしての管理がうまくいかなかったためであるが、プロジェクトの担当者が、何が何でもよい成果を出さなければならないという責任感や使命感が大きく欠落していたためでもあると思われる。プロジェクト遂行中にPMとして何度も助言を行ったにも関わらず、それらが適切に反映されているかどうかの確認が不十分であった。大いに反省すべきだと思っている。

 

神原プロジェクトは、Willustratorの開発に成功し、公開サービスとすることができた。これは大変よい成果であり、今後このシステムを利用した画期的なコンテンツが制作されるであろう。

後藤プロジェクトも、DashSearchの開発に成功した。これはまだ公開されていないが、近日中に多少の不備を修正した上でダウンロード可能になると思われる。これもよい成果である。私は、個人的にも大変興味があり、すぐに利用したいと思っている。

石戸谷プロジェクトは、ほぼ開発が終了し、成果は、前回と同様にオープンソースとして公開され、その後はオープンソースコミュニティにその発展が委ねられる。ただし、肝心のサンプルアプリケーションの出来はよいとは言えない。多くの開発者はサンプルを見て、使えるかどうか判断すると思われるので、そのあたりを充実させるべきだろう。

吉江プロジェクトは、HowToコンテンツの共同著作環境を試行錯誤の末に開発したが、完成度はまだ低いものと思われる。早めに公開してユーザーからのフィードバックを元に改良していくべきである。

川北プロジェクトは、からくりブロック用コンテンツのオーサリング環境を開発したが、まだいくつかのバグが残っており、それらを解決した後に公開してもらいたい。

鈴木プロジェクトは、ブログを書きながらグラフを編集する、基本的な部分の実装を行ったが、もともとの構想にあった、グラフを引用・統合することによって、複数の人のアイディアが組み合わさって、可視化され、コミュニケーションを促進させるという部分はまったく手付かずであった。この点は非常に残念である。もう少し、PMの意見を素直に取り入れる努力が必要だったと思われる。

小池プロジェクトは、ブログの内容とイラストの特徴を感性的な評価によって結び付ける仕組みやブログオーサーがイラストを選択して自分のブログに掲載するシステムを試作した。ただし、最終報告会においてもその完全な動作を実演することができず、中途半端な結果になってしまった。今後、完成度を高める努力を継続して行ってくれることを期待する。

 

以上のように、よくできたものとそうでないものの差は歴然である。しかし、9ヶ月間という極めて短期間の間によく健闘したと考えてよいと思われる。

本当の意味でのプロジェクトの評価は筆者が行うものではなく、広く世の中にそれらがもたらしたものの価値を問うべきものだろう。一部のプロジェクトの成果は、無償公開(プログラムあるいはサービスの公開)によって一般に利用可能な形になっている。

これらの真の評価はこれから決まっていくことになると思われる。

 

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