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2005年度下期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書

 


1.担当PM

   長尾 確 (名古屋大学 情報メディア教育センター 教授)


2.採択者氏名

開発代表者

 小池 由理 (慶応義塾大学 政策・メディア研究科 修士1年)

共同開発者

 なし


3.プロジェクト管理組織


  株式会社 リオ


4.委託金支払額


  2,946,148


5.テーマ名


  コンテンツ流通システムPICSENSEの開発

 


6.関連Webサイト


  なし


7.テーマ概要


 アートと日常を近づけることにとってインターネットの普及は、誰もが発信者となれる環境を提供し、大きく貢献すると考えられた。しかし実際は、埋もれてしまっている作品は未だ多く存在すると考えられる。原因としては現状、文字情報以外の検索はコストが高いこと、アートには早急なニーズはない事から、検索への駆動力に乏しい事などが挙げられる。"picsense"はこれらのアートに自然な形で触れる機会を提供し、現在ネット上にあふれるコンテンツの流通を促すためのシステムである。検索コストを下げ、自然な形での視聴を実現する事で、コンテンツに触れる機会を増やし、一般的な検索では得られないコンテンツとの出会いを創出する。またクリエイタと閲覧者間のコミュニケーションを促進することで、フィードバックがおこり相互に発信し合うよりよい文化の形成を目指す。


8.採択理由


 絵やイラストのようなアートコンテンツの流通の仕組みとして、ブログ等のWebサイトの主旨や雰囲気とマッチした絵をプッシュ的に提供し、そのサイトの閲覧者がアーティストの作品を購入できるように誘導するという提案である。たいへん意欲的な試みだと思う。ただし、Webユーザーからデジタルコンテンツへの対価を引き出すにはさらなる工夫が必要であろう。Googleが現在のように受け入れられた理由の一つは、ユーザーからは一銭も料金を取らなかったことにあるという話もある。つまり、音楽コンテンツで一応の成功が見られていると思われるダウンロード購入の仕組みでさえ、ファイル交換ソフトによってかなりのダメージを受けていると思われるのに、本提案がこのままの形で成功する見込みはあまり高くないと思われる。しかし、期待できる部分も多いので、計画の見直しを検討していただくことを条件に採択とする。

 




9.開発目標


近年は環境という限りのある資源に気づいたことで、豊かさの基準を量から質へとシフトしようという動きがある。つまり大量消費、大衆文化といった画一的な価値基準から脱却し、各々の価値観に従って幸せを実現しようとする動きである。これを実現するには多くの手段があるが、その中の一つがアートである。アートがより日常的に存在する事は生活の質を向上させるという点で重要な意味を持っている。

アートと日常を近づけることにとってインターネットの普及は、誰もが発信者となれる環境を提供し、大きく貢献すると考えられた。 実際にデジタル作品を制作するクリエータは多くの人が自分のWeb ページを作成しており、作品を発表していることが多い。 しかし実際は、依然として、クリエイタは作品に触れてもらう場を満足に得るに至ってはいない。一方で同じ個人作成コンテンツであるブログがRSS やトラックバックなどの仕組みで双方に読者が行き来し、さらにアフィリエイトなどで収入を得るものもいるほか、カリスマブロガーなるものも出現するなど、私たちも日常的に情報を得るツールとなっている。さらにアートに触れる機会を求める一般ユーザーは増加しつつある。自分で作品を制作しないまでも、画像をはじめとするアートを用いて、自分が発信するweb サイトの表現の幅を広げよう、選択することで自己表現をしよう、というニーズは存在すると考えられる。

つまり、多くの人に自分のアート作品を伝えたいというクリエイタと、それを享受、再利用したいというユーザーは双方のニーズが一致する。しかし、これらのニーズが実際にはマッチしていない。この理由は様々なものが考えられるが、アート作品を選択する際の検索コスト、さらには検索するニーズが潜在していることがその大きな原因の一つである。これらの問題を解決し、ユーザーがアート作品に自然に触れる機会を与え、またアーティストが絵を発表し、コミュニケーションをとる機会を生み出すことを目標とする。


10.進捗概要


本プロジェクトでは自然な形でアート作品に触れる機会(クリエータにとっては発表の機会)、また手軽にもしくは自動的に自分の求めるアート作品が検索、表示できる仕組みを実現することを目的としてブログを利用したモデルを考案した。今回アート作品として対象とするのはクリエイタがオリジナルで提供するコンテンツのうち、感性が重要なファクターとなるアートの要素を持つもので特に視覚的なものである。例えば絵やflash,映画などのストリーミング映像などであり、これらを以下”アート作品“と表す。

モデルとしては、現在既にRSS やトラックバックなどの仕組みで流通がうまく行っている個人コンテンツであるブログにアート作品を装飾や表現の手段として利用してもらうことで、自然にアートに触れる機会を作れるだろう。つまり、アーティストの発表する機会を求めるニーズと、ブロガーの現在テンプレートなどを使っていること二もみられるような、自分のブログを装飾したいが、素材を作るまでは手間がかけられず、つい文字になりがちであるという現状へのニーズを結びつけ、従来は視聴者が作品に直接アクセスすることが必要でうまく言っていなかったアート作品の試聴を、ブロガーを介することで自然な形で結びつけようと言うモデルである。

彼らの現状とニーズとしてはそれぞれ以下のものがある。

1)クリエイタは多くの人に作品に触れてもらう機会が少ない。また、アートの感性に共感するものであるという性格上、現状の検索システムでは検索される事が難しい。

2)ブログなどのテキストのコンテンツを提供しているweb ライタは、それを装飾

し表現を助ける画像としてアート作品を利用することには潜在的なニーズがある。

著作権の問題がなく、適材なアート作品が検索コストをかけることなく発見、利用できれば、アート作品の流通は促進されると予想される。

3)web サーファは一般的なウェブの視聴者であり、アート作品に触れる事の潜在的なニーズはあるものの、普段は切羽詰まった必要性はないため、主体的に検索する同機としては乏しい。

上記のようにアート作品の発表の機会を求めるクリエイタとそれを用いたいサイト運営者、閲覧したい視聴者という潜在的なニーズの一致が成立しているにも関わらず、それをWIN-WIN に結びつけられていない現状がある。”picsense”はこれを実現する“アートコンテンツ”流通の仕組みを実現したものである。


11.成果


本プロジェクトでは、以下の機能を、設計、実装、テストと必要に応じたリファクタリングにより、テスト運用が可能なプロトタイプレベルの品質、性能を実現した。なお、コンテンツの収集とテストユーザによる試験運用を経て、10 月中にはサービスの提供を開始する予定である。

 

ユーザー情報の管理、知人関係の管理およびメッセージング機能

 

ユーザーが登録本システムを利用するために必要なユーザー登録をする機能。また、ユーザー登録後に、ユーザー自身が自分のプロフィール等を表示、更新する機能。これらのプロフィールは、一般的なソーシャルネットワーキングサービスと同様に、他のユーザーから参照される。ユーザーの知人関係の構築、管理。ユーザー間のメッセージ交換。等が行えるようになる。

図7−1:ユーザー登録画面

図7−2:ユーザー登録内容の表示

 

アーティストのアート登録機能

 

アーティストはアート作品のバイナリデータをこのシステムのサイトでまずアップロードする。さらにこのアートのタイトル、説明、関係する語句(タグ)、ジャンルなどを選択し、アップロードされた作品データがこれらのメタデータとともにデータベースに保存される。メタデータ付加後、システムへのアップロードを経てクリエイタの作品が”picsense”で流通される“アートコンテンツ”の候補として登録される。

またこの機能に関しては今後、色や形など絵そのものの情報を解析することも考えている。

 

図7−3:アート登録画面

 

 

ブログのテキストを取得するクローラ

 

ブロガーは”picsense”によって“アートコンテンツ”を自動配置するスペースを自サイト内に設定する。この際に、あらかじめ用意されたHTML タグをコピー&ペース

トするだけで設定ができる。ブラウザからこのタグが呼び出されると、 picsense”がそのエリアの周囲の情報を得る。周囲の情報を判別するソースとしては主に配置エリア周囲のテキストデータである。

 

 

アートの説明とブログの文章内容の近さを算出、ブログにマッチしたアートを表示する機能

 

picsense”を利用するサイトにアクセスすると”アートコンテンツ”のデータベースから候補を自動的に絞り込み、”アートコンテンツ”を表示エリアに表示する。方法としてはまず、クローリングされたブログの文章とアートのメタデータに対して形態素解析を行い、解析された単語でシソーラスに問い合わせを行い、感性に関係の深い180 語との距離を算出する。この180 語それぞれとの距離から、アートコンテンツ、ブログ双方のベクトルを算出し、このベクトルの距離を測ることでアートコンテンツとブログの距離を図ることとしている。なお、表示される”アートコンテンツ”は一通りではなく、各ベクトルの近さを確率として反映させているので、表示されるアートコンテンツはサイトを訪れるたびに変化する。

図7−4:アートコンテンツの埋め込み例

 

 

表示されたアートに対して視聴者が評価、投票する機能

 

コンテンツの視聴者はブロガーのサイトを訪問する事で自然に”picsense”が表示した”アートコンテンツ”を閲覧することができる。閲覧した”アートコンテンツ”はデータベースに履歴として登録され、以後の表示頻度に反映させる事ができる。さらにそのサイトにマッチした絵が表示されたか、不適切な絵が表示されなかったかという観点でレイティングを行うことができる。さらに自らの趣味に一致していた場合は後に紹介する機能を用いてお気に入りとして登録することができる。

この「投票」の結果は、サイトごとに蓄積され、このサイトに訪れるweb サーファ群の趣味嗜好のデータ、また不適切なアートコンテンツの排除の為のデータとして表示頻度の重み付けに用いたり、後に述べるブロガーによる表示アートの管理の際に参考にされる。また、web サーファそれぞれのページにお気に入りとしてコレクションされた”アートコンテンツ”は趣味嗜好のサンプルとしてパーソナライズされた各ユーザーごとの表示頻度の重み付けに利用できる。

 

 

ブロガーが自分のブログに掲載されるアートを管理する機能

 

ブロガーは自分のブログにどんな絵が表示されたかという履歴をエントリ(ページ)ごとに見ることができる。このとき自分の気に入らないアートが表示されていた場合や表示したいアートがあった場合には、自由に取捨選択をすることができる。

また、このときの参考として、アートコンテンツごとのユーザーによる投票の記録やサイトへのアクセス数などのデータをあわせてみることができる。

図7−5:アートコンテンツのブロガーによる管理画面

 

 

アートをレビューする機能

目にした”アートコンテンツ”に興味があった場合、それをクリックする事でそのアートの詳細ページにジャンプする事ができ、クリエイタの情報や他の作品についても情報を得る事ができる。一般的なレビュー機能を備えたSNS 機能も用意されるため、コメントを残すなどクリエイタとの交流をはかる事ができる。これらの評価やコメントはクリエイタへの有意義なフィードバックとなる。

図7−6:アートコンテンツのクリエイタ情報の参照画面

 

 

好きなアートやアーティスト、センスの近いセレクターを登録する機能

 

お気に入り”アートコンテンツ”を自分のページにもコレクションできる。“picsense”は各ユーザのコレクションを分析することで、関連する”アートコンテンツ”を推測し、Web サーファ一人一人ごとに表示の重み付けをかえる事ができる。また、同じような履歴を持つ人同士で嗜好にあった“アートコンテンツ”を類推し合う一種のソーシャルブックマークのような機能を実現したり、気に入ったアーティストや気に入ったセレクターの最新情報を得ることができる。

 

9 アーティストによるアートの管理機能

アーティストは自分のアートがどのブログに表示されているかを把握することができる。また、ブログを指定して掲載を依頼したり、掲載の停止をしたりすることもできる。

 


12.プロジェクト評価


本プロジェクトは、絵やイラストのようなアートコンテンツの流通の仕組みとして、ブログ等のWebサイトの主旨や雰囲気とマッチした絵をプッシュ的に提供し、そのサイトの閲覧者がアーティストの作品を購入できるように誘導するという構想に基づいて、ブログの内容とイラストの特徴を感性的な評価によって結び付ける仕組みやブログオーサーがイラストを選択して自分のブログに掲載するシステムを開発した。ただし、最終報告会においてもその完全な動作を実演することができず、中途半端な結果になってしまった。今後、完成度を高める努力を継続して行ってくれることを期待する。


13.今後の課題


本プロジェクトはまず開発したシステムの完成度を上げることが急務であるが、その他には以下のものがある。

1)アートのマーケットの創造と再利用の実現

クリエイタがマスの評価だけに左右されず、ファン個人の感覚によって正当に評価されるようになれば、オーダーメイドなどのニッチマーケットでも小さな流通を起こし、経済的収益を実現する事ができる。作品の背後に顔の見えるクリエイタの姿を明らかにするようなコミュニケーションを設計する事によって、購買の際の与信も担保する事ができるだろう。また、アートというコンテンツの性格上、再利用の際のパーツとしてのニーズも想定される。再利用時の権利問題の解決や、利益の配分などはメタデータの応用や電子補完通貨i-WAT3)を用いた例などいくつかの応用が得られる。これらの技術と“picsense”によるweb 上でクリエイタ同士のコミュニティが形成によって、コンテンツの更なる利用、仕事の斡旋など経済循環が期待できるであろう。

2)更なる検索機能の充実

これまでアートのおかれる環境について述べてきたが、ユーザのおかれる環境によっても短期的な嗜好(以下好みという)は変化する。ユーザがアートを選択する際の環境の情報(例えば天候、時間、同時進行するアプリケーション、連続ネットワーク接続時間など)を同時に取得する事によって、さらに検索の精度を上げる事ができる。

3)他コンテンツとのマッシュアップ

YouTube などの動画等をコンテンツの範囲を増やすことを考えている。アートを編集でVJ のように映像を作成するなどの二次利用の可能性を拡大させたい。その際にpicsense が提供しているコミュニケーションモデルは二次利用における著作権管理などに有効に働くと考える。



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