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2005年度上期 未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書(プロジェ クト全体について)



 プロジェクトマネジャー: 竹林 洋一 (静岡大 学 情報学部 教授)



1.プロジェクト全体の概要


 今回のプロジェクトでは人間・環境・コンテンツをキーワードとして「豊かな価値の創出」という観点で公募を行った。多岐にわたる分野の43件の応募があ り、その中から夢があり社会的インパクトの大きい上位の提案を選定し、さらに、ヒアリング審査をして下記の4件の提案を採択した。

  (1) 水野拓宏・山田暁通:ネットワーク複製時代に適応した放送番組流通システム
  (2) 井尻敬:植物のモデリングシステムの開発
  (3) 西本卓也・川崎隆章:ソーシャル・ネットワーキング型ラジオ番組のシステム開発
  (4) 長嶋洋一: コンテンツ制作用「使える音楽データ」自動生成システムの開発

 審査にあたっては以下の点を重視した。
  (1) 開発成果のインパクト(新しさ、魅力度、市場規模)
  (2) 具体的なソフトウェアやコンテンツの実用化の可能性(3年以内)
  (3) 提案者のプロジェクト実現能力とプロジェクトへの注力度(時間、思考)

 全ての採択テーマは偶然にも広い意味でのデジタルコンテンツに関わっており、開発者は何れも個性的かつ才能が豊かでレベルが高く実用化を意識していたの で、開発者の間のコミュニケーションを活性化し、ライバルとして刺激し合って、相互に啓発を促進するようなプロジェクト運営を心がけることとした。
 5月末〜7月末にかけて開発者と面談を行いながら各開発プロジェクトの目的目標を明確化し、具体的な実施計画の策定についてアドバイスを行った。
 7月16日に開催した非公開のキックオフ(場所:東京)では、少し緊張気味の開発者が研究テーマを想いを込めて紹介し、映像として記録した。お互いが魅 力的なテーマに取り組んでおり、一見したところ異なっているように思える開発テーマが、実は広い意味で「コンテンツ」というキーワードで関連しているとい うことをPMから示唆した。
 7月上旬〜8月中旬は各開発者と個別にメールと面談を通じて、合宿に向けて開発目標の明確化とプロジェクトの進め方についてヒアリングとアドバイスを実 施した。
 8月18日〜20日は、各プロジェクトの目標と開発計画の詳細化を合宿にて、率直に深く踏み込んだ議論(場所:屋久島)をした。各プロジェクトの進捗確 認とともに、開発者のプライドを高め、同時に競争心や意欲の向上を図ることができたことは収穫であった。
 9月から11月にかけては、合宿で刺激を受けて各プロジェクトの開発が急ピッチで進められ、11月20日〜21日のプロジェクトの中間報告を兼ねた公開 シンポジウムを実施(場所:浜松)した。各プロジェクトの最終目標の明確化が進み、シンポジウム参加者には好評であり、未踏プロジェクトとしての意義重要 性を訴え伝えることができたことは収穫であった。
 11月下旬〜1月下旬は最終成果のスペックと差異化要素、公開・実用化への道筋などについて個別に指導しながら、開発の状況に合わせて進捗フォローなど アドバイスを行った。2月に入り各プロジェクトの具体的開発成果の確認と発展シナリオについてアドバイスを行い、成果報告書の内容について指導した。

 3月18日には日本青年館(東京都・新宿区)にて3名のPM(高田、並木、竹林)が採択した11プロジェクトの最終成果報告会を一般公開で開催し、他の PMの開発者とともにこれまでの成果を開示し、多方面の関係者と交流する良い機会としてもらいたい。
 今回は広い意味のコンテンツ技術として、「デジタルコンテンツの流通と付加価値サービス」、「視覚的な植物のコンテンツの対話的デザインシステム」、 「次世代ネット放送局のコンテンツと環境デザイン」、「短い視覚コンテンツ向けのBGM音楽作成システム」が開発された。いずれも当初予定の水準を越え て、実用化に向けてさらなる発展が見込まれる。PMとして、才能あふれる開発者の皆さんと試行錯誤を繰り返して開発に関わり、開発者はそれに応えて真摯に 開発に取り組み、研究と実用化の両方の観点からも見ても高い水準を含む成果が複数有り、今後の日本のコンテンツ開発に明るい将来を見ることができた。



2.プロジェクト採択時の評 価(全体)


 2005年上期の公募の中で最も多い 43件の応募があり、審査にあたっては、公募の際には概要の項で説明したように、(1)開発成果のインパクト、(2)ソフトウェアやコンテンツの実用化可 能性、(3)提案者のプロジェクト実現能力を重視した。

 公募のテーマを広く設定したので、様々な分野の玉石混交の提案があり、従来の未踏プロジェクトの枠には入らないようなテーマも相当数あった。今回は「豊 かな価値創出」を狙い多少のリスクはあっても、将来性と魅力度という観点で採択テーマを決めた。業績があり自律心の強い採択者もいたが提案内容もすばらし かった。未踏性の高い新規分野の採択を行うように心がけたが、短い開発期間で相当レベルの成果が見込まれ、継続的な発展が開発終了後も期待できるテーマを 重点的に採択した。

 そのような観点で採択したテーマと代表者および採択理由を下記に示す。

 (1) 水野拓宏・山田暁通:ネットワーク複製時代に適応した放送番組流通システム
 ネット放送の課題である複製とビジネス開発に関する現実的で重要な提案であると評価した。番組提供者と視聴者中心のコピープリーズの概念は各種デジタル コンテンツに適応でき、新たなビジネスモデルは放送文化の発展につながる可能性がある。提案者のシステム開発能力と実用化への意気込みは優れており、コン テンツ収集など不透明な部分もあるが、開発成果は期待できる。

 (2) 井尻敬:植物のモデリングシステムの開発
 未踏ユースで開発した「花に特化したモデリングソフト」を発展させた提案であり、植物の構造を的確に表現するモデルと、ユーザの創造性を考慮した活け花 (華道)につながるシステム開発への提案は未踏的要素が強い。ユーザインタフェースをシンプルにし、無償で公開し、多くのユーザの獲得を目指すという意欲 も評価したい。

 (3) 西本卓也・川崎隆章:ソーシャル・ネットワーキング型ラジオ番組のシステム開発
 本提案は、「双方向インターネットラジオ」という現場での経験を発展させたものである。
 音声は人間の根源的なコミュニケションメディアであり、演劇や落語、放送局やアナウンサのノウハウを活用して、誰もが自分の考えを音声により「放送コン テンツ」として発信できるようなソフトウェアを開発し、地域や社会のコミュニティの活性化を狙うという試みは未踏性が高い。音声メディアの「通信」と「放 送」の実践的な融合研究として採択した。

 (4) 長嶋洋一: コンテンツ制作用「使える音楽データ」自動生成システムの開発
 ショートムービやフラッシュなどブロードバンド時代のデジタルコンテンツの多様化と普及が進んでいる。このため様々なデジタルコンテンツの背景音楽 (BGM)として気軽に「使える音楽データ」を自動生成し、提供するという意味で、本提案の重要性は高い。提案者の現場での経験や知識は豊富であり、著作 権問題も意識しており、実現性と社会的インパクトが高いので採択することとした。

 以上が採択時の評価であり、魅力的なテーマと開発者に出合えたと考えている。



3.プロジェクト終了時の評価


 今回の採択4テーマはともに広い意味 でのコンテンツに関わっており、何れも当初の提案を満足するか、あるいは、それを上回る成果をあげたと評価する。卓越した成果を出したテーマもあるが、採 択時に不透明だった部分や課題であった事項の解決が明示できなかったテーマもあり、今後の課題として取り組んでいただきたい。

 水野・山田さんは「コピープリーズ」のコンセプトに基づきコンテンツ流通モデルを提案し、コンテンツ登録・管理サーバやコンテンツ情報提供・コミュニ ティサーバソフトウェアなどを開発した。システムの柔軟性と完成度は高く、コンテンツを複製自由な形で流通させることと、コミュニティ形成システムを融合 して開発することによって複製権以外の権利によって番組制作者の利益を確保する枠組みを実現できたことの意義は大きい。ネットワーク時代の新しいコンテン ツ文化に寄与すると評価できる。

 井尻さんは未踏ユースの経験者であるが、手描きストロークによる3次元モデリング技術を植物のデザインに特化させることにより、極めてリアリティの高い 植物モデルを生成可能なシステムを開発した。特筆すべき点は、一度に細部まで描かずに、ラフスケッチで植物全体のデザインを行ない、徐々に3次元モデルに 置き換えていくというプロセス(Coarse-to-fineプロセス)である。この斬新な発想により Flower Arrangement などの複数の花から構成されるモデルを、よりユーザの意図を反映させてデザインすることを可能とした。また、開発したシステムは、コピーの生成、ビルボー ドの自動置き換え、3次元カーブ変形機能など、効率的な3次元形状モデリングをサポートするインタフェースを備えている。生け花のように意図的に複数の花 をモデリングし、かつそれらをアレンジするモデル構築の方法論は卓越している。システムとしての完成度も高く、シンプルな構造でリアルに植物を表示するモ デリング体系は他分野への応用へのさらなる展開と進化を期待したい。

 西本・川崎さんは、従来は誰も手がけていなかった「肉声による投稿参加型番組」の制作に本格的にチャレンジしたことを評価したい。ラジオ番組の制作現場 でのコスト削減をはかり、ラジオ放送を「より開かれ」「より行動的に」「よりアトラクティブに」変革できる見通しを得ることができたことの意義は大きい。 FM放送局での実運用の経験を深めることにより、新たな音声情報発信を促進することが可能となるので、今回のラジオ局での実運用システムを評価改良し、ラ ジオ局の変革を促し、自分の考えを音声により「放送コンテンツ」として発信できるようなシステム開発への進化・発展を期待したい。

 長嶋さんは、近年注目を集めているフラッシュ作品を対象として実用に耐えるクオリティのBGMを自動作曲するシステムを構築した。著作権の問題をクリア し、完全フリーの素材として利用可能とした点は高く評価できる。現行システムでは開発者独自の芸術的視点により基づき「使える音楽データ」を自動生成する ためのルールが組み込まれている。このため、「FMC3」という一人の作曲家による楽曲をユーザに提供することとなり、作風の幅という点では物足りなさが 残る。システムのソースを公開している点も評価に値するが、音楽理論を暗黙知としてそのまま実装されている段階である。今後、システムの構成要素を形式知 化し、作曲プロセスの構造を追求することによって、ユーザと応用の世界が拡がるような本質的な検討も期待したい。

 上述したように、各プロジェクトは当初の目標を基本的に達成し、目標を上回る成果を挙げることができたテーマも複数あった。開発者の皆さんは9ヶ月間と いう短い期間の間に未踏の開発テーマに注力し、真摯にコンテンツの意義や実用化について検討していただいた。PMとして大変嬉しいことである。

 しかし、ソフトウェア、コンテンツ、サービスの開発の評価はPMが行うものではなく、将来のユーザや社会が決めることである。新たな価値の創出に向け て、今回開発した技術やシステムやコンテンツを発展させ、商品化や実用化を加速していただきたい。


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